「人生100年時代」と言われる現代。20代でも早いうちから資産形成を進めることが求められています。一方で、どのように投資・資産運用の目利き力を磨いていけばいいのか、悩んでいる方は多いのではないでしょうか。
この連載では、20代の頃から仮想通貨や海外不動産などに投資をし、現在はインドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、投資・資産運用にまつわる知識や実体験、ノウハウ、業界で面白い取り組みをしている人をご紹介します。
今回は、投資型クラウドファンディング事業やIFA(独立系フィナンシャル・アドバイザー)事業を展開する株式会社クラウドファンディングの伊東修氏にインタビューしました。
伊東さんが代表をされている株式会社クラウドファンディングの会社案内には、冒頭に「なぜ日本にはアップルやアマゾンのような企業が生まれないのでしょうか」という問いかけがあり、「投資がなければ、アップルやアマゾンは存在すらしていない可能性が高いです」と書かれています。
僕にとってはその言葉がとても印象的で、「日本からGAFAのような企業が輩出されないのは、未来への投資ができていないからか」と感じました。
そこで伊東さんには、投資についてのお話を中心に伺いました。
経歴
中学時代に投資の世界に生きることを決め、2002年に野村證券株式会社入社。3年連続で全国同期中トップの営業成績を収める。自ら新規開拓した顧客のみでの3年連続トップは野村證券史上初。
2006年にヘッドハントされ、米モルガンスタンレー証券に入社。法人営業に従事しながら、リーマン・ショックさなかの2008年に同社のヴァイスプレジデントに昇格する。
2013年に独立し、株式会社クラウドファンディングを創業。2014年に第2種金融商品取引業を登録。インターネットで事業投資ができる直接金融プラットフォーム『jitsugen』と、証券会社と営業パーソンを選ぶことができるプラットフォーム『投資のパートナー』を運営している。
著書に『本音だけで売れる: 野村證券で3年連続トップになった営業法(きこ書房)』『元・野村證券トップセールスが完全解説! 投信の売り方(近代セールス社)』がある。
「金融が誤解されていること」に気づいた証券マン時代
――本日は、ありがとうございます。今回は、伊東さんが運営されている直接金融プラットフォームのjitsugenのお話を中心に、投資についてお伺いできればと思います。投資の世界に生きると決めたのは、かなり早い段階だったのですよね?
伊東氏:そうですね。決めたのは中学生の頃です。株の仕組みがわかる本を親から薦められて興味を持ちました。世の中の動きや仕組みに関心があったのです。それで証券会社の仕事に興味を持つようになり、高校生の頃には証券会社のセミナーに親と一緒に参加したりもしました。大学に進むと、簿記やFPの勉強をするようになりました。
学生時代はソフトバンクの株主総会に参加したりして、「こういう仕組みで社会は回っているのか」と感じる良い機会になりました。
――大学卒業後に、野村證券を選んだのもその流れなのですね。
伊東氏:はい。就職活動では証券会社しか受けず、業界トップだったので野村證券に迷いなく入社しました。
入社して痛感したのは、認識とのギャップです。野村證券の営業であれば、お客様に話を聞いていただけると思っていたのですが、「投資はギャンブルでしょ」と、怒っている感じで全く聞いていただけませんでした。
当時は不況で、銀行破たんもあり、「日本も破たんする」などと言われ、株価は下がる一方でしたから「株は儲からない」という先入観の強い時代でした。「株は悪」「株はギャンブル」と、会話以前の問題で。
日本経済が発達・成長したのは、株式市場が要因のひとつであることは間違いないのですが、そんなことをお伝えしても理解はされません。「そうだよね」とはならないわけです。投資というものに対して、とても大きな誤解や乖離があると感じました。株式投資には「企業を応援する」側面もあるのですが、株を買っているというよりは株価を買っている感じで。
金融は誤解されていて、これを解消しないと金融リテラシー云々の話にならないと痛感したのが野村證券時代でした。
入社1年目から「投資によって商品やサービス、雇用が生まれる世の中をつくっていきたい」と、起業したい気持ちはずっとあったのですが、起業には信用力が必要ですから、まずは信用力を磨くことに集中しました。それで、営業成績でトップを取ろうと考えました。社会人としても使命ですし、トップセールスになることで道が切り開かれ、そのプロセスで学びもあるだろうと感じたからです。
人柄だけではトップは取れない、営業ができるとは言えないと考えていて「営業を理論化したい」という気持ちがありました。
なぜこの金融商品なのか、なぜこのタイミングなのかなぜお客様が対象なのか、なぜ野村證券なのか、なぜ担当は私なのか、なぜこの投資額なのか…という数々の検証をさせていただくのが営業なのではないかと気づき、2年目からトップになることができました。トップ成績1年間だけでは弱いと考えて、結果的に3年連続でトップを取ることができました。多くの人のアドバイスのおかげです。
その後は、当時世界一だったモルガンスタンレー証券に直接スカウトされました。「外国人投資家が買っているから買い」とよく言われるのですが、その本質を知りたかったので入社を決めました。
機関投資家営業の部署に配属され、機関投資家がどのようなルールに則って運用しているのかを学ぶことができました。外資系証券がどのようなリサーチをしているのかを深く知ることができましたし、なにより良い経験になったのは毎朝アナリストに質問して直接コミュニケーションを取れる機会があったことです。
――それは極めて良い経験ですね。一生ものの資産ですよね。羨ましいです。
「投資で世の中を良くする」ためのクラウドファンディング
――その後、株式会社クラウドファンディングを創業されるわけですが、なぜクラウドファンディングに着目したのでしょうか? 社名もストレートで良いですよね。
伊東氏:投資で商品やサービス、雇用が生まれる世の中をつくっていきたいという気持ちはずっと持っていたので、それを実現しようと起業を決めました。投資によって世の中が変わっていく社会を形にできるのがクラウドファンディングだという確信があって。 起業当時は株式投資型のクラウドファンディングはまだなく、法律もありませんでした。当時はクラウドファンディングという言葉もメジャーではなかったので、この言葉を広めていきたいという想いもあって社名にしました。
――起業後に最初に手掛けたのは、「おいしいプラス」というお弁当事業ですね。
伊東氏:「おいしいプラス」は、肥満と病気を世の中から減らすことを目指し、おいしくて低糖質・無添加・低塩分で身体に良いお弁当づくりにチャレンジした事業です。江﨑新太郎さんという、日本料理店「えさき」のシェフが代表を務めています。
「えさき」は、ミシュランガイド東京で7年連続三つ星を獲得するほどの名店です。投資によって、おいしいプラスという会社やサービス、お弁当を生み出すことができました。
――江﨑さんは、最初からクラウドファンディングについて理解してくださったのですか?
伊東氏:もちろん、「わけがわからんから帰ってくれ」と言われました。一度撤収して、「1カ月後にもう一回会ってほしい」と伝え、コンニャクを混ぜたハンバーグをひたすらつくって持って行きました。BGMもない日本料理店のシーンとした静かな緊張感のある店内で、カバンからハンバーグを取り出すと、江﨑さんが奇跡的に食べてくれて。「おいしい」と一言言ってくださいました。
素人の私がつくってもおいしいのだから、江崎さんがつくれば世の中を変えられるとお伝えし、「確かにやりがいがある」と大きな夢に向かっていくことを決めていただくことができました。その瞬間は、なにものにも代え難い感情を覚えましたね。
初めてのことでしたので「本当にお金は集まるかな?」との心配は多少ありましたが、投資は「チャレンジできる環境」をつくる重要な役割であると再確認できました。
他には、「モビリティファンド」というEVトラック等の証券化を行っています。初期コストを抑える(投資家に持ってもらう)ことで、運送会社のキャッシュフローが改善されます。例えばEVは初期コストが高いのですが、リースで収益化していく仕組みが作れます。運送会社には、財務安定強化や用途に応じた車両の利用、低いリース料などのメリットが見込まれます。一方投資家には、新たな投資機会、SDGsへの貢献などのメリットが得られる可能性があります。
「所有から使用へ」と言われますが、使う側は使うことに意義があるのであって、所有することは重要ではありません。例えば、新幹線に乗るときに誰が所有しているか考えて乗らないですよね。将来的に自動運転になれば、誰の所有かはますます重要ではなくなります。
EVトラックだけでなく、例えば病院やクリニックが高度な医療機器を導入するときも同様です。高くて買えないと使用できない。患者さんに良い医療を提供できないとなってしまうのですが、投資家が初期コストを負担すればリースで使えて、良い医療を提供できるようになります。投資の力をもっともっと活用して、モビリティファンドのような投資の在り方を広めていきたいです。
クラウドファンディングは、インターネットで内容を確認して投資できる仕組みです。こっそり陰でよくわからない投資契約で取引するのではなく、公開して行います。金融商品取引業の電子募集取扱業者登録をして、金融商品取引法に則って投資を募りますが、弊社はこの登録をしています。
新しいサービスや事業の創出に貢献したいと考えています。
――素晴らしい仕組みですよね。次回は、株式会社クラウドファンディングならではの強みについても教えてください。
(後編に続きます)