「人生100年時代」と言われる今、20代からの資産形成は待ったなし。とはいえ「投資の目利き力、どうやって磨く?」と悩む人も多いはず。本連載では、20代から仮想通貨や海外不動産に挑戦し、いまはバリ島でデベロッパー事業、日本では経営戦略アドバイザーも務める中島宏明氏が、投資・資産運用の知識や体験談、そして業界の注目トピックを紹介します。

今回のテーマは、「ビットコインとブランド」です。

  • ※画像はPIXTA

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ビットコインはなんのブランドなのか

前編では、営業とは「人が売ること」、マーケティングとは「仕組みによって売れる状態をつくること」、そしてブランドとは「売り込まなくても自然に選ばれる状態」ではないかと考えました。

ビットコインには、ブランドマネージャーも広報部も広告宣伝部もありません。それでも17年にわたって世界中で使われ、批判され、検証されながら、「暗号資産といえばビットコイン」と想起される存在になりました。

では、ビットコインはなんのブランドなのでしょうか。

一般的には「デジタルゴールド」と呼ばれることが増えました。しかし、ビットコインが持つブランドは、それだけでは説明しきれません。

ビットコインには、価値を保存する「デジタルゴールド」、インターネット上で生まれた「オンライン上のネイティブカレンシー」、そして国境を越えて価値を移転する「グローバルペイメントサービス」という、少なくとも3つの側面があります。

ビットコインは「デジタルゴールド」になったのか

ビットコインを説明するとき、現在最も広く使われている言葉の一つが「デジタルゴールド」です。

ゴールドは、だれかが自由に発行量を増やせるものではありません。採掘できる量に限りがあり、腐食しにくく、長い歴史の中で価値の保存手段として認識されてきました。

ビットコインも、発行上限が約2100万BTCに定められ、新規発行量が定期的に半減する設計になっています。中央銀行や企業の判断によって、供給量を自由に増やすことはできません。こうした希少性が、ゴールドとの共通点として語られてきました。

ただし、ビットコインがゴールドと同じ地位をすでに確立した、と言い切るのは早いでしょう。ゴールドには数千年にわたる価値保存の歴史があります。一方、ビットコインの歴史はまだ17年ほどです。価格変動も大きく、経済危機や地政学的リスクが起きるたびに、必ず「有事のビットコイン買い」が起きるわけでもありません。

株式などのリスク資産と一緒に売られる局面もあれば、法定通貨への不信や財政不安を背景に買われる局面もあります。したがって現時点では、「インフレヘッジとして完全に機能する資産」というより、将来のインフレや通貨価値の低下に備える選択肢として認識され始めた資産と捉える方が適切でしょう。

それでも、2024年には米国で現物ビットコインを保有するETPの上場・取引が承認され、従来の証券口座を通じてビットコインにアクセスできる道が広がりました。SECは承認がビットコイン自体への推奨を意味するものではないと明記していますが、既存金融の枠組みの中で取り扱われるようになったことは大きな変化です。

ビットコインは、まだ完全なデジタルゴールドではありません。しかし、「デジタルゴールドになる可能性を持つ資産」というブランドは、着実に形成されつつあります。

インターネットには、インターネット生まれの通貨が必要だった

ビットコインの第二の側面は、「オンライン上のネイティブカレンシー」です。私たちはインターネット上で買い物をし、仕事をし、動画や音楽を楽しみ、世界中の人とコミュニケーションを取っています。

しかし、そこで使っているお金の仕組みは、基本的にインターネット以前につくられたものです。

クレジットカードはカード会社や加盟店管理会社を介し、銀行送金は銀行の営業時間や国ごとの金融システムに依存します。画面上では数秒で決済が完了したように見えても、裏側では複数の事業者による照合や精算が行われています。

これに対し、ビットコインは初めからインターネット上で価値を移転するために設計されました。サトシ・ナカモトが発表した論文のタイトルは、「Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System」です。その目的は、金融機関のような信頼される第三者を介さず、当事者同士がオンラインで直接支払いを行える仕組みをつくることにありました。

ビットコインには、紙幣も硬貨もありません。物理的な本店も、中央サーバーもありません。インターネット上で生まれ、保有され、送受信され、取引履歴がネットワーク上で検証されます。単に既存通貨をデジタル表示したものではなく、インターネットの存在を前提として生まれた通貨なのです。

電子メールが、手紙を画像に変換しただけのものではなかったように、ビットコインも、紙幣を画面上に移しただけのものではありません。電子メールによって、世界中の人がほぼ瞬時に情報を送れるようになりました。ビットコインが目指したのは、その価値移転版だったと考えることもできます。

世界中で共通のプロトコルを使い、特定の国や企業のサービスに閉じることなく価値を送る。この「インターネットそのものに組み込まれた通貨」というイメージも、ビットコインブランドを支える重要な要素です。

「通貨」であると同時に、グローバルな決済ネットワークでもある

ビットコインの第三の側面が、「グローバルペイメントサービス」です。私たちはビットコインを、価格が上下する「資産」として見がちです。しかしビットコインは、価値を記録して移転するためのネットワークでもあります。

銀行口座を持つ人同士でなくても、対応するウォレットがあれば、ビットコインを送受信できます。送金先が同じ国にいるのか、別の大陸にいるのかによって、プロトコルそのものが変わるわけではありません。

もちろん、ビットコインの基盤層だけですべての日常決済を処理することには、処理速度や手数料などの課題があります。そのため、少額・高頻度の決済を補う仕組みとして、ライトニングネットワークなども開発されてきました。

例えばCash Appでは、ビットコインの通常ネットワークとライトニングネットワークを使った送受信に対応しています。PayPalも、対象地域では暗号資産の売買・保有・外部送金に加え、暗号資産残高を利用した加盟店での支払い機能を提供しています。サービス事業者が間に入る形ではあるものの、生活者がビットコインを「保有する」だけでなく「送る・使う」ための接点は広がっています。

この点でビットコインは、VISAやPayPalなどとまったく同じサービスではありません。VISAやPayPalは企業が運営する決済サービスです。一方、ビットコインは企業の外側に存在するオープンなネットワークであり、その上に企業や個人がウォレット、取引、送金、決済などのサービスを構築します。

つまり、特定の決済サービスと競争するだけではなく、複数の決済サービスが接続できる共通基盤にもなり得るのです。

FTX事件が浮き彫りにした「ビットコインか、それ以外か」

2022年に起きたFTXの破綻は当時、暗号資産業界に対する大きな不信を生みました。FTXの創業者は、顧客資金の不正流用など複数の罪で有罪となり、2024年に禁錮25年を言い渡されています。これはビットコインの仕組みが破綻した事件ではなく、中央集権的な取引所と、その経営者による大規模な事件でした。

しかし、一般の人から見れば、取引所もトークンもビットコインも、すべて「暗号資産業界」で起きた出来事です。だからこそ、この事件は逆説的に、ビットコインとそれ以外の違いを浮き彫りにしました。

多くの暗号資産には、なんだかんだ言っても発行主体や運営企業、財団、中心的な創業者が存在します。経営判断や資金管理、規制対応の失敗が、プロジェクト全体の価値を大きく損なうこともあります。

一方でビットコインには、顧客資金を流用するCEOも、倒産する運営会社もありません。もちろん、ビットコインを扱う取引所や事業者が問題を起こす可能性はあります。しかし、それはビットコインのネットワーク自体とは分けて考える必要があります。

FTX事件以降、「暗号資産を一括りに評価するのではなく、ビットコインとその他を分けて考えるべきだ」という見方が強まったのは、ビットコインのブランドにとって重要な変化だったと私は考えています。

ブランドになると、競争相手そのものが変わる

ブランドが確立すると、比較される相手が変わります。ビットコインは当初、数ある暗号資産の一つとして見られていました。しかし現在は、他の暗号資産だけが比較対象ではありません。

価値保存の手段として見れば、ゴールドや国債、法定通貨と比較されます。オンライン上の通貨として見れば、ドルやユーロなどの法定通貨、ステーブルコインと比較されます。決済・送金ネットワークとして見れば、銀行送金、カードネットワーク、PayPalなどの国際決済サービスと比較されます。

これは、ビットコインが「暗号資産市場の中でどれが勝つか」という競争から、お金や価値移転の仕組み全体の中で、どのような役割を担うかという競争へ移りつつあることを意味します。

ブランドになるとは、同じカテゴリーの中で有名になることだけではありません。その存在がカテゴリーの境界を越え、社会の中で新しい比較軸を生み出すことでもあります。

暗号資産は、ビットコインだけでいいのか

「暗号資産なんて、いっそビットコインだけになればいい」

これは少し乱暴で、挑発的な意見かもしれません。イーサリアムにはスマートコントラクトの基盤としての役割があり、ステーブルコインには価格を安定させながらオンチェーンで決済する役割があります。セキュリティトークンやRWAなど、ビットコインとは異なる目的を持つ仕組みも発展しています。

したがって、技術や産業全体を考えれば、ビットコインだけですべてを置き換えられるわけではありません。一方、一般生活者の視点では、「何千種類もの暗号資産から自分で安全なものを選んでください」という世界は、あまりに複雑です。

発行者は信頼できるのか。供給量は自由に変更されないのか。運営企業の資金管理に問題はないのか。規制上のリスクはないのか。こうしたことを一つずつ調べるのは簡単ではありません。

その中で、「まずビットコイン」という選択肢が生まれること自体が、ブランドの強さなのでしょう。

ビットコインが将来、デジタルゴールドになるのか。オンライン上の通貨になるのか。グローバルな決済基盤になるのか。あるいは、そのすべてを部分的に担うのかは、まだ決まっていません。しかし、だれもブランドを管理せず、だれも広告戦略を統括していないにもかかわらず、17年間にわたって世界中で使われ、試され、残り続けてきました。

ビットコインが築いた最大の資産は、価格ではないのかもしれません。「ビットコイン」という名前を聞いたときに人々が思い浮かべる、希少性、分散性、自由な価値移転、そして何度否定されても消えなかったという履歴。その蓄積こそが、ビットコインが17年かけて築いたブランドなのです。