「人生100年時代」と言われる今、20代からの資産形成は待ったなし。とはいえ「投資の目利き力、どうやって磨く?」と悩む人も多いはず。本連載では、20代から仮想通貨や海外不動産に挑戦し、いまはバリ島でデベロッパー事業、日本では経営戦略アドバイザーも務める中島宏明氏が、投資・資産運用の知識や体験談、そして業界の注目トピックを紹介します。
今回は、近年社会課題になっている獣害に関して、最先端技術を活用した獣害対策AIシステムを開発しているゼロフィールドの平嶋さんと、秋田県立大学 木材高度加工研究所の野田龍准教授にお話を伺いました。
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株式会社ゼロフィールド 代表取締役 CEO 平嶋 遥介氏/上智大学理工学部情報理工科、上智大学院理工学研究科卒業後、NTTデータに入社し銀行向け勘定系共同センターへの機能追加・開発などを担当。2017年に株式会社ゼロフィールドを創業し、暗号資産関係のビジネスを展開。金融系システムやブロックチェーン関連の深い知識と豊富な経験を有しており、CTOとして開発チームを牽引しながらも、経営者として成長の道を歩む。2023年8月より代表取締役CEOに就任。
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秋田県立大学 木材高度加工研究所 准教授 野田龍氏/森林・土木分野を専門とし、ツキノワグマをはじめとする獣害対策や、野生動物の行動特性に基づく被害軽減を研究。治山コンサルタントとしての現場経験も持つ。動物忌避技術の開発にも取り組み、「動物忌避用杭」「熊忌避杭」に関する発明で秋田県知事賞などを受賞。ゼロフィールドのAI野生動物対策プロジェクトでは技術監修を担う。
クマ、イノシシ、シカ……深刻化する獣害にAIはどう向き合うのか
クマの市街地出没、イノシシやシカによる農作物被害、鳥類による果樹・水田への被害――。野生動物による被害は一次産業だけの問題ではなく、住民の安全、観光施設、公共交通、インフラ、防犯にも関わる社会課題になりつつあります。
こうした課題に対し、AIを活用した野生動物対策プロジェクトを進めているのが、株式会社ゼロフィールドです。同社は、AI野生動物撃退装置「モリフクロウ」を開発。野生動物の行動研究を専門とする秋田県立大学 木材高度加工研究所の野田龍准教授が技術監修として参画されています。
今回の取材を通して、獣害の現状、従来対策の限界、AI活用の可能性、そして「人と野生動物の共生」について掘り下げます。
――まず、日本における獣害の経済損失について教えてください。クマ、イノシシ、シカ、鳥類などによる被害は、どの程度の規模になっているのでしょうか?
野田准教授:獣害の中で、統計として最も把握されているのは農作物被害です。農林水産省が毎年、都道府県別の被害金額を取りまとめています。被害の中心はシカやイノシシで、そのほかカラスなどの鳥類、サル、クマによる被害もあります。
全体では、毎年おおむね150億円から200億円規模で推移しています。令和6年度のデータでは約188億円となっており、近年は増加傾向にあります。シカやイノシシによる被害は全国的に見られ、東北や九州などでも深刻です。特定の地域だけの問題というより、日本全体の課題と捉えた方がよいと思います。
――獣害というと、農家の方の問題という印象を持つ人も多いと思いますが、いまはそれだけではないのですね。
野田准教授:そうですね。農作物被害が大きいのは事実ですが、近年は報道のとおりクマが市街地に出没するケースも増えています。住民の安全に関わる問題ですし、学校、公園、病院、観光施設、キャンプ場、ゴルフ場など、人が集まる場所にもリスクがあります。鉄道や高速道路に関わる被害も無視できません。新幹線を止めざるを得ない、夜間の保守作業員の安全をどう守るか、といった問題にもつながります。
電気柵、ネット、案山子……従来対策には限界も
――これまでの獣害対策には、どのようなものがあったのでしょうか?
野田准教授氏:鳥類であれば、田畑をメッシュ状のネットで囲う鳥ネットや、凧のように鳥の形をしたものを揺らして威嚇する方法があります。シカやイノシシに対しては、電気柵、高い柵、木の幹へのネット巻き、トタン板や波板で畑の周囲を囲う方法などがあります。案山子も今でも使われています。
ただ、動物は賢いので学習します。最初は警戒しても、時間が経つと「これは危険ではない」と覚えてしまうことがあります。特にイノシシは地面を掘って侵入しますし、シカは高い柵を飛び越えることもあります。対策には労力も費用もかかりますが、それに見合う効果が得られないケースも少なくありません。
――クマの場合は、さらに難しそうですね。
野田准教授氏:街中にクマが出てくる場合、電気柵のような対策を設置できる場所は限られます。山林や農地で有効な対策が、市街地や公共施設でそのまま使えるとは限りません。住民の安全を守るには、早期に検知し、近づけない仕組みが重要になります。そこでAI画像認識のような技術に期待が出てきます。
モリフクロウは「検知して終わり」ではなく、判断し、対処し、記録する
――ゼロフィールドが開発しているモリフクロウは、どのような仕組みなのでしょうか?
平嶋氏:モリフクロウは、単なる撃退装置ではありません。カメラ映像をAIが解析し、対象物を検出します。そのうえで、それが脅威なのかどうかを判断し、必要に応じて音や光などの装置と連動して撃退処置を行います。対応した映像や履歴は保存され、管理者にリアルタイムで通知することもできます。
重要なのは、「何かが映ったら全部反応する」のではなく、AIが対象を識別し、条件に応じて対応できる点です。人や車、動物などを見分け、必要なときだけ対処することで、誤作動を抑えながら運用できます。
導入面では、既存のカメラ設備を活用できるという特徴もあります。専用カメラを一から設置するとなると、コストや工事の負担が大きくなります。モリフクロウは、既存環境に追加する形で導入しやすい設計にしています。また、電源が取りにくい場所ではソーラー電源への対応も想定しています。自治体、農家、観光施設、工場、学校など、現場によって事情は異なりますので、なるべく柔軟に使えることを重視しています。
「渡りに船だった」専門家が見たAI活用の意義
――野田先生は、モリフクロウの取り組みを最初に聞いたとき、どのような印象を持たれましたか?
野田准教授:率直に言うと、「渡りに船」でした。私自身も、こうした仕組みが必要だと考えていましたので。ただ、私の専門は野生動物や森林・土木分野であり、AIシステムを自分で構築できるわけではありません。そこでゼロフィールドさんから話を聞き、AI画像認識を活用した対策は、費用対効果の面でも非常に可能性があると感じました。
特にクマ被害の場合、街中に出てきたクマへの対応が課題になります。山中にいるクマをむやみに駆除する必要はありません。しかし、人の生活圏に入ってくる前に検知し、近づかせない仕組みは必要です。AIを使えば、人が常時見回らなくても、危険な兆候を早く捉えることができます。
――野生動物は音や光に慣れてしまう、いわゆる「順化」も課題になりますね。
野田准教授:そのとおりです。同じ刺激を繰り返すだけでは、動物は慣れてしまいます。大切なのは、動物の行動特性を踏まえ、どのような刺激を、どのタイミングで、どのように出すかです。光や音をランダムに変化させる、対象動物に応じてパターンを調整する、といった工夫が必要になります。AIによる検知と、行動特性に基づいた忌避刺激の設計を組み合わせることで、より実効性のある対策につながる可能性があります。
――獣害対策では、動物愛護との両立も重要なテーマだと思います。AIによる撃退という考え方は、その点でどのような意味を持つのでしょうか?
野田准教授:山にいる動物は、基本的には山にいてもらえばよいのです。人の生活圏に入ってこない限り、積極的に駆除する必要はありません。大切なのは、人の生活圏と野生動物の生活圏の境界線をつくることです。
一方で、市街地に入り込み、一度でも人を襲った個体については、再び人の生活圏に戻って人を襲う可能性があります。だからこそ、そこに至る前に侵入を防ぐことが重要です。AIを使って早期に検知し、直接的な危害を加えずに遠ざける技術は、共生のための選択肢になり得ると思います。
平嶋氏:私たちも、単に「撃退する」ことが目的ではありません。地域住民の安全を守りながら、野生動物に直接的な危害を加えず、人と動物の生活圏を分ける。そのための技術としてモリフクロウを社会実装していきたいと考えています。
農地から観光地、鉄道、防犯、イベント運営まで広がる可能性
――モリフクロウやAI画像認識技術は、獣害対策以外にも応用できそうですね。
平嶋氏:モリフクロウは野生動物対策からスタートしていますが、AIが映像から対象を検知し、判断し、通知やアクションにつなげるという仕組みは、さまざまな用途に応用できます。たとえば、太陽光発電施設や工事現場での盗難防止、不審者検知、施設内の安全管理などです。
また、ドローン企業との連携も検討しています。現在の仕組みでは、動物を検知し撃退するところまではできますが、その後どこへ移動したのかまでは追えません。ドローンと組み合わせれば、撃退後の移動先の確認、個体数調査、獣道の把握などにもつながります。自治体や猟友会にとっても、データに基づいた対策を考える材料になるはずです。
野田准教授:今後は、自動運転車との連携も進むのではないでしょうか。過疎化や高齢化が進む地域では、小型の循環バスや自動運転車が増えていく可能性があります。そうした車両にはカメラが搭載されていますから、そこにAI検知の仕組みを組み込めば、街中を自然に巡回しながら野生動物や不審者等の危険を検知することができます。
自然公園や観光地でも活用余地があります。たとえば知床五湖のように、毎朝、人が散策路を歩いてヒグマの痕跡を確認し、通行可否を判断している場所があります。そこにAIカメラを設置すれば、人が危険を冒して確認に行かなくても、リアルタイムで判断できるようになるかもしれません。
――イベント会場や観光施設にも応用できそうですね。
野田准教授:人流分析にも使えると思います。イベント会場でどこに人が集まるのか、どの動線が混雑するのかを把握できれば、出店場所や誘導方法の改善にもつながります。人の動きの解析から防犯、熱中症などの体調不良者の検知、観光地の安全管理にも展開できる可能性がありますね。
地方創生に必要なのは「安全に暮らせる地域」をつくること
――最後に、獣害対策と地方創生の関係について伺います。地方で暮らす、働く、観光に行く。その前提として、やはり安全が欠かせない時代になっているように感じます。
平嶋氏:地方には、農業、観光、自然体験、地域交通など、多くの可能性があります。一方で、人手不足や高齢化、過疎化が進み、見回りや対策を人力だけで続けるのは難しくなっています。AIやデータを活用し、少ない人数でも安全を守れる仕組みをつくることは、地域の持続可能性にもつながると考えています。
野田准教授:野生動物は、地域の自然環境の一部です。完全に排除するのではなく、人の生活圏に入らせない、危険な接触を減らす。そのためには、現場の知見と技術を組み合わせることが大切です。研究だけでも、技術だけでも不十分です。地域の実情に合わせて、使える形にしていくことが重要だと思います。
獣害対策は、農作物を守るだけの話ではなく、地域の安全、観光、交通、防犯、そして人と自然の距離感をどう設計するかというテーマでもあります。AIはその境界線を引き直すための、新しい方法になり得ます。
