「人生100年時代」と言われる今、20代からの資産形成は待ったなし。とはいえ「投資の目利き力、どうやって磨く?」と悩む人も多いはず。本連載では、20代から仮想通貨や海外不動産に挑戦し、いまはバリ島でデベロッパー事業、日本では経営戦略アドバイザーも務める中島宏明氏が、投資・資産運用の知識や体験談、そして業界の注目トピックを紹介します。

今回は、JCBA(一般社団法人 日本暗号資産ビジネス協会)主催の勉強会「ステーブルコインとオンチェーンファイナンスの未来」のレポートです。

ステーブルコインは「暗号資産の一部」から「決済インフラ」へ

ステーブルコインは、暗号資産の世界だけで使われる特別なものではなくなりつつあります。法定通貨などに価値を連動させることで価格変動を抑えたステーブルコインは、いまや国際送金、企業間決済、資本市場、融資など、より広い金融インフラのなかで使われ始めているからです。

2026年6月30日にJCBA主催で同協会会員向けに開催された勉強会「ステーブルコインとオンチェーンファイナンスの未来/The Future of Stablecoins and Onchain Finance」では、Visaの暗号資産部門バイスプレジデント兼グローバル責任者であるカイ・シェフィールド氏が登壇し、Visaがステーブルコインをどのように捉えているのか、そして実際の決済インフラにどう組み込もうとしているのかを解説しました。

Visaが暗号資産領域に本格的に関わり始めたのは、2018年後半に暗号資産チームを立ち上げたころにさかのぼります。その後、Facebook、現在のMetaが主導したLibraプロジェクトのワーキンググループにも参加しました。Libra自体は実現に至りませんでしたが、この経験を通じてVisaは、ブロックチェーンを使った価値移転の可能性、とりわけステーブルコインの重要性を早い段階から意識するようになったといいます。

当時、暗号資産業界では「ビットコインが日常決済に使われるようになる」という見方もありました。もちろん、今でもその見方が消失したわけではありません。しかしVisaは、価格変動の大きい資産を日々の支払いに使いたい消費者や企業は限られると考えました。買い物をする側にとっても、受け取る企業側にとっても、決済手段には安定性が求められるためです。その意味で、法定通貨に価値を連動させたステーブルコインこそが、実用的なブロックチェーン決済の入り口になるという見立てです。

ステーブルコインはもともと、暗号資産取引所でトレーダーが使うための手段として広がりました。ビットコインやイーサリアムなどの売買をするとき、いったん米ドルに近い価値を持つステーブルコインに移すことで、取引をしやすくする役割を担っていたのです。

ところが、2022年から2023年にかけて暗号資産市場が弱気相場に入り、FTXの破綻など業界全体に逆風が吹くなかでも、ステーブルコインの利用は残りました。これは、ステーブルコインが暗号資産取引のためだけのツールから、決済や送金に使える独立したインフラへと変わり始めたことを示しています。

現在、ステーブルコインの供給量は約2,600億ドル規模とされ、今後さらに拡大するとの予測もあります。一方で、現在のステーブルコインの大半は米ドル建てです。グローバルな決済インフラとして本格的に広がるためには、ユーロ、円、ブラジルレアル、シンガポールドルなど、各国・地域の通貨に対応したステーブルコインの整備も重要になります。

つまり、ステーブルコインの未来は「米ドルのデジタル版」だけではありません。各国通貨と結びついたデジタルな価値交換手段が増えることで、世界中の人や企業が、より早く、より低コストにお金を動かせる可能性が出てきているのです。

越境送金、クリエイター報酬、企業間決済で広がるユースケース

ステーブルコインのもっともわかりやすい用途は、国境を越えた送金です。従来の国際送金では、銀行、送金事業者、中継銀行など複数のプレーヤーが関わるため、時間も手数料もかかりがちでした。国や地域によっては、着金まで数日かかることもあります。「遅い、高い、面倒」という3重苦です。

一方、ステーブルコインを使えば、ブロックチェーン上で24時間365日、価値を移転できます。銀行の営業時間や国ごとの休日に左右されにくく、手数料も抑えられる可能性があります。とくに新興国では、自国通貨の価値が不安定な場合、スマートフォンを通じて米ドル建てのステーブルコインにアクセスできること自体が、生活防衛の手段になるケースもあります。

勉強会では、MoneyGramやWestern Unionといった国際送金事業者が、バックエンドにステーブルコインを組み込む動きも紹介されました。利用者から見れば、表側のサービス体験は大きく変わらないかもしれません。しかし、その裏側では、ステーブルコインを使うことで、国境を越えた資金移動をより効率的に処理できるようになります。

もう1つ注目されるのが、クリエイターやギグワーカーへの少額支払いです。たとえば、世界中のクリエイターに1ドル、2ドルといった少額の報酬を送る場合、従来の銀行送金では手数料のほうが高くついてしまうことがあります。ところがステーブルコインであれば、低コストで小口の支払いを実行しやすくなります。

MetaとStripeが連携し、Instagramのクリエイター向け支払いにステーブルコインを活用する取り組みも、その一例です。コンテンツ制作、フリーランス業務、オンライン教育、ゲーム、コミュニティ運営など、国境を越えて小さな報酬が発生する場面では、ステーブルコインが新しい支払いインフラになる可能性があります。

企業間決済でも、ステーブルコインの活用余地は大きいといえます。当日は、SpaceXのStarlinkの事例が紹介されました。世界中でサービスを提供する企業は、各国で現地通貨を受け取り、それを本社の資金管理に戻す必要があります。このとき、ステーブルコインを活用すれば、現地通貨をすばやくデジタルドルに変換し、米国本社のトレジャリーに移すことができます。

これは単なる送金コストの削減にとどまりません。企業にとって、資金をどこに置き、どの通貨で保有し、いつ本社に戻すかは、キャッシュマネジメントの重要なテーマです。ステーブルコインは、グローバル企業の資金管理をよりリアルタイムに近づける可能性があります。

さらに今後は、AIエージェントによる支払いにもステーブルコインが使われるかもしれません。AIが自律的にデータを購入したり、外部ツールを利用したり、別のAIサービスに対価を支払ったりする場合、従来の金融ネットワークでは処理しにくい少額・高頻度の支払いが発生します。

このような「AI同士のマイクロペイメント」では、24時間365日稼働し、プログラムから扱いやすいステーブルコインが相性の良い決済手段になります。ステーブルコインは、人間が買い物をするための手段にとどまらず、AIやソフトウェアが価値をやり取りするための基盤にもなり得るのです。

決済・融資・資本市場をつなぐオンチェーンファイナンス

ステーブルコインの本質的なインパクトは、決済だけではありません。勉強会では、ステーブルコインが「決済」「融資」「資本市場」という3つの巨大な金融領域をつなぐ存在として位置づけられました。

まず融資の領域では、スマートコントラクトの活用が進んでいます。スマートコントラクトとは、あらかじめ決められた条件に従って、自動的に取引や処理を実行するプログラムのことです。融資でいえば、担保を預ける、貸し出す、金利を計算する、担保価値が一定水準を下回った場合に清算する、といった処理を自動化できます。

過去5年間でスマートコントラクトを介した融資が6,000億ドル以上実行されたと紹介されました。現在は、暗号資産を担保にした融資が中心ですが、今後はトークン化された米国債、売掛金、オンチェーン上の信用情報など、より現実の金融資産に近いものが担保として使われる可能性があります。

企業にとって重要なのは、これが「暗号資産投資家向けの特殊な仕組み」では終わらない点です。売掛金、不動産、債券、ファンド持分などがトークン化され、ブロックチェーン上で管理されるようになると、それらを担保に資金調達する仕組みも変わる可能性があります。銀行や金融機関にとって、オンチェーンレンディングは今後無視できないテーマになるでしょう。

資本市場でも、ステーブルコインは重要な役割を担います。株式、債券、不動産、ファンドなどの資産がブロックチェーン上でトークン化される場合、その売買代金を何で支払うのかという問題が生じます。そこで必要になるのが、ブロックチェーン上に存在する「現金」、つまりステーブルコインです。

たとえば、トークン化された米国債を購入する場合、決済手段もブロックチェーン上にあれば、取引から決済までを一体で処理しやすくなります。これは「Cash on ledger」と呼ばれる考え方です。資産だけがオンチェーン化されても、支払いが従来の銀行システムに残ったままでは、効率化の効果は限定的です。資産とお金の両方がオンチェーンにあることで、初めてリアルタイムに近い決済が可能になります。

また、多通貨のステーブルコインが広がれば、オンチェーンFXの可能性も出てきます。米ドル建てステーブルコインとユーロ建てステーブルコイン、円建てステーブルコインなどが十分な流動性を持てば、従来の為替市場とは異なる形で、24時間365日の通貨交換が行われるかもしれません。

生活においても、海外送金や外貨決済の利便性向上として表れます。一方、企業にとっては、海外取引、資金管理、為替コスト、決済スピードに関わる実務上の変化として表れるでしょう。ステーブルコインは暗号資産の一種というよりも、金融業務の裏側を効率化するインフラとして捉える必要があります。

Visaの実践が示す、ステーブルコイン普及の道すじ

Visaの取り組みで特徴的なのは、既存の決済インフラとステーブルコインを対立させるのではなく、接続しようとしている点です。

その代表例が、ステーブルコイン連動カードです。ユーザーはウォレット内にあるステーブルコインを使って支払いを行いますが、加盟店側は通常通り法定通貨で受け取ることができます。つまり、利用者の裏側ではステーブルコインが使われていても、店舗やサービス事業者は従来のカード決済と近い感覚で受け入れられるのです。

これは普及において重要です。新しい決済手段が広がるには、利用者だけでなく、受け取る側の負担も小さくなければなりません。加盟店が暗号資産ウォレットを用意し、価格変動リスクを管理し、会計処理を大きく変えなければならないとなると、導入のハードルは高くなります。Visaは、既存の加盟店ネットワークとステーブルコインをつなぐことで、そのハードルを下げようとしています。

Visaは、自社のトレジャリー業務にオンチェーン決済を導入し、年間約80億ドル規模で24時間365日の決済を稼働させていると紹介しました。これは、ステーブルコインが単なる実証実験の段階を超え、実務のなかで使われ始めていることを示しています。

ステーブルコインの未来を考えることは、単に暗号資産の未来を考えることではありません。決済、融資、資本市場、そしてAI時代の価値交換がどう変わるのかを考えることでもあるのです。