「人生100年時代」と言われる今、20代からの資産形成は待ったなし。とはいえ「投資の目利き力、どうやって磨く?」と悩む人も多いはず。本連載では、20代から仮想通貨や海外不動産に挑戦し、いまはバリ島でデベロッパー事業、日本では経営戦略アドバイザーも務める中島宏明氏が、投資・資産運用の知識や体験談、そして業界の注目トピックを紹介します。

今回は、国内外における資産デジタル化の現在地について、Securitize Japanのカントリーヘッド・小林英至氏、テックコンサルタントの大久保潤氏と森田悟史氏に取材した内容をお届けします。

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セキュリティトークンは「実証実験」を終えて「社会実装」フェーズへ

「セキュリティトークン(以下、ST)が話題になっているのは知っているけど、まだまだ実験段階でしょう?」

もしもSTに対してそのような認識を持っているとしたら、2026年の今、それは大きな機会損失になりかねません。過去に「未来の可能性ある技術」として語られたブロックチェーンによる証券のデジタル化は、すでに着実に社会実装のフェーズへと移行しているからです。

取材から見えてきたのは、STが発行実績を競う段階から、発行後の管理や償還までを含めた金融インフラとしての運用段階に移りつつあることです。

ブラックロックが動いた衝撃。世界はSTの「高い実用性」を見ている

グローバルでST市場を見たとき、やはり注目しておきたいのは世界最大級の資産運用会社・ブラックロックの動きです。

2024年、ブラックロックはSecuritizeと協業し、ブロックチェーン上でトークン化されたファンド「BUIDL」を立ち上げました。これは単なる実験ではありません。機関投資家向けの流動性ファンドとして、実際に巨額の資金が動いているビジネスです。短期アメリカ国債や現金に裏付けられ、ブロックチェーン上で米ドル価値の安定性と利回りを提供しています。

「ブラックロックが動いた。この事実は、金融業界にとって大きな意味を持ちます。資産のデジタル化はもはや『やるかやらないか』の議論ではなく、『いつ、どうやるか』の段階に入ったことを証明したのです」(小林氏)

なぜブラックロックは、重要なパートナーとしてSecuritizeを選んだのか?それはSecuritizeが、アメリカの厳しい規制(SEC準拠)をクリアし、かつパブリックチェーン上でのST発行・管理において確かな実績を持っていたからに他なりません。

「大手機関投資家に求められるのは、単なる新技術の実験場ではなく、堅牢で、透明性が高く、将来的にグローバルに流通可能な『本物のインフラ』でした。Securitizeがアメリカで積み上げてきたコンプライアンスや技術が認められた瞬間だと自負しています」(小林氏)

日本ですでに広がっている「投資体験のデジタル化と多様化」

「グローバルの話はわかるが、日本の商習慣には合わないのでは?」という懸念もあるでしょう。しかし、Securitize Japanはすでに国内でも多くのプロジェクトを手掛けています。日本でも金融商品とデジタル技術を組み合わせ、新たな投資体験を生み出す取り組みがすでに始まっているのです。

「たしかに数年前までは、実証実験段階の域を出ないケースもありました。しかし今は違います。実際に一般投資家が購入し、発行企業が資金調達を行い、そして償還まで完了する。投資家との新しい接点が生まれる。そんな事例が、日本でも次々と生まれています」(大久保氏)

テックコンサルタントとして数々の国内案件を最前線でリードしてきた大久保氏は、株式会社NTTデータと共同で構築したデジタル証券プラットフォームサービス(STdirectServices®︎)にも携わっています。

その活用例の一つが、既存の振替社債にデジタル特典を組み合わせる「デジタル特典付き社債」です。これまでにカゴメ株式会社やJR西日本(西日本旅客鉄道株式会社)、東急株式会社などが、商品やポイント、鉄道・移動サービスに関連する特典を社債購入者に提供する取り組みを行っています。

これらは法的にはSTやデジタル証券ではありません。しかし、従来の金融商品の枠組みを活用しながら、デジタル技術によって発行企業と投資家との新しい接点をつくるという意味では、「投資体験のデジタル化」を象徴する事例と言えるでしょう。

さらに、Securitize Japanは不動産クラウドファンディングの領域にもプラットフォームを提供しています。株式会社リムズキャピタルが展開する「BATSUNAGU」では、投資対象となる不動産に関連した施設の利用権などを特典NFTとして付与する取り組みにも対応しています。

金銭的なリターンだけではなく、商品やポイント、サービスの利用体験などを投資と組み合わせる。こうした事例を見ると、デジタル化によって変わり始めているのは、金融商品の「形」だけではないことがわかります。企業と投資家との関係そのものにも、新しい可能性が生まれているのです。

「私の役割は、発行企業や金融機関の方々が抱く『実現したいこと』を、デジタル技術やプラットフォームの仕組みにどう落とし込むかを徹底的に伴走することです。NTTデータ様とは、まさに膝を突き合わせて、日本の法規制や実務に対応しながら『どうすれば発行企業や投資家に喜んでもらえるか』『どうすれば新しい投資の体験価値を提供できるか』を議論しました。技術ありきではなく、ビジネスの目的を達成するためにどのような仕組みが必要なのかを考えることが重要です」(大久保氏)

「発行」から「償還」までをやり切る技術力

取材を進める中で、テックコンサルタントの森田氏が指摘した「技術的な落とし穴」の話は、これからST参入を検討する企業や自治体などにとって極めて示唆に富むものでした。

「極端に言えば、STを『発行』するだけなら、それほど難しいことではありません。しかし、金融商品は発行して終わりではありません。配当などのリターンを出し、権利移転を管理し、最後に『償還』して投資家の方々に資金を返す。特に自己募集の場合は、このサイクル全体を安定的に運用し、セキュリティ上のリスクを管理しながら、法規制に沿って完遂できるかが重要です。」(森田氏)

Securitize Japanの強みは、まさにここにあるのでしょう。同社はすでに丸井グループの自己募集型デジタル社債やソニー銀行の銀行販売型合同金銭信託STなどを通じて、発行後の管理から償還までの運用実績を積み重ねています。

「私たちはグローバルで数多くの案件を扱っています。その知見があるからこそ、『ここでシステムが詰まる可能性がある』『この要件にはこう対応すべき』という予見ができます。特に、日本ではまだこれからのパブリックブロックチェーンについては、我々の実績が活きるところになります。私たちが提供するのは『動くコード』だけでなく、その背後にある『安心』です」(森田氏)

もはや「様子見」の時間は終わった

今回の取材で感じたのは、STがもはや「未来の技術」ではなく、ビジネスにおける「現実的な選択肢」になっているということです。

世界ではブラックロックが動き、国内でもNTTデータやソニー銀行といった信頼あるプレイヤーが、Securitize Japanのプラットフォームを利用して新しい市場を切り拓いています。発行後の管理から償還まで、一連の業務を運用した実績も積み上がっていますから、「まだまだSTは実証実験の段階」と誤認しているのなら、その認識をアップデートする必要があるでしょう。

STを評価する際には、発行件数だけでなく、投資家管理、分配・利払い、権利移転、償還までを安定的に運用できるかを見る必要があります。資産のデジタル化は、技術の新しさを競う段階から、金融商品として継続運用できるかを問う段階に入ったといえるでしょう。