「人生100年時代」と言われる今、20代からの資産形成は待ったなし。とはいえ「投資の目利き力、どうやって磨く?」と悩む人も多いはず。本連載では、20代から仮想通貨や海外不動産に挑戦し、いまはバリ島でデベロッパー事業、日本では経営戦略アドバイザーも務める中島宏明氏が、投資・資産運用の知識や体験談、そして業界の注目トピックを紹介します。

今回は、Securitize Japan株式会社 テックコンサルタントの森田悟史氏に、デジタル証券/RWA(リアル・ワールド・アセット)を取り巻く米国と日本の違いや事例についてお聞きしました。

  • 森田 悟史氏/Securitize Japan株式会社 テックコンサルタント

    森田 悟史氏/Securitize Japan株式会社 テックコンサルタント

東京工業大学大学院で情報科学を専攻。NTTデータにて銀行APIなど金融ITを9年間担当後、2018年に株式会社BUIDLの創業メンバーとして参画。2019年の米Securitizeによる買収を経て現職。現在は日本におけるデジタル証券/RWAの実装を牽引し、発行から流通、制度対応までを幅広く支える。

日本の「表象型」と米国の「分散型」

――私は2013年頃からビットコイン・ブロックチェーンの業界を見てきましたが、最近は伝統的金融(TradFi)の資産がブロックチェーンに乗るRWAトークン化が、かつてない熱量で進んでいると感じています。

森田悟史氏(以下、森田氏):おっしゃるとおり、米国を中心にトークン化が進んでいます。以前はデジタル証券で一括りにされていましたが、現在はその「実用性(ユーティリティ)」によって、大きく2つの定義に分けられ始めています。

●分散型(Distributed Asset):
パブリックチェーン上で発行され、ホワイトリスト管理のもとで外部ウォレットへの持ち出しや移転が可能な資産。

●表象型(Represented Asset):
設計や規制の制約により、発行プラットフォーム外への移動ができない、いわば「記録」としての資産。

――日本のセキュリティトークン市場は、現状どう位置づけられるのでしょうか?

森田氏:日本は世界に先駆けて法整備が進んだ一方、安全性を重視してプライベートチェーンでの発行が主流となりました。そのため、現状は「表象型」が中心です。一方米国では、パブリックチェーンを活用した分散型の規模が急拡大しており、2026年2月末時点で約257億ドルの時価総額に達しています。

  • Securitize Japan提供資料より

    Securitize Japan提供資料より

  • Securitize Japan提供資料より

    Securitize Japan提供資料より

ブラックロック「BUIDL」が証明した、オンチェーン完結の意義

――分散型の急成長を象徴するのが、資産運用会社のブラックロックとSecuritizeさんが手掛けた「BUIDL(ビドル)」ですね。

森田氏:はい。2024年3月にローンチされた「BUIDL」は、まさにパラダイムシフトでした。これは米国債やレポ取引で運用されるマネー・マーケット・ファンド(MMF)ですが、最大の特徴は「オンチェーンで完結している」点です。

1 BUIDL = 1米ドルの安定した価値を持ち、いつでも償還が可能。大きな特徴として、「毎日配当」が発生し、日次で投資家のウォレットに直接トークンが分配されます。24時間365日、スマートコントラクトを通じてステーブルコインとの即時交換が可能など、オンチェーンだからこそ実現できる投資家メリットがあります。

――伝統的なMMFなら、換金に数日かかるのが当たり前です。それがオンチェーンなら、夜中でも週末でも数クリックでステーブルコインに変えられるわけですね。

森田氏:「即時性」と「透明性」が市場に刺さり、BUIDLはローンチからわずか1ヶ月で世界最大のトークン化ファンドになりました。2026年2月末では、約22億ドルの規模を維持しています。

「オンチェーンの住人」という新たな巨大需要

――なぜ、これほどまでに資金が集まるのでしょうか?

森田氏:重要なポイントです。背景には、「オンチェーンの住人」と呼ばれる新しい層の台頭があります。オンチェーンの住人とは例えば、

●暗号資産交換業者:
顧客のトレードに応じるために暗号資産・ステーブルコインを保有していますが、それをただ寝かせるのではなく、利回りを生みつつ即時換金可能な資産で運用したいという強いニーズがある。

●ステーブルコイン発行体・DeFi企業:
裏付け資産をオンチェーンで公開することで、透明性と信頼性を証明できる。

●DAO(自律分散型組織):
調達した運営資金を、メンバーに可視化された形で健全に運用する必要がある。

などですが、他には中島さんのような「オンチェーンで完結させたい」個人の投資家らです。

――オンチェーンの住人にとっては、一度銀行口座などのオフチェーンに資金を戻す手間やコストをかけず、オンチェーンのエコシステム内で資産管理を完結できることが体験価値ですね。

森田氏:そうですね。伝統的金融が持つ「高い信用力」を、ブロックチェーンという「検証しやすいインフラ」に乗せて届ける。この橋渡しこそが、今グローバルで起きていることです。

よくある課題「セカンダリー・流動性」への挑戦

――世界では投資商品やアセットの「ただのデジタル化」ではなく、運用効率や透明性を高める「インフラの再構築」が進んでいるのですね。一方で、投資する側として気になるのは「出口」、つまり流動性です。買ったはいいが売れない、という状況はデジタル証券でも懸念されていますよね。

森田氏:おっしゃるとおりです。「セカンダリー(流通)市場の構築」はよく挙げられる課題ですが、同時に最大の機会と捉えられています。ただし、ここでいうセカンダリーは、従来の証券取引所のような板取引だけを指すのではありません。

――新しい流通の形とはどのようなものでしょうか?

森田氏:DeFi(分散型金融)の技術を応用したモデルです。例えば、スマートコントラクトを用いてステーブルコイン発行体がトークンを買い取ったり、DEX(分散型取引所)の流動性プールやマーケットメーカー(MM)がプログラムを通じて即時に交換に応じたりする設計です。伝統的金融では決済に数日を要しますが、オンチェーンでは数秒から数分で「24時間365日の即時決済」が完結するUX(ユーザー体験)が実現します。

「ハイブリッド設計」が日本の規制と革新を両立させる

――非常に魅力的ですが、日本の金融機関の方々からすると「パブリックチェーンは匿名性が高く、コンプライアンス的に難しい」という懸念が根強くあるのではないでしょうか。だからこそ、現在はプライベートチェーン(表象型)が主流なわけですよね。

森田氏:はい。しかし、一辺倒に閉じた設計では、オープンなセカンダリー市場へのアクセスは構造的にできません。そこでSecuritizeが提唱している現実解が「ハイブリッド型」です。

――ハイブリッド型、具体的にはどのような仕組みですか?

森田氏:パブリックチェーンというオープンなインフラを使いつつ、スマートコントラクトによって「KYC/AML(本人確認・マネロン対策)済みのホワイトリストに登録されたウォレット」の間でしか移転できないよう制御をかける手法です。これにより、規制準拠とDeFi的な利便性を両立できます。例えば、トークンを担保にステーブルコインを借り入れる際も、利回りを享受しながらウォレット内で操作を完結させる工夫が可能です。

株式のトークン化が変えるリテールの未来

――昨年後半からは、プロ向けのMMFだけでなく「トークン化株式」も10億ドルを突破するなど、リテール(個人)向けにも波が来ているようですね。

森田氏:株式のトークン化にはいくつかの手法がありますが、Securitizeはブロックチェーン自体を「株主名簿」として直接利用する「ネイティブ型」を推進しています。

――ネイティブ型のメリットは何でしょうか?

森田氏:コスト削減や即時決済はもちろん、発行体が「誰が自社の株を持っているか」というデータをリアルタイムに把握できる点です。日本では、丸井グループ様などが「自己募集型」という形で、証券会社を介さずに自社サイトで直接デジタル社債を販売し、ポイントでの利払いや顧客データ活用を行う事例が生まれています。こうした「資金調達×マーケティング」の融合こそ、日本におけるトークン化の強みになるでしょう。

海外の成功事例を体験し、日本市場に持ち込む道筋を

――最後に、日本の金融機関や投資家は、この変化にどう向き合うべきでしょうか?

森田氏:大切なのは、日本国内だけで考えすぎないことだと思います。日本は法制度や既存インフラが整っている一方で、現状の規制を前提にすると、ネイティブなトークン化に取り組むには工夫が必要な領域もあります。

例えば、米国ではトークン化株式が議論の中心になりつつありますが、日本の上場株式は、ほふり(証券保管振替機構)を通じた管理を前提としているため、株式そのものをネイティブにトークン化することは簡単ではありません。

一方で、米国で上場すれば、トークン化株式という選択肢が現実味を帯びてきます。そうなると、トークン化株式を発行したい企業は米国での上場を志向し、投資したい投資家も海外経由でアクセスしようとする可能性があります。これは、日本が暗号資産領域でも経験してきた課題と重なります。優れたプロジェクトや企業、人材が海外に流出してしまうという、決して望ましくない方向に進みかねません。

だからこそ、まずは海外で成功しているRWAトークンを日本の投資家が購入できる枠組み、「輸入して販売する」ための制度や実務を整えることが重要だと考えています。その第一歩として、金融機関や投資家自身が海外のトークン化アセットを実際に購入し、ウォレット管理、配当・利回りの計上、税務・会計、顧客説明、流動性などの手触りや課題を整理する。次に、その経験をもとに、国内で販売できる体制を作る。さらに、そこで蓄積したノウハウを、将来的な国内発行や法制度整備につなげていく。この順番が現実的ではないでしょうか。

――海外の成功事例を日本に取り込みながら、国内の金融機関にもノウハウを蓄積し、最終的には国内発行につなげていく。日本の「信頼」とグローバルな「技術標準」を接続することが重要になるわけですね。

森田氏:そう感じています。Securitizeは日米欧の拠点を活かすことで、海外アセットの国内展開や、日本アセットのグローバル発信を支援できます。日本の皆様とともに、トークン化の「次の章」を作り上げていきたいですね。