「都心では物価が高いので、生活していくのが大変だ」または「地方は物価が安いので、生活費が都心に比べてあまりかからない」と世間で言われていることは、本当なのでしょうか。

お金の扱い方について、都心部と地方部では、違いがないのでしょうか。

連載コラム「地方の生活コストは本当に安いのか?」では、ファイナンシャル・プランナーの高鷲佐織が、実際に東京と地方、両方の生活を経験して感じたことを交えながら、お金に関する情報などをお伝えいたします。

「どこでもいいから、東京の喧騒から離れて暮らしたい」

地方移住を考え始めるとき、そんな抽象的で漠然とした思いからスタートする人は決して少なくありません。都会の目まぐるしい日々から抜け出したい……。心で地図を眺めては、「ここでもない、あそこでもない」と迷ってしまうこともあるでしょう。

地方移住先の検討を進めると、どうしても家賃の安さや求人情報、スーパーの有無といった「生活の利便性」に目が向きがちです。もちろん、これらは日常を支える大切な要素です。しかし、条件面だけで選んだ街が、必ずしも自分の心を満たしてくれるとは限りません。住まいと職場を往復するだけの毎日になってしまっては、場所が変わっただけで、都会での生活と本質的に変わらないからです。

そこで、ご提案したいのが、ひとつの新しい考え方です。

暮らしの拠点である「自宅」、日々の糧を得る「仕事場」、そしてこの2つに加えて「自分が心からほっとできるお気に入りの場所」を見つけられるかどうか。これが、移住する場所を決める大きな決め手になります。

この「ほっとする場所」は、必ずしも特別な観光地や立派な施設である必要はありません。静けさに包まれた図書館、お気に入りの自家焙煎カフェ、美術館のロビーはもちろんのこと、散歩道の途中にある小高い山の公園のベンチ、そこから見下ろす街並みや夕日など、自分が「あぁ、落ち着くな」と深く息を吐ける場所であれば、どこでも良いのです。 ここで、重要なポイントがあります。それは、「1人で、自分の足で行ける場所であること」を条件にすることです。

もし運転免許を持っていない(あるいは車を日常的に運転しない)のであれば、自宅から徒歩や自転車、あるいは電車やバスなどの公共交通機関を使って無理なく行ける範囲で探す必要があります。

なぜ「1人で行けること」がそれほど大切なのでしょうか。それは、どれほど親しい家族や友人であっても、「ほっとする場所」の感覚が同じとは限らないからです。誰かと一緒でなければ行けない場所は、時に相手に気を使ったり、タイミングを合わせたりする必要が生じます。落ち込んだときや、ふと頭を整理したくなったとき、誰の許可もいらず自分の意思だけでサッと訪れることができるところ。そこが、あなたの心を支える「安全基地」となってくれます。

また、そのお気に入りの場所で過ごす時間には、心のあり方に応じたふたつの魅力があります。

ひとつは、静寂が苦にならない穏やかな空間です。一人でじっくり本を開いたり、景色を眺めたりして自分自身を取り戻す時間は、日々のストレスを癒やしてくれます。

そしてもうひとつは、一人でいても寂しさを感じさせず、むしろ心地よい熱気で胸がわくわくするような「地域のお祭りや季節のイベント」の存在です。賑やかさがうるさく感じることなく、街全体が温かく活気づく瞬間に触れることで、心が内側から満たされていきます。「一人になれる静けさ」と「胸が高鳴る賑わい」、その両方が街の中に溶け込んでいると、暮らしはより豊かなものになります。

では、具体的にどのような場所にそうした「ほっとできる空間」があるのでしょうか。公共交通機関等でアクセスでき、一人時間を豊かにしてくれる地方の魅力的なスポットをいくつかご紹介します。

【1】石川県金沢市「石川県立図書館」。金沢駅から路線バスで気軽にアクセスできるこの施設は、まるで劇場のような壮大な円形空間でありながら、一人ひとりが自分の世界に没頭できる多様な閲覧席が用意されています。

【2】長野県松本市「あがたの森公園」。松本駅からバスや徒歩で行くことができ、旧松本高等学校の趣ある木造校舎と大きなヒマラヤスギの並木が広がっています。公園のベンチに腰掛け、吹き抜ける風を感じながら過ごす時間は、凝り固まった心を優しく解きほぐしてくれます。

【3】佐賀県武雄市の「武雄市図書館」。武雄温泉駅から徒歩圏内にあり、カフェが併設された開放的な空間で、市民や訪れる人が思い思いの時間を楽しんでいる場所も、ふらりと1人で立ち寄るのにぴったりです。

移住とは、単に住む場所を変えることではなく、「自分らしくいられる時間」を人生の中に増やす作業かもしれません。条件検索の画面から一度離れて、気になる街を1人で歩いてみてください。そして、ふと見つけたベンチやカフェの席で「ここが好きだな」と思えたなら、そここそが、あなたにとってこれから先、永く暮らしを共にする「永住の地」なのかもしれません。