漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。

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今回のテーマは「夢」だ。

夢には2種類ある、寝ている時に見るやつと、潰えるやつだ。

だが潰える方の夢にも2種類ある。ひとつめは己の努力で実現しようとする目標、ふたつめはほぼ実現不可能であり、それに対して努力をするつもりも一切ないが、何らかの事故により叶ってほしい欲望のことである。

後者の意味で言えば私ほど夢に溢れた大人はいない。まんが偉人伝はそろそろ私を題材にするアップを始めた方が良い。

肉体的にはこういう人間ほど長生きをしてしまうものだが、何せ脳が夢に溢れているため、前方不注意になっていることが多く、トラックにはよく轢かれる。

ちなみに昨今大流行のトラック転生だが、転移でなく転生であればトラックに轢かれてテレポーテーションしている訳ではなく、一回死んで生まれ変わっているのだ。

つまり異世界でどれだけ無双していても前世では礫死体、と思って読むとコクが一層深くなる。

このように、絵空事ばかり考え、トラック運転手に迷惑をかけがちな上に来世は成虫になれない何かの幼虫と決まっている我々だが、前者の夢を持っているやつが素晴らしいとはかぎらない。

「夫が有名YouTuberになるため会社をやめ、今更メントスコーラ動画を撮っている」と相談されたら、別れを勧める。もしくは面白いから「夢を持ってるって素敵だよ」と、ドリンクを単品からバーに変えて詳細を聞き出そうとするだろう。

だがこれも前者の「夢」を持っている人間なのだ。

実現すればすごいことであり、馬鹿にしていたやつは黙りこくり、ドリンクバー全制覇ネキは「応援した甲斐があった」と言いつつその話はそんなに聞きたくないので量が少ないエスプレッソを熱燗のように煽って帰っていくだろう。

つまり、夢というのは実現して始めて美談となるものであり、そうでなければ周囲からは馬鹿にされるか、おもしろ案件としてブクマされ、自分は挫折と時間を無駄にしたという後悔を背負う。または「夢に向かって努力した時間は無駄でなかった」と己を納得させるのにまた時間を使うことになってしまう。

後者の夢は最初から時間を無駄にしているが、前者の夢も場合によっては後者よりも時間を無駄にし、挫折や後悔、周囲からの嘲笑などの負債を得る可能性があるのだ。

つまり夢を持つというのは、リスクを背負うということなのだ。

ただ潰えた夢というのは、全く関係ないことで成功した際に「私が今ちりめん問屋として成功したのは有名YouTuberを目指した経験を活かせたから」と再利用することは可能である。

そうすることで、YouTuberになろうとしたことを馬鹿にしたやつを嫌な気分にさせることもできて一石二鳥だ。

どちらにしても何かで成功しなければリターンがないハイリスク商品が「夢」なのである。

それに対し、寝ている時に見る「夢」の無害ぶりはすごい。

起きている時に見る夢は人生に大きな影響を与えるが、寝ている時に見る夢はたとえ何が起ころうと実生活には無影響である。

夢と言えば、先日流行したヤクノレト1000には眠りの質が向上すると同時に「悪夢を見る」という効果があると言われていた。

そういえば、前ほどヤクの話を聞かなくなってしまったが、ブームはもう去ってしまったのだろうか。

そうだとしても流行に乗って定期購入契約をし、解約するのがダルくて死ぬまでヤクをとり続けるヤク中を多数生み出した時点で成功である。

一度始めるとやめるのが難しいという点ではリアルヤクと同じだ。だがどうせ抜けられなくなるなら健康に良い方のヤクにした方が良い。

しかし、眠りの質が良くなるのに悪夢を見るというのは矛盾しているように思える。

だが一説によるとこれは理屈の通った現象なのだという。

まず、ヤクにより悪夢を見るようになったのではなく「最初から悪夢を見ていた」のである。

だが、何せ眠りの質が旧ソビエト製品並みに悪いため、せっかくの悪夢が鮮明に見えなかったり、起きたら忘れたりしていたのだ。

それがヤクの効能により眠りの質が上がり、悪夢がハイビジョンで見えるようになったということだ。

確かに私も従来は、全裸で外出など定形の悪夢しか見ることができなかったが、ジェネリックヤクであるピルクノレをやり出してから、設定の凝った悪夢を見るようになった。

今までは凝った悪夢は脳が処理落ちしていたが、ピノレによりスペックが上がり再生可能になったということだ。

つまり、悪夢を見がちな人間がヤクを飲み続ければずっと多彩な悪夢が見られるということである。

さらに飲めば飲むほど画質が向上していき、3Dや4DX演出も夢だけど夢ではない。

映画館で4DXを見ようと思ったら2000円以上かかったりするので、それを1本140円のヤクで毎日見られるとしたらコスパ最高と言わざるを得ない。

全く悪夢を見ないという人は、せっかく名作を上映しているのに映写機の方が壊れているという可能性がある。

ぜひヤクを試して、彼岸島に上陸する夢などを見てほしい。