漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。

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今回のテーマは「ジェネレーションギャップ」である。

ジェネレーションギャップとは、年代が違うことにより生じる、文化や認識、言語のズレのことである。

私の世代に「パンツを買ってきて」と言ったら9割「パンティ」を買ってきてしまうだろう。正しいおつかいをさせるには「ズボンを買ってきて」と言わなければならないのだ。

だが従来のジェネレーションギャップネタといえば「職場の新人に『これチンして』と言ったら、セクハラ認定で離島行きトホホー」のような、老が若に話が通じず、ショックを受けたり困ったりする構図だったが、それも昔のことなのかもしれない。

なぜなら日本は少子高齢化であり、すでに若の数より中年から老の数の方が多いのである。

つまり、若の言うことはどれだけ新しくても「少数派」なのだ。

「遅れている」と言うのは「新しいことを知らない」と言う意味だけではなく「みんなが知っていることを知らない」と言う意味でもある。

我々が昨日Twitterでバズっていた話題を得意げにリアルで語り「何それ知らん…怖っ…」と白い目で見られてしまうように、いくら新しくてもそれを知っている人間の方が少なければ「最新」ではなく「異端」になってしまう場合もあるのだ。

よって現在では若についていけない老よりも、老の文化に合わせることを強いられ苦労している若の方が多いのではないだろうか。

それは日本のオフィスにも現れており、なぜ日本のオフィスからファックスが消えないのかというと、何度ファックス廃止案を出しても、投票の結果毎回ファックス派が勝利してしまうからではないだろうか。

またオフィスツールというのは互換性が大事なので「1人だけ最新機器を使っている」というのは「1人だけ石器を使っている」と大差なかったりする。

つまりファックス使いの方が多ければ若もそれに合わせなければいけないのだ。

仮にメール派が奇跡の大勝利を収めても「見積りはファックスで送ってください」という取引先がゼロになるまで完全撤廃は難しかったりする。

若者が選挙に行きたがらないのも、母数からして老に負けていると言う無力感があるせいかもしれない。

このように、少子高齢化は昨今日本がさまざまな分野で遅れを取りつつある原因の一つと言え、国としては全く良いことではない。

しかし、一個人としては、少子高齢化で老の方が多いという状況に救われている部分もある。

私は文章に、例えやパロディネタを入れることが多いが、その元ネタはどれも古い。

そんなエジプトに行く時の花京院や何も成長していない時の安西先生、果ては自分の世代ですらないのに、何かが終わって何かが始まるコブラネタを100万回繰り返す私が未だに干されていないのは、最新作のパロディより、ジャンプが180円だった時代のネタが通じる世代の方が多いおかげと言えなくもない。

しかしそうなると作り手も、若ではなく数が多い老にウケるものを作ろうとしてしまい、その結果新作ではなくリメイクの方に力を入れ、力を入れ過ぎるあまりリメイクであるFF7も全然完成しない上に新作も出ないという、完全なる停滞が起こってしまう。

これ以上日本を停滞させないためには、老側もみんなで遅れれば怖くない、ではなく新しい文化や技術についていく努力をしていかなければならない。

しかし、なぜか自然に耳に入ってくるのは「若の間でこれが流行っている」ではなく「若の野郎がセックスどころかデートすらからも離れてやがりますよ、嘆かわしいですね」という「若者の○○離れニュース」の方が多い気がする。

若の間で何が流行っているかはわからないが、老の間で若者の○○離れニュースが常に流行っているのだけは確かである。

よってわざわざ「若者の間で流行っているもの」という、いかにも老が検索しそうなワードでググって見たところ「Z世代が選ぶ2022年上半期のトレンド」という記事が見つかった。

まず老としては「Z世代」から説明してほしいのだが、私より若い世代なのは確かだろう。

その記事によると2022年上半期に流行ったもの1位は「TikTok」そして2位は「平成ギャル」そして3位は「ルーズソックス」だそうな。

せっかく現代の若の間で流行っているものを学ぼうという気になったのに、なぜ俺たちS(昭和)世代が若だった頃に流行ったものがまた流行っているのだ、という話である。

このように、流行りというのは輪廻転生を繰り返すものである。

昨日流行ったものが今日はダサいと言われ、四半世紀後にまた新しくなり、次の週には「まだルーズ履いてんの?」とラルフローレンの紺色ハイソックスを履いた奴に言われるのだ。

新しい技術や意識についていくのは重要である。

しかし流行というのはついていこうとすればするほどバカを見るので、流行りに流されずに好きなものを追った方が良い。

どれだけダサいことでも長く続ければ「あいつはブレなくてカッコいい」「逆にイケてる」みたいなことを言い出す奴が必ず現れるものである。