幼少期から熱血ドラマオタクというライター、エッセイストの小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。

第69回は女優の古川琴音さんについて。現在『コントが始まる』(日本テレビ系)に出演中の古川さん。もう早くも推薦しますが、2021年のブレイクしたね女優賞があるとするのなら、彼女一択なのだろうと思います。未来の朝ドラヒロインの香りがする女優さんについて、つらつらと。

  • 古川琴音

中学生からホステスまで。どこまでエイジレス?

まずは「泣ける」「共感が止まらない」など、土曜の夜に視聴者たちを小さな感動の渦へ巻き込んでいる『コントが始まる』のあらすじで、出演作について予習を。

ブレイクの兆しが見えないお笑いトリオ『マクベス』の、高岩春斗(菅田将暉)、朝吹瞬太(神木隆之介)、美濃和順平(仲野太賀)の3人は、結成10年を前にして解散を決断。高校生からの付き合いで、住まいも苦楽も共にしてきた3人。なかなかさっぱりと別れることができずにいる。そんな男たちの周囲に、ファミレスでバイトをする中浜理穂子(有村架純)が現れて……。

ふと振り返ると、今クールはそれぞれ年代別に"ぶっ刺さる"ドラマが放送されている。高齢両親との関係性を描いたアラフィフ向けの『生きるとか死ぬとか父親とか』(テレビ東京)。脚本家・坂元裕二さんの紡ぐ台詞が愛おしい『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系)。そしてアラサー向けの本作。

追いかけてきた夢をあきらめで大人らしい大人を志すのか、それともまだ追うのか。そしてあまりにも繊細な機微で、当人同士でないと理解できないような、友情の隙間に入り込んでくる揺れ。もう何も言わずに見てくれ、とお願いしたい。ちなみに現時点ではドラマオタクの私が一番ハマっている作品だ。

そんな『コントが始まる』で、中浜つむぎを演じている古川さん。苗字から察して欲しいのだが、有村架純さんの妹役である。今は諸事情によりバイト生活を強いられている姉ではあるが、基本はしっかり者。対するつむぎはゴリゴリのボディコンを着て、スナックでホステスをしている。今、夢も希望も持てない空っぽの人生を歩む20代だという。ちなみに家賃は払わず、姉と同居をしている。

初回放送の登場で「ホステス役?」と笑ってしまった。大阪のおばちゃんが愛用していそうなド派手な柄をまとって、いい感じに場末感を醸し出している古川さん。おそらく世間で彼女の顔が知られるようになった朝ドラ『エール!』(NHK総合・2020年)での、昭和初期を生きる堅実な女性とは程遠い姿。でも完璧に着こなしているのだから素晴らしい。

『この恋あたためますか』(TBS系 2020年)でのヒロインの友人役も同じく。少し奇抜なコーディネートの中国人役は可愛かった。派手な顔立ちではないぶん、洋服の良さを殺さずに生かしている。

欲深さを感じさせない、フィジカルの軽さよ

彼女の存在が最初に目に入ったのは『部活、好きじゃなきゃダメですか?』(日本テレビ系・2018年)。野球部のマネジャー役だった。他の出演者たちは目がクッキリパッチリ、キラッキラのアイドルに囲まれる中、あきらかに彼女の存在は演技も含めて目立っていた。良い意味での違和感があったのだ。

劇団の女優さんかと思って検索をしてみると、数多くの名優を抱える「ユマニテ」所属だった。先輩には安藤サクラさん、門脇麦さん、岸井ゆきのさんという、名前だけで存在感を完璧にアピールできる面々が連なる。

古川さんを見ていると、清涼飲料水のCMに出てきそうな学生の爽やかさを連想する。すらっとしたスタイルにトレードマーク化しつつある、ボブカット。あまり公の情報がないのであくまでも予想だけど、全体的に欲深そうではない雰囲気がする。

それを象徴したのが『コントが始まる』の番宣番組だ。錚々たる主演メンバーの一員に自分が選ばれたことを恐縮して、ひどく緊張していた。それも理解できるのが、映画『花束みたいな恋をした』では主演の菅田将暉と有村架純の友人役で出演して“ちょい役”の言葉がふさわしかったのに、たった一年経たずして、肩を並べているのだから緊張しないわけがないな、と。その様子から、もともとおしゃべりなタチではないことはうかがえた。

今の年齢不詳の雰囲気を携えたまま、これからいろいろな役で楽しませてほしいと思う。願わくば、トークでは物静かに。でも演技ではぶっ飛びで。