幼少期から熱血ドラマオタクというライター、エッセイストの小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。

光石研(左)と遠藤憲一

この連載が始まったのは2018年の4月。ゆるゆると進めながら、ありがたいことに四年目へと突入。その一年前の2017年からテレビ東京では『バイプレイヤーズ ~もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら~』という、連載タイトルとワードが被るシリーズドラマが始まっていた。当たり前だが、書いている身分としては、その存在が非常に気になる。

放送作品は本連載のようなゆるさはなく、着実な人気を積み上げて映画『バイプレイヤーズ ~もしも100人の名脇役が映画を作ったら~』(4月9日公開)として映画化されることになった。素晴らしい。今回は映画化をちゃっかり記念して、主演の光石研さん、遠藤憲一さんのお二人にインタビューを決行することにした。人生の大先輩に聞きたいことは……たくさんある。

都内某日。『バイプレイヤーズ』の、あの黒スーツ姿で登場した二人はとても楽しそうにしていた。細身の黒パンツを履きこなして、まるでステップを踏むように登場した遠藤さん。“優しそう”なパブリックイメージ通り、周囲のスタッフに気遣った声をかけている光石さん。撮影中も終始、会話を続ける様子はまるで部活帰りの男子高校生。その二人がそのまま仲良く大人になって、居酒屋で飲んでいるような対談が始まった。

これだけは先に伝えておきたい。このお二人、みなさんが抱いているようなイメージ、そのまんまです。

――今回は60歳を迎えようとしている人生の先輩から“飽きられない生き方”をうかがいたいと思っています。

遠藤:(難しそうな表情で)……飽きられない生き方?

光石:(困った表情で)飽きられない生き方……。

――お二人は"いい歳"と世間から言われる年齢になってから、ブレイクされていますよね。その人気は毎日上昇しているのですが、きっかけになったタイミングは覚えていますか?

遠藤:光石さんはさ、16歳からじゃない(笑)?(※光石さんは16歳のときにデビューし、映画で主演を務めた経緯あり)

光石:そんなわけないでしょう。でも僕なんかは、ここ1~2年間のことじゃないですか? 今日もちょっとドキドキしているんですよ。『いや~、バイプレイヤーズでしょ!?』って(笑)。こんな大掛かりに取材や舞台挨拶なんていいのかなって。

遠藤:役柄とか、なんか変わったことないの?

光石:一番大きかったのは30代中盤でしたね。いわゆるアウトローの役だったんですけど、それまで経験がまったくなかったから、自分にいい刺激になったというか。でもそれが周囲の景色が変わるようなことではなかったんだよなあ……。ホント、ここ数年で起きることが多くて。

――アウトローな役といえば、かつては遠藤さんの専売特許のようなものでした。

遠藤:そうそう、悪い役ばっかりでしたからね。でもそれを変えてもらったのが『白い春』(関西テレビ・2009年)のパン屋の役。話が進んでも一向にキャラクターが悪くならないからプロデューサーさんに「いつから悪くなるんですか?」と聞きにいったほどです。そこから普通の役が増えていったからひとつの転機なんですけど、自分からね、仕掛けたものでもないし。でもさ(世間から)飽きられるとか、気にする?

光石:全然そこは気にしないんだよね。今日、インタビューのテーマを聞いて、(しみじみと)そういう考えがあるんだなって。

――最近は会社員として働くよりも個人事業主として働く人も増えているんですよね。規模はそれぞれ違いますけど、飽きられたら終わり、という考えもあります。

遠藤:そりゃそうですよね。使ってもらえなきゃ仕事もないわけですし。

――だからといって、仕事をくれそうな上役の人に媚びを売ることもしなそうですよね。お二人は。

光石・遠藤……しないですねえ。

――例えば「これだけは」と決めて続けてきたこだわりはありますか?

遠藤:俺はね、自分を飽きさせないようにすること。作品によっては「あ、やりづらいな」って思う作品もある。でも、現場で飽きないように自分と戦う。こう、グーっと生命力を湧かせるように。

光石:僕がそんな遠藤さんを見ていて思うのが、ポジティブだなって。(現場に)来たからにはなんとか楽しんで帰ろうとしている。そこは学びましたね。

遠藤:ホントはネガティブよ。

光石:そうかな。

遠藤:この『バイプレイヤーズ』の現場は楽しいじゃん?

光石:ここは特にね。でも最近、現場に単身で行って周囲からおじさんだって気を遣われることあるよね。なんか寂しくない?

遠藤:(「……そんなことあるんだ?」という表情)

光石:まあ、あなたはないでしょうけどね(笑)。

遠藤:ホントに俺は仕事以外にこだわりがないけど、光石さんはあるよね。昔さ、飲んでいるときにそんな話になって「俺、ぜんぜんこだわりないから!」って言っていたのに、すんごいアメ車に乗ってきたことあるでしょ(笑)。

光石:あのときはね(笑)。

遠藤:それが今はファッションの番組(You tube『光石研の東京古着日和』など)とか、めちゃくちゃこだわっているんじゃないかって(笑)。

――お二人、今年中にはめでたく60歳を迎えるそうですね。

光石:僕はもっと大人なのだろうと思っていましたけど、全然みたいです。

遠藤:去年さ『竜の道 二つの顔の復讐者』(関西テレビ・フジテレビ系 2020年)で共演した西郷輝彦さんに言われたことがあるのね。

光石:ほう。

遠藤:「60歳って若いなあ! いいぞ、60歳は最高だぞ!!」って。「なにがいいんでしょうか?」って、その続きも聞きたかったんだけど、今フェイスシールドもしているし、距離もあるから聞こえにくいのね。「え?」って聞いているうちに「お願いしまーす!」って撮影が始まっちゃったから、その先は聞けなかったんだけど、その「いいぞ!」を信じている(笑)。

光石:僕も30代の頃に、先輩から「40代をどう過ごすか? のために30代があるんだぞ」と言われて。そこから毎日毎日、どこかに刺激を求めてここまで繋がっているようなものです。50代はめちゃくちゃ早かったですけど。

――これからそんなお二人のように時間を重ねたいと思う、全国の後輩たちに向けてアドバイスがあればお願いします。

遠藤:ずーっと上り調子ということはないでしょう? むしろきついなと思うことには意味がある。

光石:(深くうなずく)

遠藤:今のコロナ禍もそうだけど、後になって見えてくる意味が必ずある。仕事だって、あったりなかったりっていう、浮き沈みは正直あるんですよ。でもそんなことをいちいち気にしていても仕方ないと思っているし。調子がいい時もあれば、悪い時もある。そういうもんじゃないですかね。

光石:(もっと深くうなずく)


まるでミニコントを見ているようなインタビューが終わった。二人から学んだ"飽きられない生き方"とは、実直であることだ。冒頭で二人はこのテーマを伝えたときに、いぶかしそうな表情をしていた。それでもアクリル板越しに、目も見開きながら真剣な表情でこちらの質問を聞き込む。そして、自分の答えを真剣な表情で、探していた。

俳優ならそれが当然だと思われそうだけど、演者も人間。自分の親のようにどうしても頑固に、偉そうになってしまう。でもそれを感じなかったのは彼らが一流の"バイプレイヤー"だから。世間の片隅には"一番手よりも二番手のほうがかっこいい"という説があるけれど、その生きる証明だ。

そんな可愛い還暦のおじさんを見つめて、明日から実直に、笑って、できることをやろうと思った。