エンタメライターのスナイパー小林が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。

第20回はタレントのユースケ・サンタマリアさんについて書いていきます。この春スタートのドラマ『わたし、定時で帰ります』(TBS系)に出演予定のユースケさん。よく読み直したら芸名からしても彼は他タレントとは一線を画しているユースケ・サンタマリアさん。字面からして軽い印象が否めないですね。でもそんなこと“スナイパー小林”なんて、軽いにもほどがあるペンネームの人間に言われたくないよな。さて今回はハマったら最後、底知れぬ沼のような魅力を持ったユースケさんについて。

ユースケ登場で物語が"ミステリアス"へと着火

ユースケ・サンタマリア

ウエブ制作会社に勤務する東山結衣(吉高由里子)は残業ゼロ貫く、珍しいタイプの社員。どんなことがあっても定時で退社、そして恋人の諏訪巧(中丸雄一)との時間も大事にする。ただ新任の部長・福永清次(ユースケ・サンタマリア)は結衣の意向とは全く違い、ブラック企業を彷彿させる指示を社内に発していく。

というのが、新ドラマ『わたし、定時で帰ります』のあらすじ。まだ放送されていないので内容は未知数だ。でもユースケさんの役はホームページによると『ブラック発言を連発する部長』の記述があった。これはエキセントリックな役柄であると期待したい。

ユースケさんの俳優の顔が脳内へ鮮明にインプットされたのは名作『踊る大捜査線』(フジテレビ系・1997年~)の真下正義役。父親は警察幹部、東大卒のキャリア組という、どこか屈折したものを感じさせる役。『ドラえもん』でいうスネ夫の立ち位置である。その後、真下はスピンオフの映画にもなったほどの名キャラクターだ。個人的に真下が成し遂げた偉業は雪乃さんと結婚できたことだけだったと思うけど。

そして『踊る〜』を皮切りに信じられない量の作品に出演を果たしていく。昨今で印象に残った作品といえば『火の粉』(東海テレビ、フジテレビ系、2016年)の武内真伍役。良い人を装いながら隣の家族に近づき、ひとりひとりを恐怖に陥れていく。笑う、怒鳴る、泣く。サイコパスの役を彼は自分のモノにしていた。この作品はそれまでに何度か映像化されたことがあったけれど、ユースケさんの演じた回が狂気に満ちていて、一番面白かった。

融通の利かない父親、DV夫、知的障害者と彼が演じるのはどこか変わっている役が多い。普通のお父さんを演じても「この人ひょっとしたら笑顔の向こうにとんでもない過去を抱えているのではないか」と勘ぐってしまう。登場だけで何かを匂わせてくることができる俳優と他にどれくらい存在するのだろう? 365日、テレビドラマを見まくっているオタクにさえもそんな簡単には浮かんでこない。

書き連ねても終わらない、オチなしの魅力

なぜユースケさんさんは変わり者の役が多いのか? そして世間では「面白い人だよね(笑)」と評されることが多いのか? その理由は彼がドラマ、映画出演とほぼ同量のバラエティ番組に出演していることだと思う。

どの番組でも本音さく裂で、放送禁止ギリギリの言動に司会者を慌てさせたことが何度あっただろう。例えばほか出演者と会話が噛み合わなくても自分の発言を貫くという独特のスタイルを何度かテレビで見かけて笑った。彼の軽さはいい。必死さもなく、常に飄々とした雰囲気。彼には気合と根性という言葉が一切、似合わない。

中でも忘れられないのは彼が長くレギュラーを務めたていた『『ぷっ』すま』(テレビ朝日系)での一幕。共演者の草なぎ剛が、泥酔による刑事事件を引き起こして出演を自粛する回のこと。

「ツヨシがやらかしましてね(笑)」

と、ひと言。世間はスーパーアイドルの起こした事件の影響を重く受け止めていた時期だ。そこに吹いた一筋の爽風だった。「こんな発言を待っていました!」と笑ったことを覚えている。そしてそのひと言に助けられた人もたくさんいたはずだ。

この人は何者なのだろうか。俳優、タレント、ミュージシャン。知っている言葉を並べても当てはまらない。自由な生き方とムードを醸し出している有名人といえば、所ジョージやヒロミが思い浮かぶけれどどれにも当てはまらない。そう、彼はユースケ・サンタマリアという新ジャンル。

こうして書いていても魅力や疑問がどんどん湧いてきてしまう。止まらない、困った。だから言ったじゃないか、ユースケ・サンタマリアはハマったら怖い底なし沼だって。

スナイパー小林

ライター。取材モノから脚本まで書くことなら何でも好きで、ついでに編集者。出版社2社(ぶんか社、講談社『TOKYO★1週間』)を経て現在はフリーランス。"ドラマヲタ"が高じてエンタメコラムを各所で更新しながら年間10冊くらい単行本も制作。静岡県浜松市出身。正々堂々の独身。