エンタメライターのスナイパー小林が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。
第22回はHey! Say! JUMPの伊野尾慧さんについて。現在放送中のドラマ『家政夫のミタゾノ』(テレビ朝日系)に出演中の伊野尾さん。冒頭の見出しで『脚自知者明』という聞き慣れない言葉を使いましたが、正しく表記すると『知人者智、自知者明』という老子の言葉。他人のことが分かる人は物事の本質的なことが分かる人、でも自分のことを知る人はその上を行く人、という意味があります。伊野尾さんは、その己を知る人なのだろうと思っていたらこの言葉が浮かんできました。なんだか真面目な話から始まりましたけど「"伊野尾ちゃん"はすごいよね!」と感心したただの感想です。
まずは同性の先輩のハートをキャッチ
三田園薫(松岡昌宏)は、『むすび家政婦紹介所』に所属するメンバーの中でも、ダントツの家事スキルを誇る、いわばエリート家政婦。依頼のあった家庭に入り込み、毎回、住人内で巻き起こっている問題をやや強引な方法でいつの間にか解決に導いていく。
というのが、ドラマ『家政夫のミタゾノ』(以下、ミタゾノ)のあらすじ。伊野尾さんは、三田園を教育係に新人として働き、先輩をサポートする村田光役。昨年の『トーキョーエイリアンブラザース』(日本テレビ系 2018年)以来のドラマ出演だ。このキャスティングを聞いて、まず「さすが……」のひと言が出た。『ミタゾノ』といえば、何かと各家政婦モノのドラマと既視感があると物議を醸し出しつつ2016年にスタート。着々と人気を重ねて、今クールは第3シリーズとして放送されている。そんなジャニーズ事務所の先輩の作品に、出演しているのが伊野尾さんだ。
傍目に見ていても、伊野尾さんが所属するジャニーズ事務所では、才能溢れる後輩たちが続々と登場。芸能界というシチュエーションで考えても、個性の嵐が吹き荒れている。そんなタレント戦国時代の最中、彼が各ニュースやバラエティ番組で、自分の存在をきっちり示すことができるのか? 考えていくとそこには"己を知る"ことを武器にした彼の姿が見えてくる。
まず、第一段階のデビュー戦国期。これは後々、ネットで知った情報なのだけど、彼は女性に近い可愛らしいビジュアルで、先輩たちに相当可愛がられていたと聞く。これが今で言うとKing & Princeの岩橋くんの存在と近いのだろうか。眉と目の間の長さで常に厚めの前髪を揃えて、子犬のような潤んだ瞳で見つめる。昔、女性雑誌の『必殺合コンテクニック講座』で聞いたような手法を用いていたわけだ。先輩に可愛がられていれば、必然的に自分の珍しい苗字が世間に流れることになる。これは偶発ではない、全てが伊野尾さんの計算の上で成り立っているはず。自分の良さを知っている。
世にも奇妙な独女の園へ飛び込む、度胸と愛嬌
途中、建築学科を卒業した経緯からインテリアイドルを売りにしていた時期があった。でも高学歴アイドルもデフォルト化している時代だ、一般的にはそんなに印象に残らなかった。
ここで己を知る伊野尾さん、切り替えも早くあっさりインテリ系の道を捨てて『めざましテレビ』(フジテレビ系)の木曜リポーターに就任。何度か観たけれど、ゴリゴリのお笑いの雰囲気ではなく、ちゃんと視聴者と同じ目線で話す様子だった。これ、好印象。
そして現在の彼を賞賛するうえで『メレンゲの気持ち(以下、メレンゲ略)』(日本テレビ系)の司会をしていることは欠かせない。考えてみてほしい、久本雅美といとうあさこがいる飲み会に出席する勇気はあなたにあるだろうか? 地位も財産も手にした独身女性の二大巨塔が鎮座しているのである。参加した状況を想像するだけで、凄惨な現場にしか思えないのに、彼はその間にすっぽりと収まって仕事をしている。
声援を浴びているステージからは降りて、『メレンゲ』内ではあくまでもモテないキャラ。たまに事務所の後輩がゲストで登場しても
「いや~、そんなに絡みもなくて」
と独女先輩たちに話す。彼の先輩から可愛がられるキャラクターなら後輩に興味がなくても当然だ。そこで無理に会話を続けることなく、正直に話すところも彼らしい。普通なら荒波としか思えない女の園(『メレンゲ』)に、己をよく知る彼は泳ぎ切る自信を持って飛び込んでいる。ニュースキャスターでも、俳優道でも、お笑いでもない。伊野尾さんが独自に切り開いた新しいキャラクターだ。
改めて言うけれど敬うべき姿。国内最大手の芸能事務所に所属をして、デビューを果たしていると言うのはその時点で血反吐を吐くような努力を重ねている。そこをスタートにさらに努力を続けていく、愛らしい“伊野尾ちゃん”。彼が常に足元を見ることを忘れない姿勢、見習いたい。なんせ、自分のことが良く分からないことを言い訳の一つにしてずる賢く生きている性分なので。