悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、自分より年上の職場の人が何度も同じことを聞いてくるので、上手く注意できないかと悩んでいる人のためのビジネス書です。

■今回のお悩み
「何度も同じことを聞いてくる年上の人。上手く注意するにはどうしたらいいか」(39歳男性/事務・企画・経営関)

  • 年上の人への上手な注意の方法は?


僕も会社勤めをしているとき、何度も同じことを聞いてくる人に悩まされたことがあります。いや、その彼は年下で、基本的にはいいやつでもあったので、悩まされたというほどではなかったかな。「同じことばっかり聞くなよなー」と、楽にツッコミを入れることができましたし。

いずれにしてもそんな経験があるからこそ、今回のご相談には多少なりとも共感できるのです。相手が年上だということなので、いろいろ厄介でしょうしね。そういう人への対処法もいろいろあるでしょうが、答える側には多少なりとも「割り切り」が必要なのではないだろうかと個人的には考えています。

嫌な気持ちにならないように、ある程度「こういう人だから」と割り切ることで、気持ちをガードしてしまうわけです。妥協と言われればそのとおりかもしれませんけれど、少なくともそうすれば、ストレスは軽減できますから。

また、(実際には同僚もしくは部下だったとしても)「自分が相手にとってのリーダーなのだ」というような意識を持っておくことも無駄ではない気がします。

マウントを取れという意味ではなく、あくまで相手には気づかれないように、こちらが教える立場なのだという意識を持っておくということ。そうすれば、ある程度は割り切りやすくなるのではないでしょうか。

「叱る方法」の4つのポイントは?

そう考えると、本来は上司やリーダーのための本である『働く人を育て、組織力を最大にする 短くても伝わる対話「すぐできる」技法』(森下裕道 著、大和書房)も、意外と役立ちそうな気がします

著者は接客、営業、人材育成、人間関係のコミュニケーション問題などを専門とするコンサルタント。そうしたキャリアを軸として、本書では職場の人間関係にまつわるトラブルの解消法を明かしているわけです。

年上の人にうまく注意をするためにはどうしたらいいかという今回の問題に関しては、第5章「自己成長を引き出す『叱る技法』」内の「『叱る』はどこまですればOKなのか」が参考になりそうです。

(1)冷静に、力まず、叱る
(2)今の事実のみを具体的に叱る
(3)小言は重く、大事は軽く
(4)「その場で」叱る
(212~214ページより抜粋)

  • 『働く人を育て、組織力を最大にする 短くても伝わる対話「すぐできる」技法』(森下裕道 著、大和書房)

まず(1)は鉄則中の鉄則ですが、ひとつ重要なポイントがあるようです。感情的になるのではなく、冷静に大きな声を出すことが重要だというのです。なぜならそうすれば、相手は「これは聞かなければならない!」と感じ、話を聞くようになるから。

(2)は、いまの事実だけを指摘し、「なぜ、いけないのか?」「なぜ、いま叱っているのか?」「なにに注意しなければならないのか?」を具体的に叱るべきだということ。

(3)は、「当たり前のこと」ができていないときほど厳しく叱らなくてはいけないという考え方。そして(4)は言うまでもなく、ミスや間違いがあったら、なるべくその場で叱ったり、注意しなくてはならないという"基本"。

どのみち注意しなければならないのなら、ストレスをため込まないことが重要。そして、過度に気を使いすぎても疲れてしまうだけです。でも、これらを意識しておけば、それだけでも多少は気持ちを平穏に保てるのではないかと思います。

"怒る"ことは悪いことではない

ところで、怒るのはよくないと考えている人は少なくないだろうと思います。僕自身も、それを心がけてはいます。しかし『怒る技術 怒られる技術』(福田健 著、日本経済新聞出版社)の著者は、違った考え方を持っているようです。

言わなくても相手は気づいてくれるだろうという発想には、見落としがあるというのです。

第一に、黙っていたら、相手は気づかない。むしろ、気づいても気づかないふりをする。
第二に、うまくいかない場合、怒ること自体が悪いのではなく、怒り方に問題があると考えたほうがいい。怒り方を工夫し、改めれば、相手の受け入れる余地は十分にあるのだ。(「はじめに――怒るのはよいうことである」より)

  • 『怒る技術 怒られる技術』(福田健 著、日本経済新聞出版社)

うまくいかない危険を感じつつ、「現状をよくしたい」「不満を解消したい」と考えて、怒ることを選ぶべきだということ。

だとすれば「怒る」と「叱る」の違いが問題になってきますが、両者の違いについてはこのような解説があります。まずは「叱る」について。

「叱る」は人を育てる役割の人間が、相手の態度・行為・考え方などの誤り、ルール違反を指摘して、改めさせることを目的としたコミュニケーションである。(中略)弱点・欠点を改めて、自分を伸ばしていくのには、他人の力が必要になる。それが「叱る」コミュニケーションであった、人を育てるのに大事な役割を果たす。(「はじめに――怒るのはよいうことである」より)

では、「怒る」はどうでしょう?

「怒る」は、人間なら誰もが感じる自然な感情で、よいも悪いもない。
「叱る」が人を育てるために行われるのなら、「怒る」は、自分らしく生きるために、「不当な行為」「身勝手な要求」「約束の不履行」「人を傷つける発言」等々に対して、
・改善を要求する
・理解を求め、あやまってもらう
のが目的で行われる。
(「はじめに――怒るのはよいうことである」より)

なお、人をどなりつけたり、感情剥き出して非難するのは「怒る」ではないそうです。大切なのは、「怒るべきときに、怒りの感情を伝え、相手に認めさせ、問題解決をはかる」こと。

たしかに、そういう意味での「怒り」であれば伝えるべきなのかもしれません。とはいえそれは、決して簡単なことではないはず。そこで本書を熟読し、自身にとっての最良の策を考えてみてはいかがでしょうか。

冷静に怒るための方法なども書かれた本書は、なんらかの気づきを与えてくれるのではないかと思います。

呼吸法を使い"ゆるせない”気持ちを手放す

さて話題は変わりますが、今回のようなお悩みの場合、無意識のうちに相手のことを「許せない」と感じているかもしれません。そこで最後に、上記の2冊とは違ったタイプの本もご紹介しておこうと思います。

その名も、『「ゆるせない!」がスッキリなくなる方法』(倉橋竜哉 著、かんき出版)。

ちょっとしたことでイライラしたり、腹をたててしまったり。小さな失敗をずっと後悔し続けたり、考えたくないと思っても思い浮かんできてしまう憎たらしい人のことをずっと考えていたり。(中略)その負の感情は、もしかすると「ゆるせない」という気持ちが元になっているかもしれません。(中略)「ゆるせない」のには理由があります。そしてその理由を理解して、手放す準備ができれば、あなたが思っているよりも簡単に「ゆるせない」を「ゆるし」に変えることができます。(「はじめに」より)

  • 『「ゆるせない!」がスッキリなくなる方法』(倉橋竜哉 著、かんき出版)

こう主張している著者は「マイブレス協会」代表理事として、「マイブレス式呼吸法」の指導を行っているという人物。呼吸法とは、息を吐いたり擦ったりすることを意図的にコントロールすることによって、心身のコンディションを整える方法です。

「呼吸法」と「ゆるし」にはなんの関係もないようにも思えますが、マイブレス式呼吸法を学び始めた人の多くは、数週間から数ヶ月で顔つきが穏やかになってきて、「いままでゆるせなかったことが、ゆるせるようになった」と実感するというのです。

たとえば呼吸法は、仏教の禅の修行でも取り入れられています。禅とは何かを一言で言えば、「執着を手放すための鍛錬」です。そして人間が執着することの一つが、「ゆるせない」という気持ちです。つまり呼吸法を使うことで、「ゆるせない」という執着の気持ちを手放すことができるのです。(「はじめに」より)

もちろん「ゆるし」の気持ちを持つだけで、今回のご相談のようなお悩みのすべてが解決するわけではないでしょう。なにしろ自分自身だけではなく、相手の気持ちや行動も絡んでくるのですから。

しかし、たとえば最初にご紹介した2冊によって相手との関係性を改善し、同時に本書で「ゆるし」のスキルを学べば、職場での人間関係の悩みを緩和できるかもしれません。

印南敦史

作家、書評家。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家として月間50本以上の書評を執筆。ベストセラー『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)を筆頭に、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)ほか著書多数。4月8日発売の最新刊は、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)。