悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、転職を考えている30代におすすめのビジネス書です。

■今回のお悩み
「転職する際に注意すべきことは?」(34歳男性/営業関連)


僕は35歳でフリーランスになりましたが、それ以前には何度かの転職も経験しています。振り返ってみれば、うまくいった転職も、うまくいかなかった転職もあったという感じ。

当たり前の話ですよね。とはいえ、少なくとも当時は転職に対する考え方が現在とは大きく違っていた気がします。

端的にいえば昔は「転職する人=長続きしない人」というようなイメージを持たれることも少なくなかったということ。

必ずしもすべての転職者がそうしたレッテルを貼られていたわけではないでしょうが、少なくとも僕のようにあまり優秀ではなかった人間は、そうした空気を感じることもなくはなかったわけです。

ただ、いまの時代は違うようです。基本的に現代における転職は、「蓄積してきた経験や実績を活かすためのステップアップの手段」なのではないですから。

だとしたら間違いなくチャンスであり、したがって、そんなチャンスはしっかりと活用したいところ。今回のご相談者さんは34歳ということなので、転職するにもちょうどいいタイミングなのではないでしょうか?

自分の現在地を知る

などと漠然と、そして楽観的に考えていたのですが、『35歳からの後悔しない転職ノート』(黒田真行 著、大和書房)の著者によると、どうやらそれほど甘くはないようです。

  • 『35歳からの後悔しない転職ノート』(黒田真行 著、大和書房)

著者は転職市場に関わる仕事をしたのちに独立し、"35歳のミドル世代"専門に転職支援を行う会社を立ち上げたという人物。いわば転職のプロフェッショナルですが、そうした実績に基づき、「ミドル世代の転職は難しく、そんな現実がまだまだ知られていない」と述べているのです。

ホワイトカラーやエンジニアを対象とした、正社員の中途採用市場で募集されている人材は、大企業やベンチャー企業ではせいぜい32歳まで。もっとリアルなところでいえば、30歳までという年齢制限があることも一般的。それを過ぎたら、よほど専門性が高い人でないと採用プロセスには進んでいきません。(「はじめに」より)

では、どうしたらいいのか? まず最初にすべきこととして著者が勧めているのは、「自分の現在地を知る」ことです。

人生100年時代といわれますが、いまのところ多くの人の人生は90年くらいになるだろうと予測されるため、そう考えると人生の真ん中は45歳ということになります。

しかし、10年という歳月は意外に短いもの。いま35歳の人も、あっという間に45歳になってしまうわけです。

それに多くの場合、会社からの仕事リタイアは65歳。つまり人生で働けるのは、実はせいぜい40年だということです。

それが会社員人生の現実であり、だからこそ「現在の自分がどこにいるか」を見据えて行動することが必要になってくるわけです。

皆さんの現在地が35歳だとして、さて今、何をするべきでしょうか。見極めなければいけないのは、果たしてこのままでいいのかどうか、ということです。このまま30年、ひとつの会社で過ごせるのかどうか、それをシビアに見極める必要があります。(24ページより)

将来を見据えた視点が求められるのでしょうが、とはいえ現実的に「10年後の自分」を想像することすら難しいものでもあります。たとえば35歳の人にとって、10年後、すなわち45歳の自分はなかなか想像しづらいものであるはず。

そこで自分なりの未来像を考えてみるための手段として、著者は「自分の10年前を振り返ってみること」を勧めています。

10年前の自分は何をしていたのか。どんな仕事をして、どんな成果を出し、どんな課題を抱えていたのか。どんな学びや自己投資をし、どんなプライベートを送っていたのか。自分が通ってきた過去、10年前の姿を振り返ってみると、意外に10年という期間が短いものだと気づいていただけると思います。(42ページより)

時間はあっという間に過ぎていくという"有限のリアリティ"を自覚し、「どんなふうになっていたいのか」をできるだけ具体的に描いておく。そのための計画を考え、アクションに落とし込んでいけば、戦略的に生きていくことができるということ。

そうした考え方に基づく本書は、「転職を成功させたいけれども、具体的にどうすればいいのかわからない」という方にとっての羅針盤となってくれるでしょう。

転職でなにがしたいのか「夢」を掲げる

『これだけは知っておきたい「転職」の基本と常識 改訂新版2版』(箱田賢亮 著、箱田忠昭 監修、フォレスト出版)の著者も、「転職で『なにがしたい』のか」の重要性を強調しています。

  • 『これだけは知っておきたい「転職」の基本と常識 改訂新版2版』(箱田賢亮 著、箱田忠昭 監修、フォレスト出版)

たとえば採用試験で「なぜ転職するのですか?」と聞かれたとき、「いまの会社が自分を評価してくれないので」「もっと自分に合う仕事があると思って」「給料が少なくて」など現実逃避型の理由を述べるのは、消極的すぎて意味のないこと。採用者にとって、そして会社にとって、個人的な事情はどうでもいいわけです。

採用者が欲しい答えは、「こんな仕事がしたいので転職を考えた」であり「入社したらこんなことがしたい/できる」という変革への意欲なのです。(36ページより)

しかし、この答えは自分を知らないと出てこないものでもあります。そこで、「自分がやりたいこと」というコンパスを持っておくべきだと著者は強調しています。

人に笑われるような突拍子もないことでも、いまやっていることの延長でも、とにかく「夢」を掲げることが大切だという考え方です。

「夢=やりたいこと」を掲げると、道が見えてきます。自分なりの価値観が生まれ、会社選びの基準ができます。夢を実現させるには、どういう業界のどういう会社がその舞台になってくるかがわかってきますし、譲れない部分と妥協できる部分も見えてきます。(36ページより)

たとえば、ものづくりが好きで機械の設計をやりたいと思っていた商社マンが、町工場のような中小企業に転職したとします。給料も下がり、会社の規模も小さくなったなら、周囲からは転職が失敗したように見えるかもしれません。

でも、やりたかった仕事ができるようになり、会社にも認められて大満足しているのだとしたら、本人にとってその転職は大成功だったということになるはず。

つまり成功か失敗かは、自分の価値観ではかるべきで、他人が決めることではないということ。大企業であろうが中小企業であろうが、本人が納得できることこそが重要なのです。

会社の規模に惑わされずやりたいことを

『「最強の内定」を手に入れる! 新しい転職面接の教科書』(福山 敦士 著、大和書房)の著者も、「大企業だから、という思考停止は危ない」と主張しています。

  • 『「最強の内定」を手に入れる! 新しい転職面接の教科書』(福山 敦士 著、大和書房)

著者は20代で独立して採用代行の事業を立ち上げ、自社以外の採用活動の裏側も見てきたという人物。そののち上場企業の取締役人事本部長として採用活動を行い、同時に転職エージェント・人材会社を経営し、多くの就職/転職相談に乗ってきたのだそうです。

そんな著者は、「若者の大企業離れ」が各地で起きていると指摘しています。「大企業だから安心」とは、もはや断言できない時代になってきているというのです。

僕自身、若い人たちの変化を実感しています。社会人になってから毎年、大学生向けの就活相談会を続けていますが、2010年代前半は「安定した会社に入りたい」「大企業に入りたい」という意向が顕著でした。一昨年くらいから「手に職をつけたい」「自分の実力をつけてキャリアアップ前提で就職したい」という子たちが増えてきているのです。(27ページより)

これは彼らが、「自分の親の世代は、定年まで安定しているわけではない」と実感しているからだとか。加えて親自身も以前のように、「公務員になりなさい」「大企業に入りなさい」と口に出せなくなってきている。そんな時代だということです。

だからこそ「単にブランドで選んでいないか」「知名度だけで選んでいないか」ということを自己認識しておくべき。これはもちろん、転職者にもあてはまる考え方です。

そんな意識を持ちながら、会社の規模に惑わされることなく、自分のやりたいことをすべきだということ。

なお参考までに書き添えておくと、そうやって選んだ会社が「転職者が活躍している会社かどうか?」も重要なポイントだそうです。

企業イメージがどうであれ、実際の管理職の人は新卒なのか中途なのか、また社長の経歴はどうなっているのかといったあたりを気になる会社に関してはチェックするといいと思います。ちなみに、割合として新卒が多くても、中途を求めている会社が多いことも事実です。(24ページより)

なかなか気づきにくいことかもしれませんが、たしかにこれもまた見逃すべきではないポイントだといえるでしょう。