悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「テレワークでの『伝え方』がうまくいかない」という人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「テレワークでの『伝え方』がうまくいかない」(53歳男性/営業関連)


テレワークが浸透したというけれど、どうにもコミュニケーションがうまくいかない。

そんな意見をよく聞きます。でも実際のところ、抵抗を感じている方の多くは「思い込み」に縛られ過ぎている部分があるのではないかと感じます。「コミュニケーションは対面が基本なのだから、オンライン上でのやりとりなど“あり得ない”」というように。

けれど、必ずしもそうではないと思うのです。

大手企業で部長職についている、50代の古い友人がいます。デジタルが苦手な典型的アナログ人間で、届くメールを見る限りキーボード入力も得意ではなさそう。

新しいものを拒否するタイプでもあり、好きな音楽を聴く際にもサブスクなどを受け入れようとせず、いまだにCDにこだわったりしています。

それが彼のスタイルなのだから別にかまわないのですけれど、ひとつ意外で、でも深く納得もできたことが最近あったのでした。

Zoomで会議をしたところうまくいったらしく、以来、「会議はZoomでまったく問題ないよ。むしろ便利」などと、アナログ人間らしからぬことを主張しはじめたのです。

思わずウケてしまったのですが、これはZoomを知る以前の彼が思い込みに縛られていたことを証明していると思います。「新しいものは苦手」と受けつけようとしないけれど、使って利便性を実感できたら、一気に“デジタル力”が向上したということ。

「テレワークが苦手」「テレワークではうまく伝えられない」と主張する方にも、同じことがいえると思うんですよね。やってみて利便性を実感できれば、苦手だったことは一気に"得意なこと"になる可能性があるのです。

WEB会議は目の前に相手がいるつもりで

もちろん、テレワークでのコミュニケーションの最たるものであるWEB会議でも同じ。

注目すべきは、『人と仕事が動きだす! WEB会議とメールの技術』(齋藤 孝 著、主婦の友社)の著者の主張です。そもそも普段からコミュニケーション能力が高い人は、比較的すんなりオンラインに移行できているというのです。

  • 『人と仕事が動きだす! WEB会議とメールの技術』(齋藤 孝 著、主婦の友社)

反面、普段からコミュニケーションが苦手な人は、WEB会議だとマイナスが増長されてしまう。いわばWEB会議ではコミュニケーション能力がより如実に現れてしまうということ。

とはいえそれは、電話がコミュニケーションの主流だった時代からあったことでもあります。つまりコミュニケーションに苦手意識がある人は、往々にして電話も苦手だということです。

電話だと緊張しがちなのは、相手の顔が見えないから。対面だと、表情、身振り手振りなど、ことば以外のものから伝わるものがありますが、電話にはそれがないわけです。

それでも電話が普及したのは、「会えないのだから、せめて声くらい聞きたい」という思いが多くの人にあったから。たしかにそう考えれば、「WEB会議でコミュニケーションするための苦労などなんでもない」と解釈することもできそうです。

「すでに慣れている電話が、より使いやすくなっただけ」と考えればいい。電話が苦手でも、映像付きならなんとかなる、と思えば、WEB会議に対する心理的障壁はぐっと下げられます。(21〜22ページより)

ちなみに著者はこのことに関連し、「会話のように留守電を吹き込むコツ」を引き合いに出しています。それは、相手が目の前にいると思いながら話すだけ。

留守番電話で話したとき人工的な調子になってしまいがちなのは、話しかける相手を留守番電話のレコーダーだと思っているから。でも相手の顔を思い浮かべながら話せば、メッセージがなめらかで人間的になるわけです。

これはWEB会議も同じです。目の前に相手がいる、と思って話すこと、聞くことを意識すればいい。(24ページより)

まずはこのことを意識してみるだけでも、WEB会議でのコミュニケーションは変化するかもしれません。

メールは大事なことを簡潔に書いた文章に

では、メールについてはどうでしょうか? 冒頭でも触れたとおり、年齢の高い人のなかにはメールを書くこと自体が苦手という人もまだまだいるようです。

だとすれば抵抗なく読んでもらえるようにすることも、テレワークでの伝え方を円滑にするためには欠かせないはず。

そして、その場合の重要なポイントは、簡潔に表現することではないでしょうか?

そこで『テレワークで人を動かすリーダーのメール術』(吉田幸弘 著、秀和システム)で紹介されている、「できあがった文章を要約するための『3つのポイント』」に焦点を当ててみたいと思います。

  • 『テレワークで人を動かすリーダーのメール術』(吉田幸弘 著、秀和システム)

思いつくままに書いた文章を送ると、相手の時間を必要以上に奪うことになります。それどころか読んでもらえなかったり、間違った解釈をされる危険性も。

そこで、不必要な情報を削除し、大事なことを簡潔に書いた文章にするため、書いた文章は送信する前に要約することが求められるわけです。ポイントは4つ。

(1)情報を4つに分類する
・「相手が判断するのに必要な情報(求めている情報・相手のニーズに合った情報)」
・「相手が行動するのに必要な情報」
・「自分が伝えたい情報」
・「具体的なエピソードなどの事例」
(172ページより)

「相手が判断するのに必要な情報」とは「理由」にあたり、「相手が行動するのに必要な情報」は「詳細」。この2つの情報が足りていなければ、情報収集してつけ足す必要があるといいます。

「自分が伝えたい情報」については、自分の思い入れや過度な背景説明は削除して相手目線で考えるべき。「具体的なエピソードなどの事例」も最初のメールでは省いたほうがよさそうです。

(2)表現を見直して文章のダイエットをする(173ページより)

同じ意味のことばが続いていないか、同じことを繰り返していないか、回りくどくないかを確認し、それを削ることで、シンプルな文章になるわけです。

(3)結論が相手目線か、順番は正しいか(173ページより)

結論が相手目線になっているか、全体像(テーマ)の説明を「ひとこと」で言い表せるかを確認し、「全体像の説明→結論→理由→詳細」の順に並べ替えるといいそうです。

たとえばこういった"ちょっとした配慮"も、円滑なコミュニケーションを実現するためには欠かせないということです。

ITツールを活用してコミュニケーションを

ところで、「テレワークではコミュニケーションが減る」という意見があります。今回のご相談の根底にあるのも、そんな思いかもしれません。しかし、テレワークでは本当にコミュニケーションが減るのでしょうか?

この点について『サイボウズ流 テレワークの教科書』(サイボウズチームワーク総研 著、総合法令出版)の著者は、「チャットシステム」「テレビ会議システム」「グループウェア」という3つのITツールをうまく活用すれば、コミュニケーションは充分に確保できると断言しています。

  • 『サイボウズ流 テレワークの教科書』(サイボウズチームワーク総研 著、総合法令出版)

テレワークを始めた結果としてコミュニケーションに支障が生じたのではなく、むしろテレワーク導入以前から、チーム内のコミュニケーションに問題があった可能性が高いと考えることもできるというのです。

チーム内のコミュニケーション不足は、大きな問題が起こらない限りなかなか気づかないもの。つまり、テレワークが導入されたことで、それまで隠れていたコミュニケーション問題が顕在化するということです。

これは鋭い指摘ではないかと思います。

元々からコミュニケーション不足を深く意識しないまま、テレワークを始めて問題が生じたときに、対面でのコミュニケーションが制限されたことが原因だと考えてしまう人は案外多いものです。そこでコミュニケーションを見直すことなく、テレワーク自体をやめてしまっては、根本的に問題が解決されません。(112ページより)

したがって大切なのは、テレワークによる環境の変化をひとつの機会と考え、チームでのコミュニケーションを見なおすこと。そうすれば、テレワークでもオフィスワークでも、工夫次第で円滑にコミュニケーションをとって、円滑に仕事ができるようになるということです。

日頃から、チーム内で十分にコミュニケーションが取れていれば、テレワークに変わってもコミュニケーション不足に陥ることはほとんどありません。なぜなら、ITツールをうまく活用すれば、対面でやり取りしていたことをオンラインに代替するのは、実はそこまで難しくないからです。(113ページより)

テレワークだからといって、オフィスワークよりもコミュニケーションが減ってしまうとは限らないわけです。むしろ大切なのは、日常のコミュニケーション。この本質的な問題を、改めて考えなおしてみるべきなのかもしれません。