悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、コロナ禍の体調を不安視する人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「コロナが長引くことによるストレスの蓄積で体調不良が心配」(58歳男性/営業関連)


僕はフリーランスになってから20数年間、ずっと家で仕事をしています。来る日も来る日も、読んでは書き、書いては読み……の繰り返し。

あまり変化があるわけでもないので、たまに「よく耐えられるね」などともいわれるのですが、こういう地味な日常が性に合っているという部分もあるのかもしれません。

だいいち長く続けていますから、さすがに慣れっこになっていますし。つまりは単に習慣化できているだけで、能力の問題ではないと思っています。

ただ、通勤こそが習慣になっていたビジネスパーソンの方々は逆ですよね。コロナ禍に伴ってリモートワークが新たな日常になったとすれば、ライフスタイルを変えざるを得ないからです。

したがって今回のご相談のように、ストレスが溜まり、ひいては体調不良を意識せざるを得ない方々が増えてきてもそれは当然。

とはいえこれは長丁場になりそうですし、結果的には「必ずしも通勤が必要ではない」ということがわかってしまったため、コロナ収束後もリモートワークが続く可能性は充分にあります。

だからこそ必要とされるのは、一日も早く新たな生活習慣に慣れること。そしてストレスがたまらないように工夫をし、体調をしっかりと維持することなのではないでしょうか?

そこで今回は、そのような観点から3冊の書籍をセレクトしてみました。

疲労の原因と対処法を知る

『寝てもとれない疲れをとる本』(中根 一 著、PHP文庫)の著者は鍼灸師。なぜ鍼灸師が現代人の疲労に警鐘を鳴らすのか不思議に思う方もいらっしゃるかもしれませんが、そこには理由があるようです。

  • 『寝てもとれない疲れをとる本』(中根 一 著、PHP文庫)

疲労は活動したことで生まれる副産物のようなものであり、疲れている状態だと病気やストレスへの抵抗力や回復力を十分に発揮することは困難。風邪を引きやすくなったり、がん、アレルギー、認知症、胃腸炎、うつ病など、あらゆる病気の発症・悪化を高めてしまったりするリスクがあるわけです。

そんな、疲労によって引き起こされるさまざまな問題を未然に防ぐことこそが、鍼灸師が専門とする「東洋医学」の本当の使い方だというのです。

ちなみに著者は、新型コロナの影響についても言及しています。

疲労が溜まると、免疫反応に関わっている白血球中のリンパ球やNK細胞の働きが低下し、体内のウイルスの活動を抑えることができなくなることが分かっています。新型コロナウイルスへの感染を避けるために、在宅勤務で対策を講じていても、そのストレスのせいで免疫が適切に働かなくなる方が増えているようです。(「はじめに」より)

疲れは、身体が健康を維持できなくなったときの危険信号。だからこそ、疲労の原因とその対処法を知っておく必要があるということです。

疲れが積み重なっていくほど心身がどんよりと重くなり、動きづらくなるのは、体の新陳代謝が下がっていることが原因。エネルギーの伝達や血液やリンパ液の流れがうまくいかなくなり、代謝したことによって生まれた不要物が体から排泄されにくくなっているわけです。

東洋医学では、こうした疲れが溜まるイメージを「流れが滞る」ということばで表現しているのだとか。そして、そのことに関連し、ここでは東洋医学の「氣(き)」という考え方が紹介されています。

ちなみに著者は、「氣」を「代謝によって、体内がスムーズに流動していること」と考えているといいます。なぜならそれは、「変化するもの、反応するもの」と捉えることができるから。

つまり「氣(新陳代謝)」が流れている状態ならば、生じた疲労感もきれいに解消されていくということなのでしょう。逆に「氣の流れ」が滞ると、体内での代謝や生理現象もスムーズでなくなり、自然に解消されるはずの疲れが抜けず、重たく、不快なものがどんどん溜まっていくように感じるというのです。

このことに関連し、著者は仕事の仕方についてもひとつの提案をしています。

1日に何時間も、パソコンに向かって仕事をしていると、延々と同じ姿勢で作業を続けてしまうことになります。
でも能率のことを考えるなら、30分に一度、ほんの10秒間でも立ち上がったり姿勢を変えることをオススメします。これは、同じ姿勢を続けたことで生じた「筋肉的・気分的な停滞」を、適切なタイミングで「流す」ということです。(49ページより)

どんなに忙しくても、さっとリフレッシュできる方法やウキウキできる時間を上手につくれる人は、疲労が溜まりにくいものだといいます。つまり、自分に合った方法を見つけ出すことが大切なのです。そのきっかけとして、まずは上記のリフレッシュ法を取り入れてみてはいかがでしょうか?

医師が実践する体調管理に学ぶ

『絶対に休めない医師がやっている最強の体調管理』(大谷義夫 著、日経BP)の著者は、医師になってから30年以上経つのにほとんど病気をしたことがないそう。とはいっても、生まれつき頑強な体に恵まれたというわけでもないようです。

  • 『絶対に休めない医師がやっている最強の体調管理』(大谷義夫 著、日経BP)

忙しく「絶対に休めない医師」だから、休まずに済むためになにをすればいいのか、徹底的に追求しているというのです。たとえば自分の体調管理に活かせそうな最新の研究を見つけたら、論文を読み、実際に試してみて、効果を感じられたら定着させる。その繰り返しだということ。

すなわち休まずに済んでいるのは、「科学的に正しい体調管理」をひたすら実行しているから。本書においても、実際に行っている体調管理の方法を、誰でも実践できるようにわかりやすくまとめているのだそうです。

著者が実践している体調管理にあるのは、次の3つの柱。

  1. 体調を崩す最大の原因である風邪・インフルエンザを予防する
  2. 食事など生活習慣を整えて「体調を崩さない基礎体力」をつける
  3. 睡眠不足や運動不足など「不調のトリガー」を取り除く
    (「はじめに」より)

このように、体調管理を多角的に捉えているわけです。今回はそのなかから「食事」に焦点を当てたいと思いますが、たとえばヨーグルトの効果についてのトピックなどは興味深いところ。

ヨーグルトによって腸内環境が整うことは有名ですが、便秘の解消ばかりではなく、免疫力アップも期待できるというのです。

腸内環境を整えてくれるのは、ヨーグルトに含まれている乳酸菌です。人間の腸の中には1000種類以上の腸内細菌があり、それが、数にすると100兆個も住んでいます。「善玉菌」「悪玉菌」という言葉を聞いたことがあるかと思いますが、実は、乳酸菌が善玉菌を増やし、悪玉菌を退治するから腸内環境が良くなる、という単純な話ではありません。
腸内にどのような細菌がどれだけすんでいるかは、人によってそれぞれ異なります。そのバランスは、ヨーグルトを食べればすぐ改善されるわけではありませんが、食べ続けることで、少しずつ整ってくるのです。(138ページより)

ヨーグルトにしても他の食べ物にしても、最後の「食べ続けることで、少しずつ整ってくる」という部分が重要なのではないでしょうか? 体調を保つためには、そんなところも意識すべきだということです。

天気と体調の関係を考える

さて最後に、ちょっと変わった一冊をご紹介しましょう。『体調管理は天気予報で!! 村山貢司の健康気象学』(村山貢司 著、東京堂出版)がそれ。「NHKニュースおはよう日本」や「NHK週刊ニュース」の気象キャスターを担当していた気象予報士である著者が、「月ごとの気象の特徴と、その気象によってその月に注意しなければならない病気や健康」について解説したものです。

  • 『体調管理は天気予報で!! 村山貢司の健康気象学』(村山貢司 著、東京堂出版)

著者は本書の冒頭で、日本人と病気の関係について指摘をしています。多くの日本人は病気になると医療機関に足を運び、治療、投薬を受けるのが一般的であったと。

しかし気象、環境が急激に変化するなかで健康を守るためには、病気との関係を考えなおす必要があるというのです。

自分の病気のことを知り、どのようなときに持病が悪化し、発作が起きるかを知っておきましょう。その中には気象の変化によるものが多く含まれているはずです。持病が悪化した日を日記やカレンダーに記録し、後で気温や湿度との関係を調べるとよいでしょう。(「はじめに」より)

気象が関係する場合には、前日の気象情報から予防策を立てることが可能になるそう。また、医療機関にその情報を伝えることによって、より適切な治療を受けることができるようになるわけです。

あるいは気象情報とまったく関係ない場合には、食べ物の影響、生活習慣、仕事のストレスなどが原因であることも考えられます。つまりは、病気や体調不良の原因を知り、積極的に予防策をとることが大切だという考え方。

そこで本書では気象的な観点から、意識しておくべきこと、すべきことなどをまとめているのです。具体的には、月ごとの気象の特徴と、その気象によって注意しなければならない病気や健康にまつわることがらが解説されています。たとえば間もなく訪れる春については、次のような記述が。

春は初夏の陽気になったかと思えば、真冬の寒さに逆戻りするようなことがしばしばあります、気分的にも気温差が同じでも暖かい方に戻るのと、寒さが戻るのではずいぶん感じ方が違ってきます。
もともと環境の変化でストレスが大きくなる時期に、気象の変化が激しく、とくに気温差が大きいことが重なって体調を崩しやすい時期になっています。(53〜54ページより)

以後は、「そこで、どうするべきか」について、詳しく解説がなされています。体調管理をしようとする場合、気象のことまでにはなかなか意識が向きにくいもの。そこで、本書を手に届く場所に置いておくのもひとつの策ではないかと思います。