悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、営業の仕事に自信が持てず、悩んでいる方へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「営業の仕事に自信がもてません。どうすれば仕事で自信をもてますか?」(36歳女性/営業関連)

  • 営業の仕事に、どうすれば自信をもてるのか


僕は学生時代から、自分にいちばん向いていない仕事は営業だろうと思っていました。生き方を模索していたどん底時代には、飛び込み営業をした経験も少しはあるのですが、やはりうまくいきませんでしたし("少しは"と書いたのは、長続きしなかったからです)。

ですから、「営業はかくあるべし」などということを偉そうに主張する資格はまったくありません。

しかし、営業向きの人もいるわけで。たとえば広告代理店に勤めていたころ、20代の営業マンの口から「俺、営業好きなんで」ということばが出てきたときには、軽く驚きを感じたのでした。

僕があんなに苦手な営業職を、好きだと言える人もいるんだなって。もちろん、そういう人がいたって当然なのですが、なんだか新鮮だったのです。「好きなんで」と口に出せることは、意外と重要なことなのではないだろうかと感じたというか。

果たしてその男が、営業成績を残していたのかどうかは知りません。ただ、少なくとも「営業の仕事に自信が持てない」と自己否定するよりはいいのではないかと思えたのです。

自信があるかどうかよりも、まずは営業という仕事を肯定し、可能であれば好きになること、それがまず大事なのではないかと思うから。

繰り返しになりますが、偉そうなことを言う資格はないんですけどね。

正しく自己否定(自己肯定)する

会社には売上をあげる人、そう、「営業をする人」が絶対に必要なのです。「営業をする人」、つまり「売上を上げるべき人」「売上が上がる仕組みを考えるべき人」に、相応のマインドとノウハウ、経験値がないと会社は倒産することになります。(「はじめに」より)

『あの営業マンが選ばれる「本当の理由」 お客様にとって唯一無二の存在になる時、お客様と営業マンの間に何が起きているのか』(一戸敏 著、日本実業出版社)の著者は、こう主張しています。

営業は会社の存続を担う重要な仕事であり、「お客様の課題を解決する」すばらしい仕事。だからこそ、自信を持って営業に臨んでほしいということ。

  • 『あの営業マンが選ばれる「本当の理由」 お客様にとって唯一無二の存在になる時、お客様と営業マンの間に何が起きているのか』(一戸敏 著、日本実業出版社)

ちなみに著者は29歳で経験ゼロから保険代理店行で起業したころ、あまり成績のよくない営業マンでしかなかったそうです。にもかかわらず、以後は華々しい実績を打ち立てることになったのですが、それは天才だったからでも強運の持ち主だったからでもないと断言しています。

そうなれたのは、お客様の課題を解決すべく、適切な努力と工夫を重ねてきたから。そのため、誰でもトップ営業マンになれるという事実を、多くの悩める営業マンに知ってほしいというのです。

著者は、冷静に事実を認識することこそ、営業成績を向上させる唯一の道だと考えているといいます。自分の成績や状態をできるだけ客観視し、自分の言動を検証し、適切なものと不適切なものをしっかり見きわめることが大切なのだと。

そのとき意識すべきは、「自己否定力」と「自己肯定力」のバランス。過度に悲観したり、楽観しすぎることなく、正しく自己否定(自己肯定)することの大切さです。

今回のご相談に当てはめるとすれば、大切なのは自己肯定力を活かすことなのではないでしょうか? 少なくとも、あまり自己否定しないほうがいいと思います。

たとえば、スランプに陥ると「もう二度と契約が取れないのではないか」とネガティブに考えてしまい、行動が消極的になって、ますます売れなくなるという負のスパイラルにとらわれがちですが、それは正しい自己否定とはいえません。悪いことが永遠に続くことなどあり得ないのと同様に、自分という存在のすべてが100パーセント悪いことなど、あり得ないからです。(110ページより)

結果が出ない場合、自分の言動を慎重に振り返ってみると、必ずどこかにその理由が見つかるもの。そんなときには自分の全人格を否定するのではなく、悪い部分だけを否定すればいい、そして、そこを改善していけばいいということです。

営業中に「沈黙」を活用してみる

『「売れる営業」がやっていること 「売れない営業」がやらかしていること』(松橋 良紀 著、大和書房)の著者も、営業に向いていないということを自覚していたのだと過去を振り返っています。

ところが"やらざるを得ない"状況に追い込まれたことから営業を始めた結果、以後20年近く続けたのち独立することに。以後、現在に至るまで、かれこれ30年以上はなにかを売る仕事をしているのだといいます。

もちろん苦労も多かったようですが、にもかかわらず「営業は、人を動かすコツを実際に学べる最高の仕事」だと言えるのは、そんな経験があるからこそ。それどころか、「営業の世界で成果を出せたら、どんな分野でも成果が出せる人になる」と断言してもいます。

「でも、しゃべるのが苦手だし……」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、しゃべりすぎる営業は、逆に不利になる場合があると著者は指摘しています。営業がベラベラしゃべりすぎると、お客様が黙りこくってしまうというケースは少なくないわけです。

著者は以前、ある技術を使うようになってから、おもしろいほどお客様にしゃべってもらえるようになったのだそうです。その技術とは、ずばり「沈黙」。

私が理想とする営業は、自分はほとんどしゃべらず、お客様が問題や悩みをベラベラしゃべってくれること。質問と沈黙を繰り返して、最後にちょっとだけクロージングして売れることが理想です。そのために質問と沈黙のスキルは、当然ながら必要になってきます。では、具体的にどう使えばいいのかを、自己啓発教材営業のトークを例にして紹介します。

松橋「自己啓発に興味を持たれたのは、どんなところがお困りだったのでしょう?」
お客様「そうですね。人間関係がちょっとうまくいかないので……」
松橋「人間関係ですね……(2秒以上の沈黙)」
お客様「はい、ちょっと上司と折り合いが悪くて……」
松橋「上司の方と?……(2秒以上の沈黙)」
(90~91ページ」より)

  • 『「売れる営業」がやっていること 「売れない営業」がやらかしていること』(松橋良紀 著、大和書房)

このようにオウム返しをし、沈黙することが相手にしゃべらせる最大のコツだというのです。なお沈黙する時間は最低でも2秒、できれば5秒の時間を取るべき。口が重い人も、それくらいの間を充分に取れば、しゃべってくれるようになるそうです。

重要なポイントは、「しゃべりが苦手な人、口が重い人はいるものの、しゃべるのが嫌いな人はいない」ということ。どんな人でも実はしゃべりたいのに、営業を警戒していたり、自分に自信がないからしゃべらないだけだということです。

一度、試してみるのもいいかもしれません。

客観的に状況を把握する

ところで近年は、「働き方改革」などの影響で残業時間を減らす企業が増えています。しかし営業の場合、そのためにノルマが軽くなるなどということはないはず。ましてや会社の側に、「定時に帰って結果を出す」ためのノウハウがあるわけでもありません。

したがって、営業の側があるスキルを身につけるべきだと主張するのは、『営業の働き方大全』(菊原智明 著、大和書房)の著者。

これからの時代に必須の営業スキルはまず、自分自身を「変化させられる」ことです。時間の使い方、自らの提案の仕方、社内関係など、それぞれを見直し、改善していくことが重要です。とりわけ営業職は、仕事のスタイルがある程度自由なので、変化させやすい環境です。(「はじめに」より)

  • 『営業の働き方大全』(菊原智明 著、大和書房)

そこで本書では、働き方を自ら変え、これからの時代に活躍できる営業になる方法を紹介しているのです。

たとえば人は、ネガティブな感情を隠し切れない場合があります。うまくいかなかったりすると、つい否定的に捉えてしまうわけです。そんなときには、比較対象を持つことで、ネガティブな感情に飲み込まれることなく、客観的に状況を把握すべき。

私のオススメはネガティブな感情に点数をつけるという方法です。例えばイタイ敗戦をしたとします。そんな時は「今回の失敗は以前の新人営業時代に味わったショックと比べればたいしたことないな、38点」と過去の大失敗と比較して、今の状態に点数をつけるのです。(244ページより)

過去の失敗と比較し、点数をつけた瞬間にフッと冷静になり、客観的視点が持てるというのです。たしかに、解決策は見つからなかったとしても、それだけで気持ちは落ち着くかもしれません。

著者は研修など、さまざまな場所でこのワザを多くの営業に紹介しているといいます。しかも好評であるため、いまのところこれ以上の「ネガティブな状態から最短で抜け出す方法」はないとすら思っているのだとか。

だとすれば、なおさらチャレンジしてみる価値はありそうです。


どんな仕事に携わっている人にもいえることですが、常に絶対的な自信を持っている人などいないはずです。みんなそれぞれ、"自信のない自分"と戦いながら生きているということ。

だからこそ、これら3冊を参考にしながら、営業としてのよりよいあり方を模索してみるべきではないでしょうか?