「言語も文化も全く違う人たちが書いたものを取り込めることが翻訳書籍の楽しみ」── ダイヤモンド社の三浦岳氏は翻訳書籍の魅力をこう語る。翻訳書籍でありながら60万部を達成するようなベストセラーを手掛けてきた同氏が、睡眠に関する本を出した。それが『世界最高のスリープコーチが教える 究極の睡眠術』だ。

昨今、睡眠に関する良書が多数発売されており、一種のブームともいえる状況にある。そんな中送り出された同書はどのような点に特徴があるのだろうか。ビジネスプロデューサー・書評ブロガーの徳本昌大が聞いた。

  • ダイヤモンド社 書籍編集局第一編集部 副編集長の三浦岳氏。『スタンフォードの自分を変える教室』、『シリコンバレー式 自分を変える最強の食事』、『一流の育て方』、『やり抜く力』といったベストセラーを立て続けに担当した"目利き"編集者だ

超一流アスリートに信頼される睡眠メソッド

今回話題に上った翻訳書籍は、ニック・リトルヘイルズ著『世界最高のスリープコーチが教える 究極の睡眠術』だ。近年、海外では睡眠の研究が進み、研究者が睡眠について説明した本が増加していた。三浦氏は、この流れはじき日本にも来ると予測し、面白い本があれば担当したいと考えていたそうだ。

そのなかで本書が選ばれた理由は、筆者であるリトルヘイルズ氏の実績だ。彼は世界的に有名なサッカーチームである、マンチェスター・ユナイテッドやレアル・マドリードでスリープコーチという形で睡眠を指導。サッカーのオリンピック全英代表にも同行し、現地で携帯寝床を展開したという面白いエピソードもある。パフォーマンスに人一倍敏感なアスリートに信頼されているメソッドとは、果たしてどのようなものだろうか。

無人島で暮らす自分を想像しよう

本書は、全体がPart1、Part2の2つに分かれており、それぞれで睡眠のルールと実践的な睡眠法について解説されている。Part1『「究極の睡眠」の7つのルール』は、7つの章それぞれに7つのTipsがついているという構成。Part2『「究極の睡眠」を完璧に実践する』では、より具体的な解決方法に加えて、パートナーや子供の睡眠についても語られる。

全体を通して重要となるキーワードが「R90睡眠回復アプローチ」だ。RとはリカバリーのRで、睡眠を構成するレム睡眠、ノンレム睡眠の繰り返しを1サイクル90分でカウントし、一週間のうちに何サイクル取れるかというイメージで考えようと提唱している。そもそも8時間睡眠という概念は産業革命以降に出てきた考え方であり、それにこだわる必要はない、というのが筆者の意見だ。実際に何サイクル必要なのかは個人によって違うので、まずはそれを本書のメソッドにしたがって見つけるよう読者に伝える。このアプローチの長所は、毎日の睡眠時間に囚われなくても良いという点にあるだろう。

そして冒頭で告げられる内容が、「無人島で暮らす自分を想像しよう」というもの。これは自然な生活リズムを取り戻そうというメッセージといえる。日常でこれを再現するためにいくつかの具体的なルーチンが挙げられている。「テクノロジーを遮断する」「温度を"温かい"から"冷たい"にする」「照明を"明るい"から"暗い"にする」などだ。

一方で、巷にあふれる睡眠の常識を覆すようなメッセージも送られる。例えば睡眠にこだわる人が最初に投資することが多いマットレスだが、本書ではその必要性はなかば否定されている。それよりは1~2年ごとにマットレスを買い替えて、新しいものを使い続けた方が良いのだという。

その他、朝起きる時間を一定にする、休日であっても一度は平日と同じ時間に起きる、日中の自然に眠くなるタイミングで「小さな昼寝」をする、起きた後は日の光を浴びるといった、より具体的なアドバイスもあった。こういったすぐにでも行動に移すことのできるアドバイスは、効果も実感しやすいのではないだろうか。

"目利き"編集者の翻訳書籍の選び方

今回もまた非常に興味を引かれる書籍をチョイスした三浦氏だが、日ごろどのように翻訳する書籍を選んでいるのだろうか。

「つねにそのときの自分の興味に合致したものを探しています。実際に担当するとなると何か月もその原稿と向き合うことになるので、売れそうだからといってたいして興味のないものに手を出すとあとでつらくなりそうですし」(三浦氏)。

過去に『シリコンバレー式 自分を変える最強の食事』を作っていた時、三浦氏はちょうどダイエットに興味を持っていたという。またお子さんの教育を考えていた時、『いまの科学で「絶対にいい! 」と断言できる 最高の子育てベスト55』を作っていた。言ってみれば、自分の課題を解決してくれる、その時々の翻訳本の良書を探すというのが三浦氏のスタイルだ。

「自分が興味がある企画であれば、ある程度同じような人もいるだろうということで、そんなに外さないかなという気がしています。打ち出し方も、自分ならどういうものに惹かれるかと考えるとわかりやすいですし」(三浦氏)。

三浦氏はこの本の対象読者は非常に幅広いという。 「よく眠れない人向けのぐっすり寝るための実用書はすでにたくさん出ています。しかし本書はそんな基本を全部シンプルなノウハウに落とし込んだうえで、さらに、睡眠によってパフォーマンスを上げるという、攻めの意味での睡眠法まで紹介しています。その意味では、睡眠の本なんて読んだことがないという人から、もう何冊も読んでいるよという人まで、だれもが楽しめる内容になっていると思います」 (三浦氏)。

さらに、「睡眠本に興味がある方には」と、もう1冊、お勧めを挙げてくれた。

「ダイヤモンド社では、少し前に『SLEEP 最高の脳と身体をつくる睡眠の技術』(※第5回参照)という本も出しています。私の担当した『世界最高のスリープコーチが教える 究極の睡眠術』は、とにもかくにもどう寝ればいいか、にこだわって紹介しているのですが、『SLEEP』のほうは睡眠に関する最新の知識をこれでもかといわんばかりに徹底的に詰め込んでいるので、合わせて読んでいただくのも面白いのではないかと思います」(三浦氏)

全288ページのボリュームがある『世界最高のスリープコーチが教える 究極の睡眠術』。「眠り方を知りたいだけなのに、そこまでしっかりと読まなくてはいけないのか」と思う方もいるかもしれないが、濃密な情報を章、ルール、Tipsという順でわかりやすく知ることができ、思いのほか読みやすい。また、ベッカム、ルーニー、ジェラードの「ベッド」を解説したページもあり、サッカーファンは二重の意味で楽しめるだろう。興味を持った方は、目次に目を通してその内容を確認してみてほしい。

世界最高のスリープコーチが教える 究極の睡眠術

人生のクオリティはすべて「睡眠」が握っている――。レアル、マンU、アーセナル……サッカーからラグビー、自転車、オリンピック代表まで、超一流のアスリートのパフォーマンスを激変させてきたレジェンドが明かす究極のノウハウ!30年の睡眠研究でわかった「最強の回復」をつかむ方法のすべて。


ニック・リトルヘイルズ 著/鹿田昌美 訳
定価:1,620円(税込)
発行年月:2018年2月28日