「世の中や自分自身の見え方が変わる本が良いビジネス書」─ディスカヴァー・トゥエンティワンの原典宏氏は、ビジネス書籍の意義をこのように述べる。そんな同氏が編集した異色の翻訳書籍が『最強マフィアの仕事術』だ。トップマフィアが教える「常識外れの成功ルール」とその落とし穴、そして本書の意義とは。ビジネスプロデューサー・書評ブロガーの徳本昌大が聞いた。

  • ディスカヴァー・トゥエンティワン編集部執行役員の原典宏氏。今回紹介するのは、『最強マフィアの仕事術』。書籍見本市「フランクフルト・ブックフェア」で同社社長の干場弓子氏が目を付け、原氏が編集に携わることになったという

マフィアはなぜビジネスエリートと渡り合えるのか

今回話題に上った翻訳書籍は、マイケル・フランゼーゼ著『最強マフィアの仕事術』。一言でいえば、トップマフィアとしてのし上がりながら、マフィアを辞めた人の本だ。マフィアの多くは高い学歴もなければ、系統立てられたビジネス論を学ぶ機会もない。だがビジネスでビジネスエリートと互角以上に渡り合えるマフィアは決して少なくない。それはなぜなのか。

マイケル・フランゼーゼはマフィア時代を振り返りながら「暴力は成功の秘訣ではない」と語る。そして「計画の立て方」「ミーティングの仕方」「交渉術」こそが大切なコツだと語っている。具体的には「成功しているマフィアは早朝から働いている」などだ。何のことはない至極当たり前の内容だが、要するに成功のコツは企業でもマフィアでも一緒で、成功に裏の道などないということ。それだけに要点は非常に厳選されており、明快でわかりやすい。

マフィアとして大成した著者が見た落とし穴

本書は、80年代にニューヨークのトップマフィアとして名を馳せた著者が人生を振り返る自伝的ビジネス書。「結果を出すためには手段は問わない」マキャベリの思想と、「誠実と高潔さ、勤勉が唯一の成功への道」とするソロモンの教えを比較していく興味深い構成だ。

『君主論』や『戦術論』に代表されるマキャベリの考え方を、ビジネスにおいて全否定する人は少ないだろう。実際、マキャベリの著書はビジネスシーンでもたびたび話題に上る。だが、手段を選ばずに達成した成功には大きな落とし穴があるという。なぜなら、ルールを破ることはリスクと隣り合わせだからだ。

豊かに生きるための方法、本当の意味で成功する方法として、マキャベリの論は果たしてふさわしいのだろうか。「食べるために仕事をするのか、それとも愛のために仕事をするのか」とマイケル・フランゼーゼは問いかける。彼が最後にたどりついた「本当の成功」とはなんだろうか。それはぜひ著書で確認してほしい。

「本書の魅力は、富と名声を目指し、成功した人物が、その高みで初めて見えた視点を体験できる点にある」と原氏は述べる。マフィアとして語る“富と名声を手にするための方法論”、そしてマフィアを辞めた後の“何のために働くのか”という自問、この二重構造がポイントだ。

「お金を稼ぐ、成功する、有名になる──これらは仕事の究極の目的にならないと感じる人が増えてきています。そして、『企業価値とは、社会を良くすることなのだ』という考え方に同意するようになってきているのです。21世紀になって以降、その傾向は加速しています。アメリカの就職人気ランキングの上位にNPO団体が何社も入ってきたり……。フランゼーゼは『金と名声がすべて』の世界にいたからこそ、いち早くその気付きを得たのではないでしょうか」

  • 『最強マフィアの仕事術』の解釈について語り合う原氏と徳本氏

読むことで成長を促すのがビジネス書

本書を編集した原氏は、学研、ベネッセを経て、ディスカヴァー・トゥエンティワンに入社したという、経験豊富なベテラン編集者。2009年にディスカヴァーが中心となって立ち上げたビジネス書大賞では実行委員事務局の責任者を務めた。同賞では、ビジネス書を「個人、組織、社会の成長に役立つ本」と定義付けているが、「成長するために読む本」「隠された可能性に気づかされる本(=ディスカヴァー体験がある本)」、これが原氏のビジネス書の捉え方だ。

「本当はもっと可能性があるのに、社会システムや個人の思い込みのせいで、可能性が十分に発揮できていない──それを読者に気付かせる本が良いビジネス書だと思います。その本と出会うことで、新しいものの見方を獲得してもらうというのが、わが社のミッションでもあります」

ディスカヴァーとは「Dis」+「cover」から成り立つ言葉で、「覆いを取る」というのが語源。つまり「そこにある可能性の覆いを取ること」がビジネス書の在り方だと説明する。

若い人もビジネス書から知見を得てほしい

90年代初め、ビジネス書といえば、経営学、帝王学といった側面が強かったという。しかし1996年12月に『7つの習慣』日本語版が発売。次いで1998年にはディスカヴァーから『うまくいっている人の考え方』が刊行された。同時期に、神田昌典氏といった新たな書き手がスターとなり、普通の個人をターゲットとした「自己啓発」という方向性がビジネス書に加わった。この大きな変動により、だれでもビジネス書を読み、勉強できるという環境が整い、現在のビジネス書というジャンルができあがった──原氏はビジネス書の歴史をこう総括し、若いビジネスパーソンに向けて次のような言葉を贈る。

「いまの40代半ば以上の世代が20代だった頃、ビジネス書を読んで学ぶということは一般的ではなく、経験と勘で勝負するしかなかった。でも今はさまざまな知見を簡単にビジネス書から得ることができます。若くてもビジネス書で勉強すれば、すぐ経験豊富な人に追いつき、その人の時代を作れるのです。ですから、若いうちにこそ良いビジネス書を読んでほしい」

「人生100年時代と言われて、一生のうちに何度か生き方を変えるべき時代になったと言われますが、そうした時こそビジネス書の出番。自分の可能性や、新しい価値観を手に入れるために、上手にビジネス書を活用する人が、いい仕事ができる、そういう時代になりつつあるのだと思います」

最強マフィアの仕事術

金と名声を手にする最短コースを教えよう。ただし、そこには落とし穴があるのだが……。〝アル・カポネの再来〟と言われたトップマフィアが教える「常識外れの成功ルール」とは。


マイケル・フランゼーゼ 著/花塚恵 訳
定価:1,080円(税別)
発行年月:2018年4月12日