立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科) 教授 田中道昭氏は、経営学、組織論、企業戦略、リーダーシップ論などのテーマに深い造詣を持つ人物。テレビにコメンテーターとして出演することも多く、また数々のベストセラー書籍を執筆している。本稿では、マーケティング戦略とリーダーシップ論の専門家である田中氏から、ビジネスパーソンの人脈の作り方を聞いてきた。

  • 立教大学ビジネススクール田中教授が語る資質別人脈構築術:左から日比谷尚武氏、田中道昭氏、徳本昌大氏

    左から、日比谷尚武氏、田中道昭氏、徳本昌大氏

聞き手は、マイナビニュース別稿で"人脈"についての対談を行った、ビジネスプロデューサー・書評ブロガーの徳本昌大氏、IT企業 Sansanで"コネクタ"の肩書きを持つ日比谷尚武氏の2名。人と人のつながりを考える3氏の対談から、人脈構築術について迫ろう。

大学教授や経営者、ビジネス関連書籍も多数出版

田中氏は、立教大学ビジネススクールで教鞭を振るうと同時に、上場企業の取締役でもあり、かつ数々の企業で経営コンサルタントを行っている一流のビジネスパーソンだ。上智大学を卒業し、三菱東京UFJ銀行(当時の三菱銀行)に入行し、その後シカゴ大学ビジネススクールでMBAを取得。シティバンクやバンクオブアメリカ証券会社などで辣腕を振るい、現在では株式会社マージングポイントの代表取締役社長としても活躍している。

深い分析と考察のもと執筆された著書も高い評価を得ており、2017年11月にも『あしたの履歴書―― 目標をもつ勇気は、進化する力となる』(ダイヤモンド社)や『アマゾンが描く2022年の世界 すべての業界を震撼させる「ベゾスの大戦略」』(PHPビジネス新書)などが発売され、話題を呼んでいる。このほか、トランプ大統領の政治マーケティングや、日本におけるハロウィンの特徴を分析した記事なども書いており、その活躍は非常に多岐にわたる。

リーダーシップ論についても深い見識を持っており、人脈論はまさに田中氏が研究を続けているテーマの1つともいえる。

自身が備える性格を知れば人脈の作り方が分かる

田中道昭氏

ビジネスパーソンの人脈の作り方に先立ち、田中氏はまずギャラップ社のプログラムである「ストレングスファインダー」を挙げ、個人が備える資質について説明する。このプログラムはいわば性格診断に近いもので、34の資質のなかから、その人が天賦の才能としてもつ上位5つの資質をあぶり出すものだ。資質を弱みととらえて矯正しようとするのではなく、強みとして伸ばしていくのが特徴とのこと。この34の資質の中で、もっとも人脈に関係する項目が「社交性」と「親密性」の2つだ。

なかには「社交性」「親密性」の両方を備えている人もいるものの、大抵の人物はこの2つの素質のうちどちらか一方を得意としている。社交性が高い人はより多くの人と親しくなることができ、パーティや飲み会といった場でその才能を活かせる。親密性の高い人は、特定の人物とより深く緊密な関係性を構築することができる。自分のことを「社交性が低い」と分析している人は、逆に親密性の資質が高い場合が多いのだという。この2つの傾向を踏まえて、田中氏は人脈作りに悩むビジネスパーソンにこのようなメッセージを送る。

「社交性の高い人は人脈を広げるという方向に強みを発揮すれば良いですし、社交性が低いと自覚している人は特定の相手と深く付き合うところで自分の強みを発揮すれば良いのです。人脈のつくり方は、それぞれの資質の強みを生かせばいいのです」(田中氏)。

相手が話したいことを"聴く"ことが親密性につながる

では社交性が低い人は、どのように人と接すれば親密性を高められるのだろうか。田中氏は、会話で相手の心を開くポイントとして「相手の話を"聴く"(傾聴する)」ことを挙げる。例えば親しくない人に声をかけるとき、話題として「相手のことを褒める」という人もいるだろう。だが褒めるという行為は自分の気持ちを伝えるということであり、相手はそこに意図を感じて警戒してしまうこともある。「"聴く"(傾聴する)とは、相手が話したいと思っていることを聴いてあげること」と、田中氏は説明する。

  • 田中氏の立教大学での授業は非常に独特。今年9月に行われた学生団体選定による「名物授業」では、ビジネススクールでありながらインプロビゼーション(即興コメディー)やロープレ演習を行うという内容だったそうだ

田中氏は、自身が実践している話術を1つ紹介してくれた。それは「赤い服を着ていらっしゃるんですね」といったように「相手の服装の外観を伝える」という方法だ。見た目だけをそのまま伝えると、相手は自分に関心をもってくれたということに承認の欲求が充足され、さらに自分が話したいことを自律的に話してくれるのだという。

もちろん、社交性が高く会話が得意な人はそれを強みとして積極的に自分の話をしても良いだろう。一方で、社交性が低いと自覚している人は逆にそれを強みととらえ、相手の話を"聴く"傾聴力にフォーカスすれば良いと田中氏はアドバイスする。これは優秀な営業マンが聞き上手であることを想像すれば、たしかに頷ける話だ。

この傾聴力によって得られるメリットは、SNSの普及によってさらに広がりを増した。マイナビニュースの別稿で語られた"弱い紐帯"のようなつながりを持った相手との交流も、傾聴を続けることでいつかビジネスとなって花開くだろう。人脈作りに悩むビジネスパーソンは、まず自身が備える資質を知り、それを活かして人脈づくりに励んでほしい。