接待交際費、消耗品費、減価償却費といった項目のことを「勘定科目」といいます。そして会社では、様々な勘定科目を使いながら、日々の取引を記帳していきます。仕事をする上での基礎となる分野ですが、実は皆さんの心の中にも勘定科目があることを知っていますか?

行動経済学でノーベル経済学賞を受賞したリチャード・セイラー博士が「メンタルアカウンティング」(メンタル=心、アカウンティング=会計)という用語を用いたのですが、私たちの心の中に、どのような会計ルールがあり、どんな勘定科目があるのでしょうか?

  • お金を適切に管理できていますか?(写真:マイナビニュース)

    お金を適切に管理できていますか?

メンタルアカウンティングの仕組み

実際に家計簿をしっかり付けている人も、そうじゃない人も「心の中に家計簿があり、いくつかの勘定科目がある」わけです。例えば収入であれば定期的に入ってくる「給与」、年に2回もらえる「ボーナス」、そしていわゆる「たなぼた」、臨時収入などです。

支出については「光熱費」「家賃」「将来への貯蓄」など、やはりある程度意識しながらお金を使っています。そして「将来への貯蓄」も結婚や車購入のためなど、それぞれ目的を定めている人も多いと思います。

そして行動経済学では私たちは時として合理的な判断ができないとされています。例えば毎月1万円堅実に貯蓄している人が、臨時収入となると派手に使ってしまった経験はありませんか? といったケースです。同じ収入でも、「臨時収入」という科目だったから、思い切って使えたのでしょう。

また、「自分へのご褒美」といいながら支出した経験もありませんか? ちょっと高価な買い物をする際に、自分の中の通常の支出科目では対応できないため、「最近頑張っていたから」などと理由を付けて、自ら「ご褒美費用」という勘定科目、すなわち、口座を開設しているのです。こうした心の働きがメンタルアカウンティングです。

逆に、節約する時や、もったいないと感じる時も勘定科目が影響するケースもあります。

心理テストで「もったいない度」を診断

以下のような有名な実験結果がありますので、ぜひ皆さんも考えてみてください。

A.入場料1万円のイベント会場に到着したところ、1万円札を1枚、落としたことに気が付きました。財布の中にまだお金はあります。あなたは当日券を購入して、このイベントに参加しますか?

B.あらかじめチケットを購入していてイベント会場に到着しました。すると、そのチケットを紛失したことに気付きました。あなたは再度チケットを購入して、このイベントに参加しますか?

  • 心理テストで「もったいない度」を診断

    心理テストで「もったいない度」を診断

いかがでしたか? この実験結果は、Aの場合は80%以上の人がチケットを購入してイベントに参加すると答えています。一方、Bの場合は半分程度に購入する割合が下がりました。

AもBも、2倍の金額を出しイベントに参加することに変わりはないのですが、Bの場合、既に「趣味・娯楽費」といった勘定科目内で一度チケットを購入しているため、再度「趣味・娯楽費」を使うことに抵抗を感じるのです。

一方、Aの場合は落とした1万円札はまれにある「トラブル費」と認識し、別の勘定科目に割り振ることで、チケットを購入しやすい心理になるのでしょう。

適切なお金の管理方法

身の丈にあった適切なお金の管理をするために、メンタル上ではなく、実際に収入や支出を一定の科目で分けて管理することをおすすめします。貯蓄専用の口座を作り、「絶対に手を付けない」と決めて管理してください。自動振替でためていくのも効果的です。

また、支出は封筒で管理する方法がよく知られています。あれこれ理由を付けて支出項目が増えないように、「生活費」「学費」など一定のルールであらかじめ封筒を作っておき、毎月決めた額を補充してください。

メンタルアカウンティングもケアが必要

「仕事で大失敗をした」「大切な人が亡くなった」など、私たちは心に大きな傷を負うこともあります。皆さんはそんなとき、どのように対処していますか? 誰かに話を聞いてもらって楽になったという人もいるのではないでしょうか。プロのカウンセラーなどからアドバイスをもらったことがある人もいるかもしれません。

今回、そのメンタルの中にアカウンティングがあることを学びました。ぜひ、このメンタルアカウンティングも適切なケアを行ってください。宝くじが当たった、ギャンブルで大勝ちした時など、一人で判断せずに、冷静に客観的にアドバイスをしてくれる人に相談することで、正しい勘定科目に割り振られるかもしれませんよ。

近い将来結婚を考えている人は、「ご褒美、多すぎじゃない?」と指摘してくれるパートナーと結婚する方がお金はたまりそうですが……。

著者プロフィール: 内山 貴博(うちやま・たかひろ)

内山FP総合事務所
代表取締役
ファイナンシャルプランナー(CFP)FP上級資格・国際資格。
一級ファイナンシャル・プランニング技能士 FP国家資格。 九州大学大学院経済学府産業マネジメント専攻 経営修士課程(MBA)修了。