バーゲンセールの時のデパートやアウトレットモールなどで「最大70%OFF」というポップに目が行き、まとめ買いをしたことはありませんか? そして実際に買ったものは10%引きや20%引きの商品ばかりで、70%引きのものは1つも買うことができなかったといった場合も多くの人が経験しているのではないでしょうか。

最初に目に入った数字に大きく影響されたわけです。

この「70%OFF」という数字がアンカーとなる現象を「アンカリング効果」といい、行動経済学では大変有名な現象の1つです。なお、アンカーとは「いかり」のことで、いかりを投じることで船の動きを止めることができるように、私たちも、まさに数字によって引っ掛けられ、その後の消費行動などに影響が及ぶわけです。

  • 「最大○○%OFF」という数字に影響されていませんか?(写真:マイナビニュース)

    「最大○○%OFF」という数字に影響されていませんか?

アンカリング効果に関する心理テスト

皆さんは、今住んでいる都道府県、市町村、校区など、それぞれの人口や平均年齢、男女比といった住民の属性を正確に言えますか? おそらく正確に把握している人はほとんどいないと思います。そんな中、以下のような質問が行われたとします。実際に皆さんも考えてみてください。

<質問1>
あなたがお住まいの市町村では、65歳以上の高齢者の占める割合は30%よりも高いと思いますか? では、実際は何%程度だと思いますか?

  • アンカリング効果に関する心理テスト1

    アンカリング効果に関する心理テスト1

いかがでしょうか。
高齢化社会は、現在日本が抱える大きな問題の1つであるため、統計的なデータを知っている人も多いと思いますが、はたして、あなたの住んでいるエリアは何%程度でしょうか? 実際に答えを頭に思い浮かべてください。

では、これと同様の質問を別のグループに以下のように行ったとします。

<質問2>
あなたがお住まいの市町村では、65歳以上の高齢者の占める割合は5%よりも高いと思いますか? では、実際は何%程度だと思いますか?

  • アンカリング効果に関する心理テスト2

    アンカリング効果に関する心理テスト2

質問1をされたグループも、質問2をされたグループも、どちらも高齢化が加速しているということは概ね理解しているはずです。

ただし、30%と5%という数字が「アンカー」となり、質問1に答えたグループの平均回答は「25%」、質問2に答えたグループは「7%」といった具合に、高齢者の占める割合予測にバラつきがでるのです。このような実験は数多く行われており、専門書などを読むと興味深い結果がたくさん紹介されています。

アンカリング効果の影響

「ある環境保護の活動のために寄付は可能ですか?」という質問をした場合の平均寄付額が64ドルという結果となり、「5ドル以上の寄付は可能ですか?」という場合と「400ドル以上の寄付は可能ですか?」と質問した場合ではそれぞれ20ドルと143ドルという平均額となったようです。アンカーがなかった場合の64ドルから大きくかけ離れ、それぞれのアンカーに引っ張られる結果となっていますね。

また、あるスーパーで目玉商品を同じ値段で「お1人様限定〇個」とした場合と「お1人様何個でも」とした場合では、限定した日の売り上げの方が2倍だったという結果もあります。

当然、販売側はアンカリング効果を巧みに利用し、商品をたくさん売りたいというのが本音です。営業職・販売職の人などはビジネスのヒントとなりそうですが、一方で消費者という立場からすると、なるべくアンカリング効果の影響は受けたくないところです。

ゆっくり検討することで「アンカー」は消える

私達がアンカリング効果に左右されたくないのは住宅や車といった高価な買い物をする場合です。「月々わずか○万円」といった広告も目にします。車であれば残価設定という購入方法であったり、頭金でまとまった金額が必要であったり、よく読むと実際のおトク感とはやや異なることも少なくありません。

住宅の場合は変動金利で30~40年、最も低い金利水準が続く前提で月々の返済額が記載されていることが多いです。もちろん総額の記載もありますが、こういったアンカーが印象に残ることで、私達は身の丈以上の高価な買い物をする可能性もあります。

行動経済学の第一人者であるノーベル経済学賞受賞者のダニエル・カーネマンは「複雑な計算など知的活動を動員してアンカリング効果を打ち消さなければならない」と指摘しています。

直観で「このマンションが理想的」と思うのではなく、「変動金利の低い水準がこのまま続くのだろうか?」、「過去の金利はどのように推移しているのか?」などゆっくりじっくり検討してください。きっとこういったプロセスを経ることで、アンカーも消えているはずです。

これからの長い人生、しばしばこのような局面に遭遇することになると思います。ぜひ、「アンカー」の存在を認め、それを打ち消す努力もして、皆さんが進むべく適切なルートで航海してくださいね。

著者プロフィール: 内山 貴博(うちやま・たかひろ)

内山FP総合事務所
代表取締役
ファイナンシャルプランナー(CFP)FP上級資格・国際資格。
一級ファイナンシャル・プランニング技能士 FP国家資格。九州大学大学院経済学府産業マネジメント専攻 経営修士課程(MBA)修了。