みなさんは「世界最速の翼」といわれたコンコルドという超音速旅客機を知っていますか? コンコルドは巨額の生産コストがかかり、250機生産すれば採算が取れるといわれていたのですが、結局20機ほどしか生産されませんでした。

  • 心理現象の一つであるコンコルド効果(写真:マイナビニュース)

    心理現象の一つであるコンコルド効果

しかも、その生産過程で、通常の飛行機より長い滑走路が必要となるため航路が限られることや、爆音が生じるためその対応に迫られるなど商業用としての利用が難しいことが浮き彫りとなり、「これ以上開発・生産を続けても駄目だ」と関係者は気付いていたようです。

ただし、今まで費やした時間やコストを無駄にするわけにはいかず、結局、生産を続けるという判断に至りました。その後の展開を考えれば、途中で撤退という判断をしていた方が良かったといえます。

このように、今まで費やしてきたことに目を向けることで、意思決定に支障を来すことを行動経済学上は、「コンコルド効果」または「サンクコスト効果の過大視」といいます。サンクコストとは埋没した費用という意味で、既に投下してしまったお金や時間を過大視するあまり冷静な意思決定ができないことを意味します。

  • 冷静な意思決定ができていますか?

    冷静な意思決定ができていますか?

投資やビジネスにおけるサンクコスト

社会人として生活し、そして仕事を行う上で、今まで以上に様々な意思決定を求められるようになります。お金の管理もその1つで、初めてのボーナスをきっかけに、証券口座を開設し、投資を始める人もいるでしょう。初めて株式や投資信託を購入する時はドキドキするものです。

今はインターネット取り引きが主流となり、自ら発注ボタンを押すことになります。「今日よりも明日買った方がいいのでは?」など迷ってなかなか発注できないという人もいます。

また、自ら投資を始めなくても会社の退職金制度で企業型の確定拠出年金制度がある場合は、将来受け取る退職金をどのように運用すべきか? と自分自身で決めなければなりません。本人の意思にかかわらず投資と向き合わなければならず、数年後に同僚と比べて運用成果に大きな差が生じているということも。

投資はうまくいっていても、そうじゃなくても様々な心理状態に左右されます。そして、特に損失が生じている時はサンクコストを過大視し、「もう少しで元に戻るはず」と、投資を継続する傾向にあります。

世界同時株安など相場全体が下落している時であれば全体の相場ムードが変わるまで待つのも重要なことですが、投資対象企業の業績悪化や不祥事などで株価が大きく下落している場合は、そのまま上場廃止や破綻といったシナリオも考えられます。

成果が出ていない状況で売却するのは勇気が必要ですが、そういった決断が結果として損失を小さくすることをコンコルドの事例が教えてくれました。

損切りを行う勇気

仮に、そのネガティブな材料を抱えている株を持ち続け、その後、株価が10%回復したとします。おそらく、そんな展開の時は、おおむね他の株価も10%、あるいは10%超上昇しているでしょう。「損切り」をし、別の株を買うことは難しいのですが、「コンコルドと同じ状況にはならないぞ」と冷静にそして勇気を持った対応ができるようになるといいですね。

そしてこれは投資のみならずビジネスやその他シーンでも同じことがいえます。今までの業務方法ではなく、もっと効率的な業務のやり方がみつかるかもしれません。今まで積み上げてきたものを全て白紙にしてでも、新たな方法が早くそして正確に業務が終わると分かった場合、勇気をもって変更できるでしょうか?

運転も同じですよね。迷った時や渋滞の時に、ある地点まで戻った方が早く目的地に着くと分かっても、なかなか決断できないものです。このようにサンクコストを過大視することは恋愛、結婚でも影響するといわれています。本当に今のパートナーが理想的なのか? サンクコストを過大視しているのでは? 夢もロマンもなく、味気ない話になりますが、少し冷静に考えるのも大切なのかもしれません。

ダイエットや英会話もサンクコストで判断

筆者自身、ここまでまとめながら不思議に感じていることが1つあります。それはダイエットや運動の習慣、そして英会話など、年始や節目に掲げる目標の典型例でもあり、そして、多くの人が挫折しているものにおいては、なぜサンクコストを過大視しないのでしょうか?

おそらくは、「つらい」「きつい」「やめたい」という、そこから脱したいという気持ちの方が勝るからかもしれませんね。諦めそうになった時、あえてサンクコストを過大視してみては?

例えば英会話。多くの人が、「これからの国際社会を生き抜くために」や、「受験の重要科目だから」と中学生ぐらいからかなりの時間を費やしてきているはずです。そして英会話スクールや教材に高額な投資をした人も多いはずです。

「海外で活躍している自分」を想像しても、数日後にはすぐにそのモチベーションが下がってしまいます。私も耳が痛いところです。よって、今まで英語に費やした金額や時間を机の前などに張り出すといいかもしれません。

「今まで勉強した数百時間。これだけやったのに、なぜ全く話せないのか?」。毎日がんばる動機づけになりそうです。本来は埋没費用や時間を過大視してはならない、という理論ですが、あえて過大視することで何度も挫折していることに再挑戦してみてください。

著者プロフィール: 内山 貴博(うちやま・たかひろ)

内山FP総合事務所
代表取締役
ファイナンシャルプランナー(CFP)FP上級資格・国際資格。
一級ファイナンシャル・プランニング技能士 FP国家資格。九州大学大学院経済学府産業マネジメント専攻 経営修士課程(MBA)修了。