学生から社会人となり新たな生活をスタートさせた時、いつもの景色が違ってみえたのを覚えています。初めての給与にボーナス。それから学生時代とは一味違う社会人ならではの会食、接待などの機会を経験し、少しずつお金への接し方や価値観も変わってくると思います。

そしてそのお金を取り巻く環境は、現在、現金からキャッシュレスへと急激に様変わりしています。学生から社会人へと成長していく読者の皆さんと同じぐらいのスピードで、「お金」も変化、成長しています。仕事に適応していくことに加え、社会人として上手にお金を管理していくことも求められるため、とても大変だと思いますが、ぜひ積極的にお金と向き合ってみてください。

  • お金の管理をきちんとできますか?(写真:マイナビニュース)

    お金の管理をきちんとできますか?

日本人は金融リテラシーが低い

日本人は金融リテラシー(お金に関する知識や判断力)が低いといわれており、現代社会において改善すべき問題の1つとなっています。ぜひ皆さんには投資、年金、税金などお金に関する知識を少しでも早く身に付けてもらいたいものです。

そして、私たちは少なからず何らかの欲求があり、その欲求や様々な心理状態が、お金の使い方などの意思決定をする上で微妙な影響を与えています。

これらは「行動経済学」または「行動ファイナンス」という学問において、興味深い理論がたくさん紹介されていますので、こういった分野を学ぶことも、金融リテラシーを高めてくれるかもしれません。 簡単な例を1つ紹介します。

2つのボックスを使った心理ゲーム

ここに2つのボックスXとYがあります。どちらかのボックスをご褒美としてもらえるとします。Xは100%の確率で70万円が入っています。一方、Yは80%の確率で100万円が入っていますが、20%の確率で何も入っていません。あなたはどちらを選びますか?

  • どちらかのボックスがご褒美となるゲーム

    どちらかのボックスがご褒美となるゲーム

おそらくあなたはボックスXを選び、確実に70万円をもらいたいと思ったのではないでしょうか?

では、これが利益ではなく損失になるとどうでしょうか。例えば、罰ゲームだとします。何らかのペナルティーとして2つのボックスのどちらかに従わなければなりません。

  • どちらかのボックスがペナルティーとなるゲーム

    どちらかのボックスがペナルティーとなるゲーム

Xを選ぶと100%の確率で70万円のペナルティーを支払わなければなりません。一方、Yを選ぶと80%の確率で100万円支払わなければなりませんが、20%の確率で何も支払う必要はありません。つまり、ペナルティーを免れることができます。

今度は結果が決まっているボックスXではなく、どうなるか分からないボックスYを選ぶ人が多かったと思います。

「どっちにしても罰金を払わなければならないなら、70万円も100万円も、そんなに差はない。罰金を払わなくてよい可能性が残されているボックスYを選びたい」といった心理状態でしょうか。もちろん、違う答えの人もいると思いますが、多くの場合、こういった意思決定をしがちです。

利益の場合は、「何ももらえない」という事態を避け、確実に70万円をもらい、損をするケースでは「自分は助かるかもしれない」という不確実な事象に強く反応する。まさに私たちの心理状態が影響した結果ですね。

合理的判断では逆となる

実はこの場合、全く逆を選ぶ方が合理的です。投資の期待収益率(リターン)は利回りにそれが起こりうる確率を乗じて求めることができます。

<ご褒美の場合>
70万円×100%=70万円 VS 100万円×80%=80万円

合理的に考えると確実に70万円もらうよりも80%の確率で100万円をもらった方が期待収益率の高い投資であるといえます。罰ゲームの場合も同様です。

<罰ゲームの場合>
▲70万円×100%=▲70万円 VS ▲100万円×80%=▲80万円

確実に70万円をペナルティーとして支払う方が損失を小さくすることができます。

もちろん、このご褒美や罰ゲームが「1回きり」のイベントであれば、皆さんの思った通りに判断をするのが一番納得いく結果になるかもしれません。

ただし、もし毎日のように、このボックスをどちらか選ばなければならないという場合は、感情はさておき、期待収益率を計算して、合理的にボックスを選択する方が高いリターンを得ることができ、損失も低く抑えることができます。

まさに、新社会人である皆さんが老後に向けて長期的な資産形成を行う上ではこういった視点も大切になってきます。皆さんは合理的な行動ができますか?

ただそれとは逆で、経済学において、個人や企業といった「ミクロ」では合理的な行動であったとしても、これを集めた「マクロ」、つまり全体では非合理的な行動や結果になるという「合成の誤謬(ごうせいのごびゅう)」という概念もあります。

例えば、火事になった際、非常口に向かって逃げるのが「合理的な判断」ですが、集団だと非常口付近が大渋滞となり、なかなか外に逃げることができず、結局、人とは違う方向に逃げた人だけが助かる。こういうことも実際にはあり得る話ですよね。

合理的に意思決定をしても、そうじゃなくても、何が良い結果につながるか分からない。それが、私たちが向き合わなければならない「お金の世界」なのかもしれません。

お金のことを知るとともに、自分がどのような心理状況で経済活動をしているのかも学ぶことで、豊かになるための気付きにたくさん出会うかもしれませんよ。

著者プロフィール: 内山 貴博(うちやま・たかひろ)

内山FP総合事務所
代表取締役
ファイナンシャルプランナー(CFP)FP上級資格・国際資格。
一級ファイナンシャル・プランニング技能士 FP国家資格。 九州大学大学院経済学府産業マネジメント専攻 経営修士課程(MBA)修了。