もし私であればAよりもBを選びます―― 日々、FP相談に対応している筆者は、時々「あなたならどちらにしますか?」と逆質問を受けることがあります。そんな際は、複数の選択肢の中から悩むことなく、1つ選び出すことはそれほど難しくありません。

特にお金に関する専門的な知識を有しているため、合理的に考え、自分に適した投資商品や金融サービスを選ぶ自信があります。とはいえ、これは仕事としてアドバイスをしている場合においてです。私自身が消費者になった場合は必ずしもそうではありません。

  • 何かの選択で悩むことはありますか?(写真:マイナビニュース)

    何かの選択で悩むことはありますか?

合理的に行動できないこともある

先日、自動車保険を更新するタイミングで契約内容の見直しを提案されました。FPとして自動車保険の知識は有していますので、その見直し提案でどういうメリットがあるのかすぐに理解できたのですが、充実した内容にするために追加差額の保険料が生じました。

追加の保険料が生じても、大変魅力的な補償内容だと当初は判断していたのですが、悩んだ挙げ句、去年までと同じ内容で更改することとなりました。このように、合理的に分かってはいても行動に移せないということもよくあることです。

これは先入観や偏見(バイアス)が影響している可能性があり、行動経済学では「現在バイアス」や「現状維持バイアス」といわれています。

将来よりも現在重視の現在バイアス

現在バイアスとは将来よりも現在をより重視する傾向にあることを意味します。例えば、皆さんは以下の質問に対して、どちらを選びますか?

A 今すぐ10万円をあげます
B 2年後12万円をあげます

  • 心理ゲームでタイプを確認

    心理ゲームでタイプを確認

Aを選んだ人は現在バイアスが強いといえそうです。今が楽しければいい、今すぐにお金を使いたいといった現在を重視していますよね。2年後に12万円もらえるということは、今受け取るよりも20%も増えていることになります。1年間当たりの利回り(リターン)は10%です。それほど金融の知識がなくても冷静に考えればBを選ぶ方が有利であるということは分かるはずです。

現在は非常に金利が低く、普通預金に10万円預けていても2年後には数十円程度しか利息は付きません。もちろん、投資経験が豊富で「今10万円をもらえば、2年後には12万円より多くする自信がある」ということであれば別ですが、その場合もリスクが伴います。

よって冷静にBを選んだ方が賢明といえ、お金を上手に貯めるタイプの人は、Bを選ぶといわれています。

現状維持バイアスとは

現在バイアスと同じように現状維持バイアスも多くの人が陥りやすいものです。現状を変えることに対してかかるバイアスで、例えば携帯の料金プランの見直しをすることでメリットを得られる場合もありますが、携帯ショップに行こうと思いながら気付けば時間だけが経過しているという人も多いのではないでしょうか。

この場合、「料金プランが安くなる」というメリットには慎重な見方となり、「やや高い料金を払っている」というデメリットについては軽視しているからです。言い換えれば、現状維持の状態を高く評価しているのです。

なんらかの意思決定を行う際にできるだけ後悔しなくていいような保守的な選択をすることにもつながります。料金プランの見直しを行うことで、お店が混んでいたとか、他の提案を受けてむしろ高くなったとか、なんらかの後悔をする恐れがありますが、現状維持にはそれがありません。こういった現状維持バイアスが私たちの消費行動に影響していることを知っておいてください。

なお、多重債務に関する調査や研究では、現状維持バイアスが強い人が多重債務者になりやすいということが分かっています。なぜ借金を繰り返すのか? これは現状維持、つまり現状の満足度を高めようという気持ちが強く、結果、気軽に借金を繰り返すことが指摘されています。

おそらく現在バイアスで紹介した質問を投げかけると、「今すぐ10万円欲しい」と回答する人が多いでしょうね。将来よりも現在へのこだわりが、多重債務という問題につながっているようです。

将来を見据えたプランニングが重要

現在バイアスと現状維持バイアスという、よく似た2つのバイアスを紹介しました。私達は感情があるため、完全合理的に対応することはできませんが、こういったバイアスをできるだけ軽減することで、より賢いお金の使い方や貯め方を身に付けることができそうです。

特に今回は現在と将来という時間軸を意識した話です。「今」と「将来」を平等に比較することが求められます。専門的には「割引率を用いる」という言い方をしますが、双方の条件を同じにして比較することで、今何をすべきか? スマートな判断をしたいですね。

これは将来についても真剣に向き合い、5年、10年、そして老後といった長期的なプランを立て、そのために必要な変化も遂げていかなければならないということにもつながりそうです。私も、自動車保険を見直していた方が良かったのかもしれません……。安全運転を心掛けます。

著者プロフィール: 内山 貴博(うちやま・たかひろ)

内山FP総合事務所
代表取締役
ファイナンシャルプランナー(CFP)FP上級資格・国際資格。
一級ファイナンシャル・プランニング技能士 FP国家資格。 九州大学大学院経済学府産業マネジメント専攻 経営修士課程(MBA)修了。