意中のマンションが絞られてきて、モデルルームを見に行く段階になったら、いよいよ最終段階です。購入前の最後のチェック段階です。

契約前に、モデルルームに建築士を同行しよう

筆者は以前、新築マンションのモデルルームで設計変更の業務に従事したことがあります。

一定の設計変更を有償で行って販売する物件だったために、建物が工事中の段階で折衝します。その際に購入住戸の完成チェックには建築士を同行する施主がちらほらいましたが、完成した段階で建築士がチャックできる範囲は、すべてが仕上げで隠れてしまっているために、素人の施主とさほど大差はありません。むしろ契約前にモデルルームを見に行くとき同行してもらうことをお勧めします。

同行をお願いする建築士は誰でもよいというわけではありません。最適なのは日々マンションの設計に携わっている大手建設会社の設計部のベテランの一級建築士です。

マンションを多く手掛けている大手設計事務所でもよいのですが、設計力は長年の蓄積です。たとえば、超高層ビルの黎明期にその設計を担当した設計事務所へは、施工を担当する建設会社の社員が大量に出向して手取り足取り教えたのが実情なのです。もちろん建設会社にもノウハウは当時なかったのですが、膨大な施工のデータが新しいことへの挑戦の下支えになったのです。

その後、多くの超高層ビルが林立するようになりましたが、大手の設計事務所が設計する超高層ビルの数と建設会社が施工する数には大きな開きがあります。建設会社では個人のノウハウや失敗は即座に全社員に共有されますので、ノウハウの蓄積の厚みに次第に差がつきます。もちろん、物件を設計した設計事務所や工事をしている建設会社の社員は除きます。ホームインスペクターの会社もありますが、多くは戸建て中心だと思いますので、その点を確認の上利用ください。

また構造設計専攻建築士または建築構造士にも同行してもらうとベストです。例えば、2005年に発覚した姉歯の耐震偽造問題などは、モデルルームに備え付けられていた構造図をチェックしてもらえば一目瞭然だったのです。

事件後に建築雑誌に掲載された姉歯設計の柱や梁の大きさや鉄筋のサイズや量は、本来あるべきサイズなどとは大きく異なっていたのです。

日々マンションを設計している一級建築士は構造専門でなくても、その違いには分かるはずです。なぜなら構造計算を行うためには、基本的な設計がなされていなくてはなりません。プラン、高さ、仕上げなどが決まっていないと計算できません。当然デザイナーは、基本設計する際には、ある程度構造体の基本サイズがわかっていないと設計はできないのです。それでもより細かくチェックするには構造設計の専門家動向がベストです。

一級建築士に見てもらうこと

現場の大きな門断点の有無

工事現場の中を見ることはできませんが、行き交う職人の態度や資材やゴミなどの管理状況などから現場所長の力量がわかります。わかる範囲はわずかかもしれませんが、ほんの少しでも大きなリスクの確率を少なくすることは大切です。

昔は、建設会社は優秀な職人を囲い込んで育てたものです。そのためには、切れ目なく仕事を与えなくてはなりません。そうしてその建設会社のマインドを熟知した職人集団が出来上がるのです。しかし不況の時代、建設会社は切れ目なく仕事を与えることが難しくなり、職人は巷に放出されました。

それでも建設現場の各部を担当する大工や配管工、鉄筋工などは、本来誇り高き職人集団なのです。現場を観察するとある程度スキルのレベルがわかります。仕上げのクロス職人などは全体の建物の質に大きく影響しませんが、杭や配筋などの構造体に従事する職人の質が悪い場合は、考えると恐ろしい気がします。

将来の周辺環境の変化

日当たりがよさそう、見晴らしがよいと思っても、眺望や日当たりはそのまま将来にわたって得られるかどうかはわかりません。目の前の敷地の建物が建て替えになるときに高い建物にならないとも限りません。周辺の用途地域の指定から、将来の環境を予測してもらうと安心です。モデルルームが工事中の建物内にない場合は、現地にも同行してもらいましょう。

私はマンション購入時に自分で将来の日照チェックを行いました。当初は海まで数キロ、以前は行き交う船も見えたのですが、今は予測した通り、目の前の半分は対面のマンションの壁です。

それでも広い道路をはさんだ先ですので、日当たりは全然問題はありません。都心にも近い駅周辺の商業地域なので、将来の眺望は期待していませんでした。周辺はすべてビルやマンションですが、当初は眺望も日照も素晴らしかった多くのマンションは、周辺が立て込んだ現在では悲惨な状況となっています。

構造図や図面のチェック

パンフレットにも天井の梁の位置などは書いてあります。しかし、それを立体的にイメージするのは一般の方には難しいものです。現地に備え付けられた設計図書には壁のそれぞれの面を描いた展開図などがあります。きちんと空間を理解して購入ください。

特に最近は逆梁構造と言って天井から直に開口部を取り付けることによって室内をより明るく開放的にする工法が多く取られています。その場合、梁は天井から下がるのではなく、床のコンクリートから厚い腰壁のように立ち上がります。サッシで区切られたスペースは広くても床面のスペースは梁の幅分狭くなります。思うように使えない部屋になる場合もありますので注意が必要です。

周辺の不動産屋さんを回ろう

このことは度々記事にしているのですが、マンション近辺の不動産屋さんは必ずチェックしてください。同じような立地や広さのマンションがいくらぐらいで貸しに出されているか、中古物件が極端に値下がりしていないかなどを調査しておくとよいでしょう。

転勤や転職の際の対応だけでなく、住まいは資産ですので、よい条件で活用できる「強い資産」であってほしいものです。「いつか転勤があるかもしれないので、いくらくらいで貸せますか?」などと率直に聞いてみるのもよいでしょう。その時には依頼してくれるかも知れないと思えば丁寧に教えてくれると思います。不動産屋さんは情報通ですので、思わぬレア情報もキャッチできるかもしれません。

どんなに慎重に考えても、万全ではないかもしれません。リスクはゼロにはできないかもしれませんが、少なくすることが重要なのです。そのためには大枠から詳細への段階を踏んで考えていくこと、自分の労力を惜しまないこと、要所々々に専門家のアドバイスを受けることがポイントです。

次回は中古マンションに絞って特有のチェックポイントを考えてみましょう。

<著者プロフィール>

佐藤 章子

一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。

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