メルセデス・ベンツ日本はSUV「GLC」初の電気自動車「electric GLC」を発表し、予約受注を開始した。価格は913万円から。発表会後にゲルティンガー剛社長を直撃すると、「スペックシートだけ見てもクルマはわからない」とのこと。その真意とは?
日本で「一番選ばれているメルセデス」がEVに
GLCは2016年に日本に導入されたミドルサイズSUV。2025年には日本における外国メーカー車の年間登録台数で4位に入り、ミドルサイズSUVとしては首位を獲得した。メルセデス・ベンツ日本のゲルティンガー社長は発表会で、「まさに、日本のお客様に最も選ばれているメルセデス」と紹介した。
そのGLCに初めて加わったEVだが、社長は「単にGLCのパワートレインを電動化したモデルではありません」と強調する。EV専用に新開発したプラットフォーム「MB.EA-M」を採用し、デザイン、走り、室内空間、デジタル機能まで全面的に作り直したというのだ。社長はこのクルマを「未体感SUV」と表現。ドイツでは2026年9月に「German Premium Car of the Year 2027」を受賞している。日本でのグレード展開は後輪駆動の「GLC 250 electric」(913万円)と四輪駆動の「GLC 300 4MATIC electric」(957万円)の2モデルだ。
顔つきも大きく変わった。フロントグリルは往年の「300SEL」などのグリルを再解釈したデザインで、942個のドットが光るイルミネーテッドパネルを採用。中央のスターやグリルフレームも点灯する。メルセデスの新しいデザイン言語を初めて全面的に採用したモデルで、社長は「新しい時代のメルセデスの顔」だと説明する。
航続距離は最長642km、荷室はゴルフバッグ3個
バッテリー容量は85.5kWhで、一充電航続距離はGLC 250 electricが642km、GLC 300 4MATIC electricが618km。最高出力/最大トルクは250が260kW(354PS)/505Nm、300 4MATICが310kW(421PS)/800Nmだ。
EVとしては珍しく、リアのモーターに2速トランスミッションを組み合わせているのも特徴。1速で発進直後の力強い加速と街中での効率を、2速で高速巡航時の効率を稼ぐ仕組みだ。充電は日本の急速充電規格「CHAdeMO」(最大100kW)に対応。メーカーの検証では、バッテリー残量10%から80%までの充電にかかる時間は45分だった。
EV専用プラットフォームの恩恵は室内の広さにも表れている。プレゼンを担当したGLCプロダクトマネージャーのダニエル・ノルテ氏によると、ホイールベースはエンジン車のGLCより84mm長く、後席の足元は47mm広くなった。荷室容量は520~1,690Lで、5人乗車時でも標準的なゴルフバッグ3個を積める。
さらに、ボンネットの下にはGLC初となる128Lのフロントトランクを用意。機内持ち込みサイズのスーツケース2個がすっぽり収まる空間で、ボンネット先端のスリーポインテッドスターに触れると開く仕掛けもおもしろい。
意外とうれしいのが取り回しの良さだ。オプションの「ドライバーズパッケージ」を選ぶと、後輪も最大4.5度まで向きを変える「リア・アクスルステアリング」が付き、最小回転半径は約5.2mになる。社長は「狭い路地や駐車場では、コンパクトSUV並みの取り回しの良さを実感いただける」とアピールしていた。
横幅1mの巨大画面に焚き火、計算能力は「800万年分」?
インテリアで目を引くのは、オプションで選べる39.1インチの「MBUXハイパースクリーン」だ。ダッシュボードの端から端まで、ほぼ1mにわたって続く1枚のディスプレイで、メルセデス史上最大のサイズとなる。標準仕様でも、10.3インチのメーター用ディスプレイと14インチのディスプレイ2枚を一体化した「MBUXスーパースクリーン」が付く。
画面には、パチパチと燃える焚き火を映す「キャンプファイヤーモード」や、魚やサメが泳ぐ「水族館モード」といった遊び心のある演出も用意する。キャンプファイヤーモードでは、運転席のシートヒーターも作動するという凝りようだ。
クルマ全体を制御するのは、メルセデスが自社開発したオペレーティングシステム「MB.OS」。搭載するチップは毎秒最大254兆回の演算が可能だ。ノルテ氏は「1秒に1回の計算をするとしたら、約800万年かかる量」と、その規模をたとえてみせた。
OTA(無線通信)によるソフトウェアアップデートで、購入後も機能が進化していく。音声アシスタントの「MBUXバーチャルアシスタント」はChatGPTやGoogleのAIなど複数のAIを組み合わせていて、友達と話すような自然な会話で操作できるという。
一方で、ステアリングにはクルーズコントロールや音量調整用の物理スイッチが復活した。なんでもタッチパネルにするのではなく、よく使う操作は手元で確実にできるようにする、というのは歓迎したい変化だ。
社長に直撃! ライバルに「絶対負けない」ポイントは?
発表会後、ゲルティンガー社長に話を聞いた。まず、日本市場でのライバルを尋ねると、「いつもと同じですよね。アウディ、BMWがあって、あとレクサスさんがいて。同じ(クラスの)ものであればX3とか、ですかね」とのこと。そのうえで、「最近、メルセデスとしては、ライバルを意識するというよりは、お客様に選んでいただくためにいろいろと努力する方が大事かなと思っています」と語った。
では、ライバルに絶対に負けないポイントはどこか。社長の答えは明快で、「当たり前なんですけど、メルセデスはやっぱり安全性」。「あれだけ大きい容量のバッテリーを車内に積んでいるということは、もちろんリスクもある。それをどうやって安全に作り込むかが大事。そこに優位性がある」とし、バッテリー保護への徹底したこだわりに自信をのぞかせた。
実際、electric GLCはBピラーに一般的な鋼材の約4~5倍の強度を持つ2,000メガパスカル級の鋼板を使っているほか、重大な衝突時には高電圧システムを自動で遮断する仕組みなどを備えている。
もうひとつ、社長が何度も口にしたのが「スペックシートだけで見ても、クルマってわからない」という言葉だ。
「A地点からB地点に移動したときに、すごく居心地がいいなと思えるかどうか。運転する人も、乗っている人も全員がそう思えるかが大事で、そこに一番力を入れています」(ゲルディンガー社長)
さらに、「スペックシートだけで見れば、他のブランドのどこかのクルマの方が数字が多いとか、そういうのはあります。でも……」と続け、燃費(電費)についても「WLTCモードの数値と実際の燃費との乖離が、どれくらいあるか。そういうことがお客様にとって重要なのではないかと思って、日々努力しています」と話した。
だからこそ、まずは試乗してほしいというのが社長の願いだ。販売店は体験型の新しいデザインへの切り替えを進めているそうで、「スペックシートだけ見て、『こっちの方が高い』『こっちの方が低い』ではなく、まずはお店に来ていただいて、乗っていただきたい」と呼びかけていた。
補助金を使えば実質いくら? 今後はエンジン車も
価格はGLC 250 electricが913万円、GLC 300 4MATIC electricが957万円。国の「クリーンエネルギー自動車導入促進補助金」(CEV補助金)は250が98万円、300 4MATICが78.4万円の対象となる。社長は発表会で、東京都在住の場合は都の補助金で最大70万円のサポートがあることにも触れていた。
保証面では、新車購入から5年間または10万kmまで、一般保証修理と定期メンテナンス、24時間ツーリングサポートが無償になる「EQケア」が付く。高電圧バッテリーは8年間または16万km以内で、残容量が70%を下回った場合の保証もある。全国約2万6,900口の提携充電器が使える充電サービス「Mercedes-Benz Charge」は、申し込みから1年間、月額基本料金と充電料金が無料だ。
なお、GLCにはエンジンを積んだ新型モデルも今後導入する予定。社長によれば、年内には「GLB」のEVも登場し、来年以降も複数の新型モデルを投入するという。EVとエンジン車、どちらも選べるようにしていくのがメルセデスの戦略だ。




























































