ホンダが走行中の電気自動車(EV)に道路から非接触で電気を送る「無線給電道路システム」の基盤技術を開発した。2027年度以降に高速道路で実証実験を実施する。目指すは『F-ZERO』の世界? 仕組みや実用化への課題を担当者に聞いた。

  • ホンダの走行中無線給電技術(技術紹介モックアップモデル)

    ホンダがEVの走行中無線給電技術を研究中!

道路に埋めたユニットから最大150kWで充電

道路を走っているだけで、EVのバッテリーが充電されていく。そんな未来に向けた技術開発をホンダが進めている。本田技術研究所は2026年10月5日、大成建設および大成ロテックと共同で、走行中のEVに非接触で給電する「磁界結合方式無線給電道路システム」の基盤技術を開発したと発表した。

システムは、道路に埋め込む給電側の「GAユニット」と、車両の床下に搭載する受電側の「VAユニット」で構成する。ホンダは受給電ユニットを担当し、大成建設が高応答な直流電源システム、大成ロテックが道路への埋設施工技術を担う。

  • ホンダの走行中無線給電技術の役割分担

    各社の役割分担

特徴は、乗用車から大型商用車まで対応する大電力給電と、埋設のしやすさだ。GAユニットはインバーターとコイルを一体化し、直流配電で給電する構造とした。この一体化は世界初(2026年9月末時点、ホンダ調べ)だ。車両総重量20トンクラスの大型車の走行に耐える設計で、既存の道路を切削して埋め込めるように部品点数や施工量も抑えている。将来の舗装の更新まで考慮したという。

今後は、2026年末から大成建設グループの次世代技術実証センター「T-FIELD/TAMURA」に試験走行路を構築し、実車を使った耐久試験や走行中の給電性能の検証、漏えい電磁界への対策などを進める。最大150kWという高出力での性能や、高速走行時の信頼性も確かめる計画だ。2027年度以降は、東日本高速道路(NEXCO東日本)が館山自動車道(千葉県)で行う実証実験「館山プロジェクト」に参画する。

ホンダは2021年から走行中無線給電(DWPT)の研究に取り組んでおり、3社による磁界結合方式の開発は2025年に始まった。まずは物流・輸送分野での実用化を目指すという。

安全性は?

実際にはどんな技術なのか。「Japan Mobility Show Bizweek 2026」(ジャパンモビリティショービズウィーク2026)に展示されていたモックアップを見ながら、本田技術研究所 チーフエンジニアの佐藤哲さんに話を聞いた。

  • ホンダの走行中無線給電技術(技術紹介モックアップモデル)

    ホンダが「Japan Mobility Show Bizweek 2026」の日本自動車工業会(自工会)合同展示エリアに展示している走行中無線給電技術(技術紹介モックアップモデル)

まず、安全性はどうなのか。今回のシステムは道路側のコイルに電気を流して磁界を発生させ、車両側のコイルでそれを再び電気として受け取る仕組みであるため、乗っている人に電流が流れたりするわけではないという。

道路とクルマの間に異物があった場合はどうなるのか。金属などは発熱するそうだが、大きなものはカメラなどで検知できるし、ドライバー側で回避することもできる。小さなものなら、走行中であれば一瞬で通り過ぎてしまうため、問題にはなりにくいそうだ。佐藤さんによると「渋滞時に長時間ずっと充電し続けることは想定していない」ながらも、「そうした場合にどうするのかは、きちんと決めておく必要がある」とのことだった。

出力は急速充電器並み?

給電の出力は瞬間最大で150kW。このところ、高速道路のサービスエリアなどを中心に増えつつある高出力の急速充電器と同等のレベルだ。ただし、道路に埋めておくGAユニットは間隔をあけて並べるため、その上を走っている間、ずっと150kWで充電し続けられるわけではない。「平均すると50kWくらい」になるとのことだった。

  • ホンダの走行中無線給電技術(技術紹介モックアップモデル)

    上がクルマの床下に取り付ける受電用の「VAユニット」、下が道路に埋設する給電用の「GAユニット」

道路とクルマの床下の間にはそれなりの距離があるが、最低地上高が200mm程度あっても給電は可能だという。

気になるのはコストだ。車両側のユニットを搭載すると、車両価格にどのくらい上乗せになるのか。道路に給電ユニットを埋設するのにも、けっこうな投資が発生しそうだ。車両価格への影響が明らかになるのは「これから」とした上で佐藤さんは、「自動車でよく使われているようなもの(部品)を使っている」ため、そこまで大幅な価格上昇にはつながらないとの見通しを示した。このシステムのために、特別に高価なものを使っているわけではないようだ。

もちろん、道路側の整備が進まなければ、クルマにユニットを積んでも宝の持ち腐れになる。逆に、対応するクルマが世の中に増えなければ、道路を整備する意味も薄れる。普及には「鶏が先か、卵が先か」の問題がついて回りそうだ。

ホンダ車しか充電できない?

道路への給電ユニットの埋設は、当然ながらホンダ単独ではできない。今回のように施工を担う企業や、高速道路会社などインフラを管理する事業者との連携が欠かせない。

無線給電の分野に取り組んでいるのはホンダだけではない。トヨタ自動車・デンソー・大林組のチームも実証実験(館山プロジェクト)に参加予定だ。

クルマに搭載する技術は各社が競い合うとしても、「ある程度の互換性は必要」というのが佐藤さんの考え。「あの道路ではホンダ車しか充電できない」という状態では、無線給電の普及は望めない。ただ、メーカーごとに充電できる量(充電の速さ)に差がある、といったような競争は、あってもいいのかもしれない。

無線給電が実現すると?

無線給電が実現すると、どうなるのか。例えば、ここを走ればEVを充電できるという道路(区間)がいくつかあって、自分の通勤や買い物などのルートに給電可能区間を組み込めば、自宅でEVを充電する必要がなくなる(あるいは、頻度を大幅に減らせる)。そんな世界になれば、かなり便利そうだ。

ただし、一般道の場合、充電のために通る道を決められてしまうことには抵抗があるかもしれないし、特定の充電エリアにクルマが集中して渋滞が起きてしまっては本末転倒だ。そのあたりについて聞くと、「そういうところは丁寧にやっていかないといけない」と佐藤さん。停車する可能性が高い信号の周りに給電ユニットを集中的に設置することを提案してみると、「解決策としては、すごくいい」とのことだった。

思い出すのはスーファミの『F-ZERO』

話を聞いていて思い出したのが、その昔、スーパーファミコンで遊んだレースゲームの『F-ZERO』だ。確か、4種類くらいの近未来的なクルマから1台を選び、やはり近未来的なコースを走って順位を競うゲームだったはずだが、そのルート上には、走り抜けるだけで自分のクルマのエネルギー(体力?)が回復するゾーンがあった。そこをうまく通れるかどうかが勝負の分かれ目だったと記憶している。

佐藤さんに『F-ZERO』を思い出したと伝えると、「考え方は一緒ですね」との回答が。

現状のEVにとって、充電は普及の大きなネックだ。走りながら充電できる道路ができれば、その前提が大きく変わる可能性がある。互換性の確保やインフラ整備の進め方など、課題はまだまだ多そうではあるものの、ゲームの中の世界が現実の道路で実現する日を楽しみに待ちたい。