コメディのイメージから見落とされがちだが、当作のもう1つの魅力は切ない片想いの連鎖。青山への叶わぬ思いを抱える泉の周囲にはさまざまな恋愛感情が飛び交い、そのほとんどが一方通行の片想いだった。

泉に自制心と戦いながらも惹かれてしまう美大生・赤松啓介(中丸雄一)、世を忍ぶ泉を助けながら赤松へのほのかな恋心を抱くツンデレ中学生・緑川つね(草刈麻有)、つねの親友かつ“男の娘”で赤松に思いを寄せる小桃宣親(加藤諒)、青山の元愛人で泉を憎む向島のワケあり芸者・駒子(青山倫子)、繰り返される夫・青山の浮気にストレスを溜め、泉への怒りを募らせる青山由紀子(安達祐実)。

「ただ好きな人のそばにいたいだけなのにそれすら叶わない」「思いが届くことはないから静かに見守ることしかできない」。時にしんみりさせるような切ないシーンが意外に多かった。

さらにそんな切ない恋心を墨田区向島というロケーションが何気に演出。商店街、喫茶店、公園、芸者、隅田川などの下町情緒あふれる描写が、シュールなコメディと切ない片想いをリンクさせていた。

ルッキズムに振り切ったコンセプト、1人として普通の人間が見当たらない個性的な登場人物、脱力感を誘われる大小のギャグ……これらは東村アキコの原作漫画そのものと言っていいだろう。しかし、だからこそ制作サイドには「ギャグ漫画として一級品の作品をどう映像化するか」という難題が突きつけられた。

原作の脚色に強い野木亜紀子

脚本に関しては野木亜紀子がさすがの構成力を見せた。野木は東村ならではのギャグや毒を生かしたまま、片想いの連鎖や泉の生きづらさを過不足なくミックス。各話終盤にはっきりとした山場を作り、連ドラとしての見応えを生み出した。

「脚本家・野木亜紀子」と言えば冒頭にあげたオリジナルの印象が強いかもしれないが、決してそれだけではない。当初、野木は原作漫画・小説の脚色に長けた脚本家として知られていた。

実際、12年の『主に泣いてます』は漫画、13年の『空飛ぶ広報室』(TBS系)は小説、15年の『掟上今日子の備忘録』(日本テレビ系)は小説、16年の『重版出来!』(TBS系)と『逃げるは恥だが役に立つ』(同)はどちらも漫画の連ドラ化。原作者も原作ファンもうならせる脚色のうまさは業界屈指であり、「『主に泣いてます』はそのきっかけとなる記念碑的な作品だった」とも言える。

一方、キャストで特筆すべきは、つねを演じた草刈麻有だろう。彼女は「殴る蹴るは当たり前」の武闘派で、言葉は荒いが男気あふれる江戸っ子中学生を演じたが、菜々緒のセリフが少なかったこともあって「事実上の主演」と言われるほどの存在感があった。

名優・草刈正雄の次女である麻有は当時、業界内で「大器」「朝ドラも行けそう」などの声があがったが、活動休止期間などもあって俳優としてのブレイクには至っていない。現在33歳とまだまだ若く、当作を見直したことで「まだまだ巻き返しに期待したい」と思わされた。

日本では地上波だけで季節ごとに約40作、衛星波や配信を含めると年間200作前後のドラマが制作されている。それだけに「あまり見られていないけど面白い」という作品は多い。また、動画配信サービスの発達で増え続けるアーカイブを見るハードルは下がっている。「令和の今ならこんな見方ができる」「現在の季節や世相にフィットする」というおすすめの過去作をドラマ解説者・木村隆志が随時紹介していく。