業界内でも「各局力作ぞろいの豊作」という声があがる秋ドラマの中で、最もドラマファンの注目度が高いのは『ポリティカルパン』(7日スタート、フジテレビ系 毎週水曜22:00~)と言っていいのではないか。

主演・石原さとみが“女ルパン”を演じること以上に注目度が高いのは、野木亜紀子が手がける脚本。野木の脚本と言えば『アンナチュラル』『MIU404』『海に眠るダイヤモンド』などTBS作品のイメージがあるかもしれないが、デビューのきっかけはフジテレビヤングシナリオ大賞であり、今回ひさびさに同局の連ドラを担うことになった。

実は野木が初めてメインで脚本を手がけた連ドラは2012年放送の『主に泣いてます』(フジ系、FODで配信中)であり、『ポリティカルパン』はそれ以来14年ぶりのフジ復帰作となる。

その『主に泣いてます』は令和の今見てもなかなか面白い作品であり、あらためてその魅力をドラマ解説者・木村隆志が掘り下げていく。

  • 『主に泣いてます』(C)東村アキコ/講談社 (C)フジテレビ

    『主に泣いてます』(C)東村アキコ/講談社 (C)フジテレビ

“悪女”ではないブレイク前の菜々緒

『主に泣いてます』は、言葉では語り尽くせぬほどの美しさから、出会うすべての男が迫ってくるため生活すらままならない紺野泉(菜々緒)と、彼女を取り巻く人々の悲喜こもごもを描いた人情コメディ。

他人の人生を狂わす美ぼうのせいで隠れて生きる美女・泉を演じるのはブレイク前の菜々緒。その孤独から有名画家・青山仁(風間トオル)の愛人となるなど不幸な日々を送る一方で、美ぼうを隠すために子泣きじじい、ねずみ男、武藤敬司、元巨人・クルーン、水木しげるの兵隊キャラなどのコスプレやモノマネに笑いを誘われる。

当時、菜々緒は連ドラ初出演にして初主演の大抜てき。“悪女俳優”としての評価が高まった『サイレーン 刑事×彼女×完全悪女』(カンテレ・フジ系)より3年以上も前の貴重な姿と言っていいだろう。

第1話は泉の「生まれ変わったらブスになりたい。明るくて、面白くて、誰からも愛されるステキなブスに……」というセリフからスタートする。そんな絶世の美女・泉だけでなく、「見た目は西郷隆盛、気持ちは乙女」の小桃、女性を「美人かブスか」のみで差別する警官・勅使河原耕三(坪倉由幸)なども含め、これ以上ないほどルッキズムをフィーチャーしたドラマだった。

時代は平成から令和に変わり、女性芸人ですら「ブス」の自虐ギャグを避けるなどルッキズムの取り扱いが難しくなる一方。だからこそ、今の方が当作の振り切り方が痛快に見えるし、ルッキズムという言葉に一喜一憂する人を笑い飛ばすような強さを感じさせられる。