伊藤匠王座に広瀬章人九段が挑む第74期王座戦(主催:日本経済新聞社・日本将棋連盟、特別協賛:東海東京証券)は、両者1勝で迎えた第3局が10月2日(金)に北海道虻田郡ニセコ町の「ニセコ温泉郷 いこいの湯宿 いろは」で行われました。対局の結果、相掛かり空中戦の中盤から抜け出した伊藤王座が100手で勝利。異次元の香の成り捨てを披露して防衛にあと1勝と迫っています。

飛車が主役の相掛かり

前局は終盤の大逆転でスコアをタイに戻した伊藤王座。後手番で迎えたこの日は広瀬九段用意の相掛かりを正面から受けて立ちました。角取りに歩を打って形を決めたのは小さな趣向で、端攻めからの動きを見せることで先手の反撃を誘発。盤上は玄人好みのジリジリとした競り合いへと進み、やがて伊藤二冠が強引な角打ちから成桂を作って一段落を迎えます。

局面は形勢互角の中盤戦で、盤上中央をさまよう広瀬九段の飛車がうまく逃げきれるかが焦点になっています。「飛車取り→逃げる」の応酬が始まり千日手模様もチラついてきた66手目が本局のポイントとなりました。千日手にする発想がなかった(局後の感想)という広瀬九段は飛車取りを手抜いて攻め合いますが、ここで伊藤王座の渾身の手筋が炸裂します。

一同驚愕の香の成り捨て

香取りをかけられた局面、この香を相手の銀が利いているタダのところに成り捨てたのが妙手。これを見た控室の棋士も「指した、すげえ」「歴史に残る一手」と驚きを隠せません。というのもこの香はもう1マス深く進めば安全に銀取りをかけることができるからで、あえて捨てることで①先手の飛車の逃げ道をふさぐ、②飛車を取れた場合は銀をそっぽに行かせることで先手陣が弱体化できるという複合的な狙いが「伝説の一手」の背景となりました。

前述の狙いのうち①を実現させた伊藤王座は手にした飛車を先手陣に打ち込んで一気に寄せへ。終局時刻は18時2分、最後は自玉の受けなしを認めた広瀬九段の投了で熱戦に幕が引かれました。優勢を築いたあと自陣の角取りを手抜いて自陣を堅めた指し回しもうまく、中盤でリードを奪ってからは抜け目なく指した伊藤王座の強さが光る快勝譜となりました。

注目の第4局は10月14日(水)に兵庫県神戸市の「ホテルオークラ神戸」で行われます。

水留啓(将棋情報局)

  • 伊藤王座は勝着となった香捨てについて「なかなか自信がないと感じており、ひねり出した一手だった」と振り返った(写真:日本将棋連盟提供)

    伊藤王座は勝着となった香捨てについて「なかなか自信がないと感じており、ひねり出した一手だった」と振り返った(写真:日本将棋連盟提供)