山形県東根市の山深い秘境に店を構える「手打らーめん 紅花」。ここには、ラーメンの上に自家製ポテトチップスを豪快にのせた「味噌バターポテトらーめん」という唯一無二の一杯があるという。全国47都道府県のラーメンを食べ歩くラーメンライター・井手隊長が、現地に訪れ、その一杯をいただく。
山形の秘境で出会った"知る人ぞ知る"人気店「手打らーめん 紅花」(山形県東根市)
山形県東根市から仙台方面へ向かう国道48号を走り、関山峠へと入っていくと、次第に人家が少なくなり、周囲は深い山に囲まれていく。そんな場所に、長年営業を続ける一軒のラーメン店がある。
「手打らーめん 紅花」。
いわゆるラーメン激戦区にある店ではない。むしろ「なぜ、こんなところに?」と思ってしまうような場所にある、まさに秘境のラーメン店だ。
実は昨年、一度こちらを訪れたものの、タイミングが合わず食べることができなかった。その時は店頭に「水不足のため営業終了」と書いてあった。今回はリベンジ。念願叶って、ようやく暖簾をくぐることができた。
丼を覆う自家製ポテトチップス! 「味噌バターポテトらーめん」
そして、ここには一度聞いたら忘れられない名物ラーメンがある。
その名も「味噌バターポテトらーめん」(1,000円)。名前だけでもなかなかインパクトがあるが、実物を目の前にすると、さらに驚かされる。
丼の上にドーンとのっているのは、なんと自家製のポテトチップスだ。ラーメンにポテトチップスという組み合わせ自体がかなり珍しい。それも申し訳程度に数枚添えられている、というレベルではない。
なんと、どデカいジャガイモが約1個分。一般的なジャガイモのサイズに換算すれば、3個分ほどにもなるというからすごい。
具材は、自家製ポテトチップス、チャーシュー、コーン、ネギ。そして麺は極太ストレート。見た目からして、かなり個性的な一杯である。
まずはスープをひと口。味噌味なのだが、いわゆる濃厚味噌ラーメンとは違い、サラッとしたタイプ。そこにバターのコクが加わっている。
そして、このラーメンの主役は、やはりポテトチップスだ。そのままパリパリと食べるのもいいが、せっかくなので味噌スープにジャブジャブ浸してみる。
これが旨い。
スープを吸って柔らかくなったポテトチップスは、ジャガイモのホクホク感と味噌の旨味が合わさり、なんとも不思議な味わいになる。
しかも、食べ進めていくと驚くことに、麺の下からもポテトチップスがゴロゴロと出てくる。「上にのせてあるだけ」ではないのだ。丼の中にもしっかり仕込まれているため、麺を食べている途中にもポテトチップスが現れる。
端の部分はカリッとした食感が残り、スープに浸かって柔らかくなった部分はしっとり。ひとつの丼の中で、パリパリ、しんなり、ホクホクと、いろいろな食感が楽しめる。ポテト好きにはたまらないラーメンである。
そして、もう一つ印象に残ったのがチャーシュー。一度蒸してから醤油で煮るという独特の作り方で、食感はまるで牛肉のようなホロホロ感。一般的なラーメン店のチャーシューとはまた違った個性があり、これも「紅花」ならではの味わいだ。
ちなみに「バターポテトらーめん」には味噌だけでなく醤油味(正油味)も用意されている。ここまでくると、もはや「ラーメンに何を合わせるか」という既存の常識からは少し離れたところにある一杯と言っていい。
19歳で開業後、約50年守り抜いてきた唯一無二のラーメン店
そして、この店の歴史を知ると、その個性にもさらに説得力が出てくる。
「紅花」を切り盛りする大将は、なんと19歳で店を開業したという。そこから一代で店を守り続け、約50年。19歳で始めた店が、半世紀近くの時間を経て、今も関山峠の中で営業を続けている。
ラーメン店が生まれては消えていく時代に、これだけ長く1つの店を続けていること自体がすごい。しかも、都心の人気店のように大量の情報発信をしているわけでもない。それでも、この場所で独自のラーメンを作り続けている。まさに「知る人ぞ知る」という言葉が似合う店だ。
そして、ポテトチップスをラーメンに合わせるという発想も、流行に乗ったものというより、長年この場所で店を続ける中から生まれた「紅花」独自の文化なのだろう。
いわば、ラーメン界のガラパゴス。
都会のトレンドから少し離れた場所で、誰かに合わせることなく、自分たちのスタイルを50年近く貫いてきた。その結果として生まれたのが、この唯一無二の「味噌バターポテトらーめん」なのだと思う。
山形の東根から関山峠を越えて仙台方面へ向かう途中。そんな山深い場所で、50年もの間、ひたすらラーメンを作り続けてきた店主。そして、その丼の中には、ジャガイモ約1個分もの自家製ポテトチップス。なかなか、ここまで振り切ったラーメンには出会えない。 昨年は食べることができなかったが、今回は無事にリベンジ達成。「こんなラーメンがあるのか」と驚きながら食べる楽しさも含めて、実に面白い一杯だった。
遠い。場所もかなり山深い。それでも、わざわざ足を運ぶ価値は十分にある。
山形の秘境で約50年。大将が一代で守り続けてきた「手打らーめん 紅花」。
この店でしか味わえない、ポテトチップスまみれのラーメンを、ぜひ一度体験してみてほしい。





