ファミリーレストランのラーメンは、今や"手軽"だけでは語れない。近年は専門店監修メニューを投入するチェーンも増え、ファミレス各社のラーメン開発競争はますます激しくなっている。
そのなかで、ラーメンライター・井手隊長が注目しているのが「デニーズ」だ。今回実食する新作「スパイスラーメン」からは、同チェーンのラーメンへの並々ならぬこだわりが見えてきた。
ファミリーレストランのラーメンと聞いて、どんなイメージを持つだろうか。
無難で食べやすい一杯。専門店ほど尖ってはいないが、誰でも安心して食べられる味。かつてはそんな立ち位置だった。しかし近年のデニーズは違う。
デニーズといえば、長年愛され続ける担々麺が看板メニューのひとつ。さらに近年は、神奈川の名店として知られる「飯田商店」監修の担々麺や味噌らぁ麺を展開するなど、ラーメンへの力の入れようが目立っている。
新作「スパイスラーメン」に見たデニーズの底力
そして2026年6月10日のグランドメニュー改定で投入されたのが「スパイスラーメン」(1,309円)だ。
今回の改定では従来の担々麺に加え、「飯田商店監修 冷やし豆乳担々麺」、さらにトレンドの麻辣湯麺もラインナップ。その上で新たに「スパイスラーメン」まで投入してきた。ここまで辛味やスパイスを軸にした麺メニューを充実させているファミレスチェーンは、他にあまり思い当たらない。
実際に食べてみると、その理由がよくわかる。
まず目を引くのが、たっぷりの香味野菜だ。水菜、大根、人参、白髪ネギの香味野菜ミックスに加え、赤タマネギ、ブロッコリー、そして柔らかなローストポーク。ファミレスのラーメンというより、どこかアジアンテイストのカフェ飯を思わせるビジュアルである。
スープをひと口。これが実に面白い。
商品名から激辛系を想像していたが、方向性は違う。ベースは魚介の旨味を感じるダシ。その上に数種類のスパイスが重なり合い、辛さだけではない立体的な香りを作り出している。
まず魚介の旨味が広がり、その後からスパイス由来のエスニックな香りが追いかけてくる。そして最後に心地よい辛みが残る。辛さは中辛程度だろうか。汗が止まらなくなるような刺激ではなく、最後まで飽きずに食べられるレベルに抑えられている。ファミリー層も利用するデニーズらしい絶妙なバランス感覚だ。
特に印象的だったのは、スパイスの使い方の巧みさである。最近はスパイスカレー人気の影響もあり、スパイスを前面に押し出したメニューが増えている。しかし、スパイスだけが突出すると食べ疲れしてしまうことも少なくない。
この一杯は違う。魚介出汁の土台がしっかりしているため、スパイスの個性を受け止めながらも全体としてまとまりがある。担々麺や麻辣湯麺などを長年手掛けてきた経験の蓄積が感じられる仕上がりだ。
デニーズは長年の担々麺開発を通じて、辛味と旨みのバランス、香辛料の扱い方、そして幅広い客層に受け入れられる味づくりのノウハウを磨いてきた。その技術が、このスパイスラーメンにも生かされているように思う。
途中で別添えのパクチーを投入すると、表情が大きく変わる。一気にフォーやラクサを思わせるエスニックな雰囲気になる。パクチー好きなら最初から全部入れてもいいし、途中で味変として使うのも面白い。
さらに、このメニューの特徴は麺を選べることだ。中華麺のほか、マロニーやうどんも選択可能。担々麺や麻辣湯麺と同様に、自分好みの楽しみ方ができる仕掛けになっている。 今回は王道の中華麺でいただいたが、スープとの相性は良好。やや細めの麺がスパイス香るスープをしっかり持ち上げてくれる。
スープがとにかくご飯に合うので、せっかくなら「ミニごはんと唐揚げ2個セット」(429円)を付けて楽しみたいところ。唐揚げのおかず力も相まって満足感はかなり高い。
現在のデニーズの麺メニューを見渡すと、「辛い」「痺れる」「香る」という現代のラーメントレンドを見事に押さえていることがわかる。単なるファミレスのサイドメニューではなく、ひとつのジャンルとして真剣に向き合っている姿勢が伝わってくる。
新作のスパイスラーメンは、その集大成とまでは言わないが、少なくともデニーズが積み重ねてきた辛味・スパイス系ラーメンの経験値を感じさせる一杯だった。




