『友近サスペンス劇場』は、1980年代や2時間サスペンスへの愛情を形にすることから始まった企画。第1弾で愛媛県を舞台にすると、作品を見た人がロケ地を訪れる“聖地巡礼”の動きが生まれ、劇中で紹介されたご当地商品の売り上げが倍増するなど、地域活性化にもつながった。

このことから、「こういう形の地域貢献があるんだ」と気づき、震災からの復興が進む能登に作品が一助になればという思いも込めて、今回の舞台に選ばれた。

劇中では能登の魅力を伝える場面がたびたび登場。撮影が行われた春は、桜が満開を迎えており、友近は「こんなに元気のある桜は初めてというぐらい力強かったんです。これだけの生命力が桜にあるなら、きっと能登の皆さんの復興も頑張ってくれるという感じが本当にしました」と語る。

芝は「あまりにもきれいだったから、現場で桜のカットを足そうという話になったんですよね。みんなで写真も撮りました」と明かす。震災の傷が残る能登で見た桜は、単なる風景以上の力をチームに与えてくれたようだ。

撮影では、七尾市役所が全面的に協力。市長も現場へ激励に訪れ、街ぐるみで作品を応援してくれたといい、西井監督は「ロケ中に1件のクレームもなく無事に撮り終えられたのは、市役所皆さんのおかげです」と感謝する。

旅館の大浴場で人が亡くなるというシーンは、ロケ先として断られることも想定したが、若旦那が快く受け入れてくれた。京子と奥野が訪ねた青林寺の場面には実際の住職が出演し、その声や自然なたたずまいは「名俳優みたいでした」(芝)と回想。西井監督は、テーブルに映り込む景色の反射も美しく撮れたといい、物語上の重要な場面として完成映像を見た時に強く印象に残ったという。

このように、官民一体となっての支援があって作品が完成したのだ。

七尾市で開かれた上映会では、地元企業の名前が劇中に登場するたびに客席が沸き、旅館の清掃員役として死体を発見する市役所職員の山本あおいさんが悲鳴を上げるシーンでは、大きな笑いが。上映後には指笛も響くほど盛り上がったという。

西井監督は、テレビ番組の場合、一度放送されればそれで終わってしまうことも多いとした上で、「この作品は現地で上映して、市長も一緒に見てくれました。一番届けたい人に届けられるという意味では、こんなに恵まれた作品はないです」と感慨を語った。

  • 青林寺の住職(左)

    青林寺の住職(左)

  • 悲鳴を上げる七尾市役所職員・山本あおいさん

    悲鳴を上げる七尾市役所職員・山本あおいさん

  • (C)「友近サスペンス劇場II」製作委員会

「祇園囃子の奥に潜む殺意」友近の構想は早くも次の地域へ

制作を支えるスポンサーには、前作の舞台で友近の地元である愛媛県の企業が今作にも名を連ねている。友近自身が各社に足を運んで企画をプレゼンしたといい、「そこも全部、自分でやりたいし、思いも伝えたいんです。先方の方も、本人の顔を見ると気持ちが伝わるということで、すごく賛同してくださいました」と話す。

このように『友近サスペンス劇場』に並々ならぬ情熱を注いでいる友近だが、その頭の中には、早くも次回作のアイデアが浮かんでいる。「いろいろなシチュエーションでやりたい」という中で具体的な構想として語るのは、祭りを舞台にしたサスペンスだ。

「昔はお祭りのサスペンスも結構あったんですよ。祇園祭の祇園囃子の奥に潜む殺意、みたいな。お祭りの裏で行われていることには興味があります」

愛媛から能登へと舞台を移し、地元の人々や企業を巻き込みながら広がってきた『友近サスペンス劇場』。次はどの土地で、どのような事件が起こるのか。友近の構想はすでに、その先へ向かっている。

  • (左から)モグライダー・芝大輔、友近、西井紘輝監督

    (左から)モグライダー・芝大輔、友近、西井紘輝監督

●友近
1973年生まれ、愛媛県出身。2000年にデビュー。一人コント、歌、芝居など幅広い表現を強みに、03年に「NHK新人演芸大賞」演芸部門大賞、06年に「上方お笑い大賞」最優秀技能賞などを受賞。俳優として映画、ドラマ、舞台にも出演し、大映ドラマや往年の芸能文化への深い知識を生かした作品作りも手がける。

●芝大輔(モグライダー)
1983年生まれ、愛媛県出身。09年にともしげとお笑いコンビ・モグライダーを結成し、21年と23年に『M-1グランプリ』決勝へ進出。バラエティ番組やラジオに加え、ドラマや映画など俳優としても活動している。

●西井紘輝
1994年生まれ、兵庫県出身。映像作家で、YouTubeチャンネル「フィルムエストTV」主宰。関西大学社会学部を卒業し、14年に同チャンネルを開設した。現代の事象を1980~90年代風の映像で表現する“アナクロ映像”を数多く制作。監督、脚本、編集、美術などを横断して手がけ、テレビや映画にも活動の場を広げている。