最新技術を駆使する一方、時代考証には地道に人力を費やした。特に苦労したのが、駅名標や時刻表、当時の鉄道事情の再現。西井監督は「フィクションであっても、鉄道マニアの方はかなり厳しいので」と妥協しなかった。

当時はまだ新幹線の品川駅が未開業など細かな事実関係まで確認したが、専門家には依頼せず、西井監督自身の知識と調査で仕上げた。時刻表は全文を手打ちし、文字の形まで写して作成。その努力は劇中の場面だけでなく、「『はつゆき』時刻表クリアファイル」としてグッズ展開もされている。

西井監督はこの作業を「もう二度とやりたくないです」と苦笑いするが、「キャストの皆さんに、あの世界に溶け込んでもらいたいんです。作り手の粗のせいで、世界観が損なわれることは絶対に避けたかったので」と強調。

友近も、フィルムエストTVの過去作品を見て、「この人と仕事をしたい」と自ら西井監督へ声をかけた経緯を振り返り、「絶対にやってくれるだろうという安心があります」と、改めて信頼を語った。

  • 「はつゆき」時刻表クリアファイル

    「はつゆき」時刻表クリアファイル

「“ただものまねしてるだけ”には絶対ならん」

劇中では、湯江タケユキが毒を盛られた日本酒を飲み、口から泡を吹いて倒れるシーンがあるが、かつての2時間サスペンスで使われていた“泡”の作り方は、制作のノウハウが途絶えたことで、簡単には分からなかった。湯江本人も、過去の撮影では何を口に入れていたのか明確には覚えていなかったという。

そこで今回は舌を洗浄するための泡状の素材を用意し、湯江の口へ入れて撮影。うまく泡が出るか不安もあったが、サスペンスへの出演経験が豊富な湯江が「こうするんです」と自ら方法を示し、迫真の場面が完成した。

西井監督は「途絶えているノウハウを復活させるプロジェクトでもあるんです」と話し、細部の再現にも文化継承の意味を見いだしている。

  • (C)「友近サスペンス劇場II」製作委員会

    (C)「友近サスペンス劇場II」製作委員会

2時間サスペンスの“あるある”を再現する企画として始まった『友近サスペンス劇場』だが、このように最新技術を駆使した映像表現、徹底した時代考証、かつての俳優たちが培ってきた演技や撮影のノウハウなど、失われつつある映像技術や演技、物語の作法を受け継ぐプロジェクトへと発展している。

当初から、単なる模倣やパロディーとして制作している意識はなかったという友近は「2時間サスペンスが好きだし、“ただものまねしてるだけやん”には絶対ならんようにという気持ちは、最初から持っていました。昭和が好きで、そういうコントもたくさんやってきたので、その部分の集大成じゃないですけど、全部入れてやりたいと思っています」と語った。

見た目は懐かしくても、その裏側には最新技術と膨大な手作業があり、途絶えかけた“泡吹き”の技術まで掘り起こす。『友近サスペンス劇場』は、“あの頃”を再現するだけではなく、2時間サスペンスという文化そのものを次の時代へ手渡そうとしている。

●友近
1973年生まれ、愛媛県出身。2000年にデビュー。一人コント、歌、芝居など幅広い表現を強みに、03年に「NHK新人演芸大賞」演芸部門大賞、06年に「上方お笑い大賞」最優秀技能賞などを受賞。俳優として映画、ドラマ、舞台にも出演し、大映ドラマや往年の芸能文化への深い知識を生かした作品作りも手がける。

●芝大輔(モグライダー)
1983年生まれ、愛媛県出身。09年にともしげとお笑いコンビ・モグライダーを結成し、21年と23年に『M-1グランプリ』決勝へ進出。バラエティ番組やラジオに加え、ドラマや映画など俳優としても活動している。

●西井紘輝
1994年生まれ、兵庫県出身。映像作家で、YouTubeチャンネル「フィルムエストTV」主宰。関西大学社会学部を卒業し、14年に同チャンネルを開設した。現代の事象を1980~90年代風の映像で表現する“アナクロ映像”を数多く制作。監督、脚本、編集、美術などを横断して手がけ、テレビや映画にも活動の場を広げている。