7月10日からTOHOシネマズ 日比谷ほかで全国ロードショーとなる、特別先行版『鬼平犯科帳 本所の銕/密告』。池波正太郎原作、松本幸四郎主演の『鬼平犯科帳』シリーズ最新作となる第8弾『本所の銕』と第9弾『密告』を一本化した作品となっている。

その『本所の銕』で“本所の銕”こと長谷川銕三郎(後の長谷川平蔵)役として主演を務めるのが市川染五郎、そして2つの物語の鍵を握る、本所に巣くう悪御家人・横山小平次と盗賊・伏屋の紋蔵を一人二役で演じるのが駒木根葵汰だ。

劇中では、父子である松本幸四郎と染五郎が、時代を超えて“同じ人物”を演じ、一方の駒木根は物語上のもう一組の“父子”を一人で背負う。そんな不思議な縁の中で演じた2人にインタビュー。役作りの裏側から、撮影現場で見えた幸四郎の素顔、そして時代劇に対する思いまで、たっぷりと語ってもらった。

  • (左から)駒木根葵汰、市川染五郎 撮影:上岸卓史

    (左から)駒木根葵汰、市川染五郎 撮影:上岸卓史

銕三郎ににじむ“グラデーション”あえて父の真似を

――染五郎さんが演じる銕三郎は、後に“鬼の平蔵”と呼ばれる人物へと成長していく過程にあります。若き日の荒々しさや葛藤を、どのように表現しようと思われましたか?

染五郎:放蕩無頼な日々を過ごしている時代ではあるのですが、本当に情に厚くて、根っからの悪ではない人というイメージがありました。そこから “鬼の平蔵”と呼ばれる平蔵時代につながっていく過程を、きちんとグラデーションで見せることを今回は特に意識しました。

 前回出演した『本所・桜屋敷』『血闘』では、銕三郎という人物をしっかり演じきることが目標でしたが、今回は時系列的にも平蔵に近づいていますし、自分自身も年齢を重ねてきたので、より平蔵につながる銕三郎として見ていただけるようにしたいと思いました。ですから今回は意識して、あえて父の真似をしようと思って演じていました。

――具体的にはどのようなところを?

染五郎:父が歩く時に着物の裾をスッと持つシーンがあったのですが、そうすると着物がまとわりつかず歩きやすくて、その仕草を真似しました。体型は父とは違いますが、歩いている時のフォルムを近づけたいと思い、そうした細かいところを意識していました。

――駒木根さんが演じる小平次は、銕三郎に執着する、非常に印象的な“敵役”です。演じる上で意識された点、役の魅力はどんなところにありましたか?

駒木根:よくも悪くも、記憶に残るキャラクターに仕上げられたと思います。普通に生きていて、ちょっと怪しい匂いがするというバランスはいろいろ考えました。どの時代にもこんな人間はいるんだなと、演じていて感じましたし、逆に、あそこまで非道に振り切れる人間というのも珍しいと思います。しいて挙げる小平次の魅力は、「素晴らしく非道な部分」です。

――お二人で演じる時、そういった対立はどれくらい意識されていたのですか。

駒木根:気持ちよく成敗されたいと思って演じて。嫌なことをやればやるだけ、染五郎さんの心の中にも「ちょっとこいつ嫌だな」と少しでも思ってほしい自分と、思ってほしくない自分がいて、その葛藤はありました。

――それを受けて、染五郎さんは?

染五郎:「なんだこいつは!」と本当に思っていました(笑)。現場ではお話しする時間もあまりなかったですし、駒木根さん自身がどういう方なのかも直接知る機会がなかったので、本当にあのままの方なのではないかと思っていました。

駒木根:僕も本当に嫌だなと思いながら演じていました(笑)

染五郎:実際は柔らかい方で、とても安心しました。

殺陣は「打つ」感覚で 舞台と映像、見せ方のこだわり

――本作の見どころの一つでもある立ち回りのシーンについて、前作までは銕三郎は木の棒で行っていた殺陣が、今回は刀になったそうですね。

染五郎:そうですね、今回は殺陣もさらに激しく、シーンも多くなりました。木の棒だと「殴る」という動きなのですが、刀の場合は峰打ちといって峰のほうを使って戦うやり方で、斬るでもなく、殴るでもない、「打つ」という感覚です。実際に刀同士を合わせている部分もありますが、基本的には体に当ててはいけない。どうしたら峰打ちをしているように見えるか、ということがとても難しかったです。

――映像での見せ方について、こだわった部分はありますか?

染五郎:舞台で演じていると、声の出し方や表情の付け方、動きも、映像よりオーバーにやらないと伝わらない部分があり、それを映像のお芝居に落とし込むのは毎回とても難しいところです。アップなのか引きなのか、どれくらいの距離で撮られているのか、監督がどんな意図でどう見せたいのか、その都度汲み取りながら、役者としてどのように見せるのが正しいか考えていました。

――立ち回りで、阿佐辰美さん演じる剣友の岸井左馬之助との連携について話し合われたことはありますか?

染五郎:最後の殺陣は左馬之助と一緒でしたが、自分たちより強い相手と戦っていることを常に意識していました。相手によって銕三郎の力の入り方も変わってくるので、同じ殺陣でもその時々の心情が武器になるように。左馬之助が加わることでパワーアップする安心感と、2人で作る緊張感を、お芝居をしながら作っていきました。

――駒木根さんは立ち回りの場面はどんな意識で?

駒木根:僕はただ見ているだけのお芝居だったので、みなさんが一生懸命立ち回りされているのを見ながら、「いい汗かいているなあ」と、少し羨ましくも思っていました(笑)