「たくさんの感情がぐちゃぐちゃになりました(笑)」

2024年4月に藤商事へ入社し、研修を終えたばかりの西牧宏太氏は、演出開発課に配属される。それから約3カ月後、配属から間もない若手社員に託されたのは、『eとある科学の超電磁砲 PHASE NEXT』(以下レールガン)のサウンド開発だった。

「もちろん嬉しかったです。ずっとやりたかった仕事でしたから。でも同時に、『本当に自分にできるのか』と。そんな不安や期待……プラスとマイナスの感情が入り混じった状態でしたが、とにかく自分ができることは何でもしようと思って臨みました」

チームへ加わったとき、プロジェクトはすでに動き出していた。人気シリーズの最新作。プレッシャーもかかる開発現場の最前線に、西牧氏はいきなり身を投じることになる。

「参加した時には、『オリジナル楽曲を作ろう』という話がすでに進んでいる段階で、最初にラフの状態で聴かせてもらったのが研修中の出来事でした。そこからいろいろ要望は出させていただいたのですが……やはり新人の自分にとっては難しいことの連続でした」

『レールガン』は、長年にわたって多くのファンに愛されてきた人気シリーズ。 積み重ねてきた演出やサウンドへの期待も大きい。その最新作の一端を、新卒1年目が担う。本人にとって、それは想像もしていなかった挑戦だった――。

  • 『eとある科学の超電磁砲 PHASE NEXT』サウンド開発を担当した藤商事 演出開発課 西牧宏太氏 撮影:泉山美代子

    『eとある科学の超電磁砲 PHASE NEXT』サウンド開発を担当した藤商事 演出開発課 西牧宏太氏 撮影:泉山美代子

はじまりは「両親が連れて行ってくれたホール」

もともと開発を目指していたこともなければ、幼い頃からパチンコ業界に憧れていたわけでもない。すべての始まりは、高校卒業後、両親に連れられて初めて訪れたパチンコホールだった。

「もともと両親がパチンコ好きで、高校を卒業した頃に連れて行ってくれたのが最初でした。はじめは正直、『何が面白いんだろう』という感じだったんです。でも、何回か連れて行かれているうちに自分でも当たりを引いて、『あれ、これ面白いな』と思うようになり、そこからどんどんハマっていきました」

大学生活の中で、パチンコは少しずつ身近な存在になった。だが、その頃に「開発者になる未来」はまだ見えていない。

「まったく考えていませんでした。そもそも、将来に何になりたいのかも分かりませんでしたし、大学生の頃も就職はまだ先だと思っていました。音楽は昔から好きだったので、『音に関わる仕事ができたらいいな』という漠然としたイメージはありましたが、なかなか決まることもなく……」

ところが、ある恩師との出会いが西牧氏の人生を大きく動かす。

「工業大学だったのですが、そこにたまたま音楽心理学について研究されている先生がいて。その先生との出会いで音楽心理学に興味を持つようになって、4年生のときに所属していた研究室のその先生からの提案もあって、大学院に進みました」

「音が好き」という漠然とした思いは、やがて「音で人の感情を動かす」という興味へと変化していく。その探究心をさらに深めるため、西牧氏は大学院で研究に没頭することになる。

音で人の感情は動く――音楽心理学との出会い

大学院へ進学した西牧氏が研究テーマとして選んだのは、「音楽心理学」だった。この研究こそが、現在のサウンド開発につながる原点となっている。

「音楽を聴いた時に、人間の感情がどのように変化するのかを研究していて、実際に被験者の方に音を聴いてもらい、アンケート形式で数値化して分析していました。特に研究していたのは、楽曲のコード進行です。コード進行を変えることで、人間の心理がどのように変化するのかを研究していました」

音楽を聴くと、不思議と気持ちが高揚したり、切なくなったり、不安を覚えたりする。それはなぜなのか。その答えを探すことが、西牧氏の研究だった。

「音楽心理学を研究している人が少ないので、それだけでも面白かったですね。研究結果としては、『こういうコード進行を使うと、人はこういう感情になる』という一定の傾向を示すことができました。例えば、恐怖や不安感、不思議な感覚を与えるようなコード進行もあります。そういった意味では、一般の方にとってあまり馴染みのない知識かもしれません」

研究室では「音」のみならず、そこから生まれる「感情」と向き合い続けた。その視点は、大学院を卒業した今も変わらない。

「大学院の研究で音に関する知識を蓄え、パチンコのこともある程度わかるようになったので、『パチンコの音をつくってみたい』と思うようになりました。大学院での研究は、今も活かされていると思います。もちろん研究そのままというわけではありませんが、『人がどう感じるか』という視点は常に意識しています。どういう音なら気持ち良いのか。どういう音なら期待感が高まるのか。そういった部分は自然と考えています」

人がどう感じるか――大学院時代から追い続けてきたこのテーマは、研究室を飛び出し、パチンコ開発という新たなフィールドへと場所を移す。

「この音は、自分には作れない」一台の遊技機が変えた人生

就職活動を迎えた頃、すでに進みたい道は固まっていた。

「『パチンコの音を作りたい』と思うようになってからは、就職先として各メーカーを考えるようになりました。決め手になったのが、藤商事の『インデックス(Pとある魔術の禁書目録)』です。人生で一番打ち込んだ機種が『インデックス』でした。あの機種の音を初めて聞いた時に、『この音はどうやって作っているんだろう』と引き込まれ、『これは自分には作れないかもしれない』と思うくらいの衝撃を受けました。その体験があったので、自分の中では、ほぼ藤商事に決まっていました」

どうすれば、こんな音を作れるのか。なぜ、これほど人の感情を動かせるのか。その答えを知りたいという思いが、西牧氏を突き動かす。気づけば、パチンコの楽しみ方も少しずつ変わっていた。

「大学院に入ってからは特にそうだったのですが、最後の方はもう、パチンコを打ちながら音ばかり聴いていました」

機種から発せられるあらゆる“音”に耳を澄ませながら、「なぜ、この音なのか」を考える。それはユーザーとして遊技を楽しみながらも、未来の開発者として音を学ぶ時間でもあった。そして、憧れだった藤商事へ入社すると、そこには新たな刺激が待っていた。

「社内には音楽経験者が多いです。バンド経験者も多いですし、前職でレコーディングスタジオにいた方などもいます。私は音楽心理学という少し変わった経歴だったので、ギターの音色やレコーディング技術など、自分にとっては知らない知識をたくさん持っている方ばかりでした。今でも日々、勉強させてもらっています」

多くの先輩たちから学びながら、開発者としての人生を歩み始めた矢先、一つの大きな挑戦が舞い込む。

サウンドにしかできない仕事「気持ち良さを増幅させる」

研修期間を終え、『レールガン』の開発チームへ加わった西牧氏。演出開発課の仕事は、音を作るだけではない。映像に合わせてサウンドを組み立てながら、ランプや役物の動きまでを、一つの演出として完成させていく。

「私が所属している部署(演出開発課)では、音だけではなく、ランプや役物の動作まで担当しています。まず企画課から映像が上がってきます。その映像に対して音をつけていき、その後、協力会社さんに実際の遊技機へ組み込んでもらいます。そして完成したものを自分で打ちながら、音はどう聞こえるか、光り方に違和感はないか、動きは自然かといった部分を確認していきます。基本的にはその繰り返しです」

一日の始まりは、部署全員で進捗を共有するミーティングから始まる。担当機種は決まっていても、一人だけで完結する仕事ではない。

「『今日はこの演出の音をつける』『この部分を確認する』といった内容を共有して、自分がやるべきことを整理し、その後は担当作業に入ります。ただ、担当機種が決まっていても完全に一人で進めるわけではありません。忙しい機種があればみんなでフォローしますし、それぞれ得意分野が違うので、補い合いながら進めています」

「みんなでフォローします」という言葉のとおり、チームワークのなかで、自身も幾度となく助けられてきた。

「私は効果音を作ることが比較的多いです。一方で、スタジオ出身の方はボイス加工が非常に得意です。収録した音声をそのまま入れると、ホール環境では聞き取りづらいこともありますので、聞き取りやすくする、こもりをなくす、適切な音質にするといった加工を行います。そういった部分は本当に勉強させてもらっています」

入社当初は苦労の連続だった。大学院で音について学んできたとはいえ、当然、開発現場は未知の領域だった。

「やはり最初は何も分かりませんでした。音の知識はありましたが、遊技機開発の知識はありません。迷惑をかけたくないと思って一人で抱えてしまい、結果的に他部署の方を振り回してしまったことも……。今思えば、もっと早く相談すれば良かったと思います。皆さん本当に優しい方ばかりなので」

苦労したのは、サウンドだけではない。ほかにもゼロからの挑戦が西牧氏に立ちはだかる。

「ランプの開発は正直、一番苦労したかもしれません。ユーザーとしてパチンコを打っていた時も、ランプをそこまで意識して見ていなかったんです。それが突然、『ランプもやってみよう』となったので、本当にゼロからのスタートでした」

音も光も目立てばいいというものではない。遊技中に違和感なく溶け込みながら、演出を最大限に引き立てる。その絶妙なバランスが求められる。

「音や演出にあわせて光らせたり、当たったときは虹色にしたり。まず、違和感がないことが前提条件です。光らなければ違和感がありますし、逆に光りすぎても違和感がある。例えば、まぶしすぎる、点滅しすぎる、目が疲れるということもあります。そのバランスを探るのは、とても難しい作業です」

そうした試行錯誤を重ねる中で実感したのが、サウンドという仕事の役割だった。

「SE、ボイス、BGMなど音周り全般の担当になるのですが、サウンドは一言で言うと、『気持ち良さを増幅させるもの』だと思っています。例えば、大当たりが確定した瞬間。映像だけでも嬉しいですし、出玉が出るだけでも興奮すると思います。でも、そこに強い音が加わることで、感情がさらに大きくなる。それは音にしかできない効果だと思っています」

学生時代、研究室で追い続けていた「人は音によってどのように感情を動かされるのか」――開発者となった今も、西牧氏はその問と向き合い続けている。