今や誰もが知る「世界遺産」。世界的に有名な建造物や観光地も多く、私たちにとって馴染み深い存在となりました。今年は、奈良県明日香村にある「石舞台古墳」や「高松塚古墳」などの遺跡が「飛鳥・藤原の宮都」として、7月末に韓国で開催される世界遺産委員会で登録に向けた審議を受ける予定です。これから世界遺産にまつわるニュースを目にする機会も増えてくるでしょう。
ところでみなさんは、世界遺産がどのように誕生するのか、そのしくみをご存知でしょうか。
世界遺産の本当の面白さは、その価値や、それが認められた過程を知ってこそ見えてきます。背景を知ることで世界遺産のニュースの見え方も変わってくるはずです。ここでは、『世界遺産はどう決まる? 今こそ知りたい世界遺産のしくみ!』(マイナビ出版)から内容の一部を抜粋して、意外と知らない世界遺産の登録の流れをご紹介しましょう。
単純ではない世界遺産の分類
まず、世界遺産には人類が歴史の中でつくり上げてきた「文化遺産」と、地球の歴史や生態系を示す「自然遺産」、その両方の価値をもつ「複合遺産」の3つの分類があります。
一見わかりやすい区分ですが、必ずしもそうとは限りません。例えば、日本を代表する山である富士山は、世界遺産としては自然遺産ではなく文化遺産として登録されています。
また、ローマやパリの街、自由の女神像など、世界遺産には世界的に有名な観光地も登録されていますが、知名度の高さは世界遺産の条件ではありません。伊勢神宮のように2,000年もの歴史と伝統があっても、世界遺産に登録されるわけではありません。
世界遺産になるにはさまざまな理由や考え方などがあり、それに基づいて各国から推薦された遺産が、世界遺産委員会で審議されて世界遺産に登録されます。
世界遺産登録の決め手とは?
では、何が世界遺産登録の決め手になるのでしょうか。
世界遺産登録の可否を決めるうえで重要なポイントのひとつは、その遺産が世界遺産としての価値をもつかどうかです。世界遺産の文脈では、その価値を「顕著な普遍的価値」(Outstanding Universal Value、OUV)と言います。
OUVは非常に重要な概念でありながら、その内容が細かく明確に定義されているわけではなく、時代とともに変化してきました。
これまで世界遺産には、ヨーロッパ地域を中心に有名な建造物や遺跡が多く登録されてきましたが、近年は先史時代の遺跡や近現代建築、先住民族とかかわりの深い遺産など、より多様な対象が含まれるようになっています。これは、世界遺産リストの不均衡を是正するための取り組みの一環です。また、世界遺産委員会の構成も変化し、ヨーロッパ以外の地域の国々の比重が高まっています。
このように、世界遺産の価値の捉え方は、時代とともに変化し続けています。
世界遺産の登録までの流れ
それでは、世界遺産はどのように誕生していくのでしょうか。
世界遺産への登録を目指す遺産は、まずは国内の暫定リストに記載される必要があります。どんなものでも掲載できるわけではなく、世界遺産としての価値が認められる可能性がある遺産に限られます。
その後、世界遺産委員会の諮問機関による事前評価を受け、結果を踏まえて推薦書が提出されます。さらに現地調査や評価を経て、登録に値するかどうかの勧告が示され、最終的に夏頃に行われる世界遺産委員会で審議されます。
一連のプロセスには、最短でも4年以上がかかります。暫定リストへの記載から数えると、それ以上の年月を要します。こうした長い準備期間の中で、国や自治体、専門家、市民など多くの人々の努力が重なり、ようやく世界遺産登録へと至ります。
「どう決まるか」を理解することの意味
ニュースで世界遺産の「登録」や「見送り」という結果だけを見ると、世界遺産は単純な合否判定のように感じられるかもしれません。しかし実際には、国や自治体、市民、専門家が一丸となり、全人類や地球規模の視点で価値を提示し、保全・保護体制を万全に整え、数百ページに及ぶ推薦書を作成するなど、数年から数十年にわたる取り組みが積み重なっています。
世界遺産は登録される瞬間がもっとも注目を集めます。もちろん登録の可否に注目するのも楽しみ方のひとつです。しかし、世界遺産活動の全体から考えると、登録は長い保護活動の一過程にすぎません。
現在審議が進められている「飛鳥・藤原の宮都」も、まさにその過程の中にあります。勧告内容と結果に注目が集まりがちですが、その背景には長年の調査や努力があります。
世界遺産誕生の裏側に目を向け、どのような手順や考え方で登録されたのか、どこに世界遺産としての価値があるのかなどを知ることで、今回の審議も違った意味をもって見えてくるはずです。
書誌情報
- 書名:世界遺産はどう決まる? 今こそ知りたい世界遺産のしくみ!
- 著者:宮澤光(NPO法人 世界遺産アカデミー主任研究員)、宮脇佳子(NPO法人 世界遺産アカデミー研究員)
- 監修:NPO法人 世界遺産アカデミー/世界遺産検定事務局
- 発行:株式会社マイナビ出版
- 価格:書籍版2,420円(税込)、電子版2,420円(税込)
- 判型・ページ数:B6判/208ページ
- ISBN:978-4-8399-9070-1
- 発売日:2026年6月16日
- Amazon販売ページ/マイナビブックス書籍情報ページ



