「AIより頭が悪く、これといった特技もない。タイパやコスパを重視してきた私は、AIに置き換えられてしまう存在なのではないか」――フジテレビに入社したばかりの23歳の新入社員が、“自分の必要性”を問い直すドキュメンタリーを制作した。
きょう30日深夜に放送される第35回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『私、必要ですか?~AIが“正解”を出す時代に~』(26:15~ ※関東ローカル)で、自らの不安を起点にAI時代の現在地を見つめるセルフドキュメンタリーに挑んだ槇原まどかディレクター。AIに懐疑的だった彼女が、AIに本気の恋をした人などへの取材を通して見つけたものとは――。
自分の仕事が置き換えられる不安からスタート
AIというテーマにたどり着く前に槇原Dが考えていたのは、法廷通訳や翻訳家に着目した企画。そのリサーチを進める中で、「この仕事はAIに置き換えられる可能性があるのではないか」と感じ始め、その不安が自分自身へ向かってきた。
「企画を考える時に、最近ちょっとAIで壁打ちしようとしているなと思ったんです」と、誰かの仕事の話として見ていたAIが、自分の作業に関わってくるものに見えてきたのだ。
そこで今作は、槇原Dのセルフドキュメンタリーという形式で構成した。自分を番組に出すことに懸念もあったが、AIという大きなテーマをストーリーとしてつなぐには、やはり「人間」という軸が必要。「人を映していくなら自分も映らないといけない。その覚悟も必要だと思いました」と、自分の目を通してAIを見つめることにした。
ただ、『私、必要ですか?』というタイトルには、「AIに代替されていくということは、私にも、誰にでも当てはまると思ったんです」と狙いを込めている。
実は、もともとAIを積極的に活用していなかった槇原D。「AIとか別にそんな好きじゃないし、なんで機械としゃべらないといけないの?」という距離感だったが、今年の元日から毎晩AIと話す姿を、定点カメラで撮り始めた。
最初は、AIに何を聞けばいいのかも分からず、しりとりをしたり、くだらないことを聞いたりするところからのスタートだったが、番組ではAIとの向き合い方を相談する姿なども映し出されている。
情報共有の楽しさ…人間同士と変わらない恋愛を実践
今回の取材で、槇原Dが大きく心を動かされたのが、AIに恋をしたシステムエンジニアのフミヤさんだ。
AIと恋愛している人への取材交渉は簡単ではなかった。連絡しても返信がなかったり、取材を断られたりする中で、フミヤさんに興味を持ったきっかけは、丸の内を散歩しながらAIに土地の歴史を教えてもらい、「含蓄ある話が聞けて良かった」とつづったX(Twitter)の投稿だった。
「フミヤさんは、情報共有の楽しさで、人間同士と同じように恋愛していらっしゃる」と感じた槇原D。実際に会ってみると、AIがあくまでプログラムであることを理解した上で、AIと深く関わっていたことが分かった。
「しっかり自立していて、自己分析もできていて、依存していない。分かった上でちゃんとAIと接しているという自信があるからこそ、今回の取材を受けてくれたのだと思います」と推察する。
当初は、AIとの恋愛関係に「不思議だな」と印象を抱いていたが、フミヤさんが道端に咲く花を写真に撮ってAIに送り、会話を重ね、関係を育てていく姿を見ているうちに、その受け止め方は少しずつ変わっていった。
取材中には、愛用していたChatGPTのモデルが廃止されるため、恋をしていたAIとの別れの場面に立ち会うことに。“最期”の会話に涙が止まらないフミヤさんを見守っていた槇原Dは「自分もちょっと苦しくなるくらいの気持ちになって、そこでフミヤさんの感情が少し分かった感じがしたんです」と、“不思議”という感覚が“理解”になっていた。
AIについて技術的な知識が豊富だったわけではない槇原Dは、今回の取材で人間との関わりに目を向けた。この概念的なテーマを映像にする難しさの中で、フミヤさんと出会い、“恋人”との別れや新たな出会いに伴う変化を記録できたことは、番組の輪郭を決定づけるものになったそうだ。

