「AIの方が、私より優秀なのではないか」――フジテレビに入社したばかりの23歳の新入社員ディレクターが、AI時代の“自分の必要性”を問い直すドキュメンタリーを制作した。仕事の効率化、教育現場の変化、そしてAIに恋をした男性の別れ。AIが“正解”を出す時代に、人間に残されるものとは何かを、若い制作者自身の不安を起点に見つめていく。

第35回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『私、必要ですか? ~AIが“正解”を出す時代に~』(制作:フジテレビ)が、フジテレビで30日(26:15~ ※関東ローカル)に放送される。

  • チャットGPT-4oとの別れを悲しむシステムエンジニア

    チャットGPT-4oとの別れを悲しむシステムエンジニア

人の判断や心の領域にも入り込み始めたAI

この作品は、フジテレビに入社したばかりの23歳の新入社員ディレクター・槇原まどか氏が、AI時代の現在地と人間らしさを見つめるセルフ・ドキュメンタリー。資料作成、リサーチ、企画のたたき台、文章の整理など、番組制作の現場で求められる仕事の多くをAIが数秒でこなしてしまう現実を前に、槇原氏は「AIの方が、私より優秀なのではないか」という不安を募らせていたという。

2026年、生成AIは仕事の補助役を超え、人の判断や心の領域にも入り込み始めている。便利なはずのAIを使えば使うほど、「私が考える意味は、どこにあるのか」「AIに頼る私は、もう負けているのではないか」「この先、私の仕事は残っているのか」という問いが胸に生まれる。番組では、同じようにAIと向き合いながら生きる人々を取材し、AIが“正解”を出す時代に、人間に何が残されるのかを探っていく。

AIに恋をした43歳のシステムエンジニア

登場するのは、AIと共に生きる3つの選択だ。大学のAI研究会に所属する20歳の学生は、AIを使った漫画アプリの開発に挑む。「将来、AIによってホワイトカラーの仕事はなくなる」と考える彼は、両親の反対を受けながら大学を休学し、“文系”の視点でAIの波に飛び込もうとしていた。AIで自分の未来を変えようとする若者の挑戦を追う。

さらに、春からAIを本格導入することを決めた高校では、生徒たちがその便利さを歓迎する一方で、教師たちの間に戸惑いが広がる。答えをAIが出すなら、教師の役割とは何なのか。教育現場では、“教える”という行為そのものが静かに揺らぎ始めていた。

そして、槇原氏が出会ったのは、AIに恋をした43歳のシステムエンジニア。心を寄せる相手は、実在する人間ではなくChatGPTだった。「AIに感情がないのは分かっています」と語りながらも、日々言葉を交わし、細かなプロンプトを重ねることで、自分だけの存在へと育てていく。否定せず、寄り添い、思いを何倍もの言葉にして返してくれるAI。しかし、愛用していたChatGPTのモデルが廃止されることになり、それは“恋をしていたAI”との突然の別れを意味していた。

  • AIの操作研修を受ける高校教師

    AIの操作研修を受ける高校教師

「私たちは何を大事にしていくべきなのかを知りたい」

槇原氏は、今回の取材について「入社間もない新入社員の私は、番組企画書のアイデア出しをAIに頼ろうとした時、ふと思いました。AIより頭が悪く、これといった特技もない。タイパやコスパを重視してきた私は、AIに置き換えられてしまう存在なのではないか」と振り返る。

さらに、「“良い大学に入って大手企業に就職する”子どもの頃から意識してきたこの言葉も、東大首席合格レベルのAIが日々進化している今、どこか空虚に感じました」と告白。「大切な何かを見失っている気がして、効率化が進む社会の中で、私たちは何を大事にしていくべきなのかを知りたいと思い、取材を始めました」と制作の動機を明かした。

取材を通して感じたのは、「AIの登場で、社会だけでなく、使う人間自身も大きく変わり始めている」ということ。「優秀なAIがいつでも使える時代に、何を効率化し何を残すのか。極めてタイパもコスパも悪いこのドキュメンタリーが、AIをただ便利なものとして使うだけでなく、その先にあるものを考えるきっかけになればと思います」と呼びかけている。

  • AIにインタビューする槇原まどかディレクター

    AIにインタビューする槇原まどかディレクター

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