西武鉄道の新造・改造車両に関する話題が続いている。2022年に「サステナ車両」として他社の中古車両を譲受する方針を発表し、鉄道ファンらを驚かせた。小田急電鉄8000形を改造した8000系に続き、東急電鉄9000系を改造した7000系が6月から運行開始を予定している。
最近は新造の「L00系(れおけい)」「トキイロ」「vieS」や、大河原邦男氏がデザインを手がける「新宿線の新たな観光特急」など相次いで発表している。「サステナ車両」で新車コストを節約し、新たな事業に思い切って投資する。お金の使い方が上手な会社だと感じる。
新宿線「赤い観光特急」ガンダムデザインに生まれ変わる!?
4月21日、新宿線に新たな「観光特急」を導入することが発表された。既存車両の改造で、種車は「ニューレッドアロー」の愛称を持つ特急車両10000系。最後に製造された5次車(2003年製造)は10000系で唯一、IGBT素子によるVVVFインバータ制御を採用している。「サステナ車両」導入の理由となった抵抗制御車両廃止の方針とも合致する。
10000系「ニューレッドアロー」は、5000系「レッドアロー」の後継車両として1993年に登場。新宿線および池袋線・西武秩父線の有料特急列車として活躍し、西武鉄道の象徴たる車両だった。その後、後継の001系「ラビュー」が登場し、10000系は2020年に池袋線・西武秩父線での運行を終了。現在は新宿線の特急「小江戸」や臨時列車などに充当されている。
西武鉄道は2027年春、新宿線に新車両「トキイロ」を導入予定。これで10000系をすべて置き換えるとみられていたが、実際には1編成を残して改造し、「赤い観光特急」を導入することとなった。半個室やソファを備えた特別室もあり、バーカウンターで軽食等を提供する。
「ラビュー」が導入された頃から、西武鉄道に対して「池袋線優遇、新宿線不遇」といった印象を持たれる傾向があり、株主総会でも指摘された。新宿線に導入する新車両「トキイロ」は通勤車両40000系の派生形式とみられ、車種としては通勤ライナーといえる。「新車はうれしいけれど、ラビューより格下かもしれない」と筆者も気になった。
そこへ「赤い観光特急」のニュースである。新宿線に新たなフラッグシップが登場する。しかもデザイナーは、アニメ『機動戦士ガンダム』のメカニックデザイナーとして知られる大河原邦男氏。こんなにうれしいことはない。
西武鉄道はアニメを活用して沿線の魅力を発信している。沿線に手塚治虫氏ら多くの漫画家が若き日を過ごした「トキワ荘」があり、東映大泉スタジオなどのアニメ制作会社もある。漫画・アニメのクリエイターも住んでいる。西武鉄道沿線を舞台とした漫画・アニメも多い。非公式だが『めぞん一刻』は東久留米駅付近をモチーフとしている説がある。『ケロロ軍曹』の舞台も西東京市がモデルといわれる。秩父周辺を題材とした作品も多い。
中でも象徴的な場所のひとつが新宿線の上井草駅。駅前にガンダムのブロンズ像「大地から」が立つ。ここにはかつて『機動戦士ガンダム』などの制作を手がけた「サンライズ」の本社があった。その縁で、上井草は「ガンダムのまち」として知られ、地域活性化の象徴としてガンダム像がつくられた。上井草駅の発車メロディは「翔べ! ガンダム」だし、商店街のシャッターなどにもガンダムのキャラクターが描かれている。こうした縁で西武鉄道とガンダム、大河原邦男氏がつながったと考えられる。
西武鉄道に大河原邦男氏を起用した理由を聞いたところ、「大河原氏とこれまでに直接的な事業でのつながりはございませんでしたが、今回、新宿線観光特急のプロジェクトを立ち上げるにあたり、当社から大河原氏へデザイン監修のオファーをさせていただきました。進化し続ける新宿線の新たなシンボルとして、洗練された機能美の中に『温かみ』や『親しみやすさ』を感じさせる車両にしたいと考えた際、大河原氏のデザインの力がふさわしいと考え、監修を依頼いたしました」との回答だった。
「新宿線の新たな観光特急」を発表した際、大河原邦男氏のコメントも公開された。「1972年タツノコプロの科学忍者隊『ガッチャマン』でメカデザインの仕事に巡り合い半世紀以上が経ちました。アニメ作品では列車を含め多くのメカをデザインしてきました。列車が変形してロボットになると言ったデザインを多く経験してきましたが、実際の鉄道のプロジェクトに関わるチャンスを頂けたことに感謝をするとともに責任を感じています。多くの皆様に楽しんで頂けるような列車にする為最大の努力で臨みたいと思います」とのこと。大河原氏が手がけた「列車が変形してロボットになるメカ」は『勇者特急マイトガイン』である。
じつは、今回の発表前から大河原氏は鉄道デザインをにおわせていた。2025年9月28日、東京都稲城市が開催した「装甲騎兵ボトムズ スコープドッグ モニュメント設置5周年記念イベント」のトークショーで、「私はこの頃、本物の宇宙ステーションとか、電車のリニューアルとか、宇宙滞在型のハロみたいなロボットとか、絵本、釣りの道具デザインとか、面白そうなのはなんでも食いついちゃう」と語っていた。筆者はこのとき以来、「電車のリニューアル」について続報を待っていた。「赤い観光特急」がまさにそれだろう。
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さらりと「電車のリニューアル」を手がけていると明かした大河原氏。左上の絵は稲城市のイメージキャラクター「稲城なしのすけ(いなぎなしのすけ)」。大河原氏と井上ジェット氏の作品(2025年9月、筆者撮影)
近年のアニメ業界は、テーマ曲に鈴木雅之氏や桑田圭祐氏を起用し、そのたびに「アニソン界の大型新人登場」と話題になっている。それになぞらえて言えば、大河原邦男氏も「鉄道デザイン界の大型新人」である。大河原氏直筆による「赤い観光特急」のイラストは、10000系を赤く塗り、前面にモビルスーツのパーツ分けのような黒いラインが入る。運行開始は2028年度を予定しているとのこと。全体像と実車の公開が待ち遠しい。
Fine Dining Train「vieS」 - レストラン列車が新造車両に
3月26日、池袋線の新型レストラン列車の名称が「Fine Dining Train『vieS』」(ファインダイニング・トレイン「ヴィエス」)に決まり、ロゴデザインも公開された。列車名の「vie」はフランス語で「命」「人生」を意味し、「乗客ひとりひとりの人生を豊かにしたい」との思いを込め、複数形の「vieS」とした。ロゴは「S」の文字を右から左へ伸ばし、目で追うと「Seiv」(セイブ)となる。ロゴは西武鉄道が利用者を乗せて走る様子にも見える。
新型レストラン列車の導入は2025年10月に発表された。現在運行中の「西武 旅するレストラン 52席の至福」に代わり、2028年3月から運行開始を予定している。「ラビュー」をベースとした4両編成の車両を新造し、3号車は1両全室を厨房として温かい料理を提供する。1・2・4号車は客室とし、定員は70名程度。2人用・4人用のテーブル席を用意するほか、1号車に展望個室を設け、8席程度のダイニングテーブルセットを用意するという。「ラビュー」と同じく妹島和世建築設計事務所が内外装のデザインを担当する。
「52席の至福」は1号車を多目的車両(ホール)、3号車をキッチンカーとして使用し、2・4号車にテーブル席(2席または4席)を用意していた。1号車にダイニングテーブルをセットし、8名まで個室として利用できる「1号車 車両貸切プラン」も販売している。この需要が手堅いと見て、「vieS」の1号車を展望個室としたようだ。定員は70人程度とされ、「52席の至福」の定員54人から増加している。
現行の「52席の至福」は、池袋線・西武秩父線と新宿線で土日を中心に年間100日以上も運行している。「vieS」も同様の運行になるだろう。料理担当は全国で102店舗のレストラン・カフェ・ホテルを展開するバルニバービ社。「52席の至福」は四季に合わせて3カ月単位で料理監修者を代えている。シェフに店舗を貸すスタイルだったが、一方の「vieS」はバルニバービグループの1店舗、つまり1軒のレストランとして色づけしていくことになる。バルニバービ社は全国の系列店舗から美味を集めてくるに違いない。
観光列車は2011年頃から急速に増加した。「52の至福」が誕生した2016年、他にも「えちごトキめきリゾート雪月花」(えちごトキめき鉄道)、「ながまれ海峡号」(道南いさりび鉄道)、「青の交響曲(シンフォニー)」(近畿日本鉄道)」などが登場している。ほとんどの観光列車は、初期投資を抑えるために中古車両を改造して導入される。だが中古車両ゆえに、改造後の寿命は短い。人気のある観光列車は2代目車両を投入してリニューアルされるが、成績の思わしくない観光列車は消えていく。「vieS」は「52席の至福」を受け継ぐ列車として、改造中古車両ではなく新造車両が与えられた。観光列車における成功事例のひとつといえそうだ。
山口線「レオライナー」新型車両は「L00系(れおけい)」
西武山口線は多摩湖~西武球場前間を結ぶ新交通システムの路線で、「レオライナー」の愛称を持つ。今年3月にデビューした新型車両は、レオライナーにちなみ「L00系」と書いて「れおけい」と読む。先代の8500系は1985年に登場し、40年が経過したことから、新型車両の導入に至った。8500系とL00系を比較すると、車体は普通鋼製からアルミニウム合金製に変わり、編成全体で約1.7トンの軽量化を達成している。
L00系は8500系と比べて1両あたりの車体長を100mm伸ばし、全幅を約500mm小さくしたため、スリムな印象を受ける。車内はクロスシート主体からロングシート主体に変更し、車両定員は減ったものの、立席スペースの拡大などにより、最大乗車人員が40人増加した。
営業最高速度も50km/hから60km/hに引き上げられたが、山口線で運行する3編成のうち1編成だけ置き換えても、全車両の足並みがそろわず、運行本数を増やせない。全車両を置き換え、L00系に統一した段階でダイヤ改正を行い、スピードアップを図るだろう。最大乗車人員を増やし、増発も行えば輸送力は大きくなる。
8500系もL00系も、外観は真四角で箱のような印象。新交通システムらしく実用的な車両といえる。レジャー施設を結ぶ路線にしては遊び心が足りないと感じたが、そこは車体のラッピングデザインで補うようだ。第1編成は埼玉西武ライオンズをテーマとし、側面に大きなレオマークが入った。第2編成は西武ゆうえんちをテーマとし、夜空の花火やイルミネーションを描くという。車体デザインの変化は楽しいだけでなく、車内に忘れ物をした際に編成を特定しやすくなるなど実用的な効果もある。第3編成についての発表も楽しみに待ちたい。
新車両「トキイロ」で新宿線の有料サービスを刷新
新宿線の新車両「トキイロ」は、10000系「ニューレッドアロー」の後継車両として導入予定。イメージ画像を見た限りでは、「S-TRAIN」「拝島ライナー」で使用している通勤車両40000系(デュアルシートを装備した0番代)の派生車種とみられる。
ただし、座席はかなりグレードアップしており、リクライニングシートのヘッドレスト左右を高くして目線を仕切る形状となった。各座席にコンセントを装備し、Wi-Fiも利用できる。一方で車内に吊り手があり、4扉車であることから、デュアルシートをロングシートに転換しての普通運用も可能と考えられる。
「トキイロ」の運行区間や停車駅は未定とのこと。特急「小江戸」に変わる列車として、西武新宿~本川越間の運行はあると思われるが、停車駅は増えるかもしれない。40000系の派生車種として前面の非常扉が残るようで、東京メトロ東西線への直通構想が実現した場合を視野に入れている可能性も考えられる。「拝島ライナー」に「トキイロ」が充当されればサービス向上になるはずだが、いまのところ「拝島ライナー」への運用は言及されていない。
なお、「S-TRAIN」「拝島ライナー」は10両編成だが、「トキイロ」は8両編成とのこと。7両編成の10000系(抵抗制御車)と比べて、アルミ車体による軽量化に加え、消費電力を約70%削減するなど、環境負荷の軽減を図る。10000系の特急「小江戸」を「トキイロ」に置き換えることはサービスダウンと受け止められてしまいそうだが、現行の「小江戸」が観光利用より通勤利用が多く、日中時間帯も普段使いの利用者が中心だとすれば、この施策は納得が行く。「小江戸」の観光需要として、前出の「赤い観光特急」が用意されていた。
これらの施策を合わせると、新宿線の有料列車は「赤い観光特急」と「トキイロ」、「拝島ライナー」の3本立てとなり、利用者の選択肢が増える。10000系改造の「赤い観光特急」が何年走り続けるか、その後の後継車両が新製されるかは気になるところだが、東京メトロ東西線への直通構想も含め、これからの新宿線はもっと楽しく便利になりそうだ。
東急電鉄から譲受「サステナ車両」7000系、まず狭山線に導入
東急電鉄から9000系を譲り受け、西武鉄道の「サステナ車両」として改造された7000系が間もなくデビューする。車体から赤色(東急電鉄のコーポレートカラー)を取り去り、西武鉄道をイメージさせるブルーとグリーンの市松模様でデザインした。6月27日から狭山線で運行開始するほか、多摩川線、多摩湖線、西武秩父線でも投入を予定している。ワンマン運転を実施するため、車端部にカメラを設置。JR東日本が開発した車載ホームモニタシステムと画像認識AIにより、人物の車両接近を検知するシステムを搭載している。
西武鉄道はCO2削減目標を達成するため、抵抗制御車両をVVVFインバータ制御車両に置き換え、消費電力を減らす方針としている。大量に残っていた抵抗制御車両を置き換える手段が「サステナ車両」だった。車両を新造すれば費用が膨大になるし、製造時のCO2排出も無視できない。そこで、小田急電鉄や東急電鉄から引退するVVVFインバータ制御車両を譲り受けた。小田急電鉄8000形を改造した8000系は2025年5月から国分寺線で運行している。
ところで、筆者は「サステナ車両」が発表された当時、「車両繰りの隙間を埋める施策だ」と感じていた。大手私鉄は通常、基幹路線のサービス向上やスピードアップのために新型車両を投入し、基幹路線から引退した車両を支線に投入する。だが西武鉄道の場合、基幹路線も支線も抵抗制御車が多い。新型車両を投入しても基幹路線の車両置換えにとどまり、支線に降ろす車両がなかった。そこで新型車両が旧型となって支線に降りるまで、暫定的な補完策として「サステナ車両」を導入したのではないかと考えた。
しかし、今回紹介した「赤い観光特急」や「vieS」「トキイロ」などの動きを見ると、車両繰りだけでなく、コスト配分も大きいと思う。西武鉄道としては、池袋線や新宿線を走る有料列車のレベルを上げたい。その上で、各路線に残る抵抗制御車も一掃したい。レオライナーは特殊で車両を新造する以外の方法がなかったものの、他の路線において限られた予算内ですべてを満たす方法として、「サステナ車両」のアイデアが生まれたかもしれない。
ここで西武鉄道が2016年に発表したコーポレートメッセージ「あれも、これも、かなう。西武鉄道」が生きてくる。このメッセージを伏線として、実現に向けた一手段として「サステナ車両」が生まれた。そして最近の車両動向が伏線回収と言えそうだ。





