第43話「裏切りの恋歌」では1793(寛政5)年の様子が描かれた。
蔦重は吉原にかつての活気を取り戻すため、喜多川歌麿とともに奔走を続けてきたが、耕書堂へやってきた長兵衛(三浦りょう太 ※りょう=けものへんに寮のうかんむりなし)から歌麿が西村屋と仕事をすると聞かされる。歌麿を問いただす蔦重だが、きっぱりと拒絶され決別することに。さらに追い打ちをかけるように、ていが予定日より早く産気づき母子ともに危険な状態となった。一方、幕府では松平定信が一橋治済・十一代将軍徳川家斉親子の罠にかかり、失脚することに。蔦重と定信にかつてない絶望が襲いかかる。
注目度トップ3以外の見どころとしては、根室にやってきたロシアの軍人・アダム・ラクスマンの対応に苦慮する老中たちのシーンが挙げられる。ラクスマンはロシア帝国の軍人であり、漂流民だった大黒屋光太夫の送還と通商交渉を目的とした日露初の外交使節。彼の来航は鎖国体制下の日本に大きな衝撃を与え、海防強化や外交意識の転換を促す契機となった。定信以外の老中たちはラクスマンの要求をのむことを提案するが、定信は警戒を緩めない。熟慮の末、信牌を使うことを思いついた。
信牌は第六代将軍・徳川家宣の侍講だった新井白石が1715(正徳5)年に定めた海舶互市新例に基づいて、清の船が長崎に入港する際に必要とされた通商許可証。この策は功を奏し幕府は難局を乗り切る。家斉からさらなる信任を得たと定信も手ごたえを感じていたが、事態は思わぬ方向に。大老に任じられると信じて疑わなかった定信は、家斉に老中首座と将軍補佐の解任のみを告げられ、ようやく罠にかかったことに気付いたが、すでに時は遅し。すべての根回しは終わっており、尾張藩第九代藩主・徳川宗睦(榎木孝明)が助け舟を出したものの大勢はくつがえることなく、定信は失脚してしまった。嘲笑の声が聞こえる中、屈辱に身を震わせながら定信は下城します。定信が老中を務めたのは6年間だった。
ちなみに定信が追い落とした田沼意次(渡辺謙)は、老中格だった時期も含めると1769(明和6)年から1786(天明6)年まで17年間老中を務めたので、定信はその半分にも満たない期間で権力の座から引きずり落とされたこととなる。
また、ついに決別した蔦重と喜多川歌麿のシーンも挙げられる。「蔦重とは終わりにします」という歌麿の言葉には、これまで秘めてきた蔦重へのさまざまな想いがこもっていた。女性の恋心を描いた絵を渡したのは、最後に蔦重が気付いてくれるのを期待したのだろうか。これらの絵は『歌撰恋之部(かせんこいのぶ)』という恋をテーマにした5枚ぞろいの錦絵が元ネタだと思われる。背景には紅雲母摺が施され、女性の表情や仕草を通して恋心の機微を描いている。本シリーズは歌麿の代表作の一つとされ、特に『物思恋(ものおもうこい)』はその中でも随一の名品と評価されている。結局、蔦重にとっての歌麿は、最後まで大事な義弟だった。蔦重は歌麿を見事に当代一の絵師に導いたが、歌麿の本当の願いをかなえることはできなかった。
1772(明和9)年の明和の大火で出会うシーンから2人の物語は始まったが、あれから21年の時が経ち、とうとう道を違える。
きょう16日に放送される第44話「空飛ぶ源内」では、耕書堂に重田貞一(井上芳雄)と名乗る男が本を書きたいと尋ねてくる。そして、貞一の持っていた相良凧から平賀源内(安田顕)が生きているかもしれないと考えた蔦重たちは、その消息を追い始める。また、吉原では喜多川歌麿が本屋たちを呼びつけ、派手に遊んでいた。


