JR貨物とT2は、6月23日に「モーダルコンビネーション」実証実験の報道公開を実施した。実証実験の第1弾として、6月20~24日に雪印メグミルクの常温品を札幌近郊から大阪市内へ輸送。中間地点となる隅田川駅で、貨物列車から自動運転トラックへ積替えが行われた。

  • JR貨物やT2など計5社による「モーダルコンビネーション」実証実験の第1弾を実施。JR貨物の隅田川駅で、貨物列車から自動運転トラックへ共用コンテナが積み替えられた

この取組みはJR貨物、T2、日本通運、全国通運、日本フレートライナーの計5社によるもので、自動運転トラックと貨物鉄道輸送を組み合わせた取組みは国内初とのこと。将来的にレベル4自動運転トラックを活用したモーダルコンビネーションの実現をめざす。

今回の実証実験は6月20~24日の行程で行われ、まず雪印メグミルクの北海道物流拠点から、同社の常温商品を日本通運が札幌貨物ターミナル駅へ輸送。札幌貨物ターミナル駅から隅田川駅まで貨物列車、高速道路およびIC前後の一般道はT2のレベル2自動運転トラックが担当した。最終的に自動運転トラックは百済貨物ターミナル駅に到着し、そこから雪印メグミルクの大阪府物流拠点へ日本通運が配達した。

中間地点となる隅田川駅では、新たに共同開発された31フィート共用コンテナを積み替える実演が行われた。このコンテナは、スワップボディトラックと貨物列車の両方に積載可能となっている。実演開始時点では、貨物列車のコンテナ貨車にJR貨物・T2共用コンテナが残っており、これを列車からT2のトラックに積み替える。最初にトップリフターがスプレッダー(コンテナを上から吊り下げる装置)の幅を調節しながら、コンテナのすぐ前に接近する。

そのままスプレッダーを下げ、ピンをコンテナの四隅に固定したのを確認。再びスプレッダーを上昇させ、コンテナが持ち上がった。続いて、コンテナを上げたままトップリフターが後退し、横で待機していたT2のトラックがコンテナの下に移動してくる。トップリフターは、位置を微調整しながらコンテナをトラックの荷台に降ろし、コンテナが無事積み替えられた。この後、報道公開当日の夕方頃にトラックは百済貨物ターミナルへ向けて出発したという。

  • JR貨物とT2が共同開発した31フィート共用コンテナ

  • トップリフターがコンテナのもとへ接近

  • 車体前面のスプレッダーを降ろし、位置を微調整しながらコンテナを固定する

  • 吊り下げられた状態のコンテナが持ち上がり、貨物列車の後ろに下がった後、コンテナの真下にT2のトラックが移動。貨物鉄道からトラックへコンテナを積み替えた

この日の報道公開では、共用コンテナ積替え実演に加え、JR貨物取締役兼常務執行役員の土井広治氏(鉄道ロジスティクス本部長)、T2代表取締役CEOの森本成城氏による解説も行われた。モーダルコンビネーションは異なる輸送手段の親和性を高め、お互いに補完し合う考え方および輸送モデルとされる。大量輸送に優れ、CO2削減にも有利な貨物鉄道と、軽量輸送ながら機敏性に長けるトラック輸送で連携を図る。

その背景には、昨今の社会課題であるCO2削減、物流業界の労働環境改善とドライバー不足、それらへの対策がある。貨物鉄道と自動運転トラックのモーダルコンビネーションが実用化すれば、複線化・BCP(事業継続計画)対策強化につながる。つまり、輸送力の強化に加え、片方が不通となった場合にもう片方の手段で物流を継続させることができる。このような新しい輸送モデルの構築と課題の抽出を目的に、実証実験を行っていくとのこと。

  • JR貨物鉄道ロジスティクス本部長の土井広治氏(写真左)と、T2代表取締役CEOの森本成城氏(同右)

T2は自社のレベル4自動運転技術を活用することで、世界最高水準である日本の物流を既存の業界関係者らとともに支えることをビジョンとして事業を行っている。2024年1月からJR貨物も資本参加しており、限定領域内を自動運転化することで、貨物と連携したモーダルコンビネーション推進に貢献できないかとの思いから、実証実験に至ったという。

今回の実証実験で行う自動運転はレベル2を適用する。レベル2自動運転は、ドライバーの乗務・監視の下、限定領域内で自動運転を行うとしており、緊急時はドライバーが対応する。将来的にめざしているレベル4は、限定領域内に限り、通常時・緊急時ともにシステムによる完全自動運転を行う。ここでいう限定領域とは、高速道路とその出入口付近に設けられる切替拠点までの区間。切替拠点から集約拠点までの間は手動運転となる。

T2は今後、7月からレベル2自動運転によるトラック輸送事業を東京・神戸間で開始し、2027年10月以降、レベル4へと移行。輸送エリアも中四国・九州へ順次拡大する予定としている。レベル4移行までの2年間で、ドライバー監視の下、将来的に無人となる10トントラックが安全に走行できるデータを出すことで、社会の受容性を高めつつ、運送会社としての足腰を鍛え、事業を洗練させていくという。トラック台数も、2025年7月時点では5台のみだが、順次拡大していき、2032年に保有台数2,000台規模を想定している。

今回開発された共用コンテナについての解説もあった。既存の鉄道用31フィートコンテナは梁の位置や荷重を支える位置が違うため、そのままだとT2のトラックに積載できない。そのため、両方に積載可能なコンテナを新たに開発した。31フィートは10トントラックと同じサイズで、ニーズも高いことから、このサイズで設定したとのこと。

それをスワップボディトラックに積載し、トラック輸送を行う。スワップボディトラックは、エアサスペンションで荷台の高さを上昇させ、コンテナの足を立ててから車高を戻すことで、特殊な機器を使わずにコンテナと車体を分離できる。T2トラックと貨物列車の両方にこのコンテナを載せられるため、積替え等の作業時間短縮が見込める。

  • JR貨物・T2共用コンテナ。黄緑色の足(全6本)を立て、プレートを噛ませることでコンテナを自立させ、車体から切り離せる

報道関係者から、鉄道だけでも輸送可能な北海道・関西間の貨物をあえて隅田川駅でトラックに積み替える意義について質問があった。これに対し、JR貨物の土井本部長は「複線化」を改めて説明。たとえば、東海道は物流においても人気が高く、輸送量が非常に多い分、災害等で貨物列車が運行できなくなった場合の影響も大きいという。そのような鉄道不通時に、自動運転トラックが代行手段になることをめざしているとのことだった。

「複線化」以外のメリットについて、土井本部長は「模索中」とした上で、「お客様のニーズは非常に多様で、JR貨物がそのすべてにお応えできてきたわけではない。いろいろなニーズに我々としてもお応えできるようなしくみは作っていきたい」とコメントした。

T2としての将来的なイメージについて、同社の森本代表は、「台数が少ないのでやれることは限られると思いますが、将来、ある程度の台数が増えてくると、BCPに使う車両や稼働・非稼働の車両をうまく使い回すなどできるのでは」「あとは、北海道から九州までどのエリアをやっていくのか。さまざまな要素を組み合わせていくと、柔軟かつ強靭な輸送モードを一緒に作っていけるのではないか」との考えを示した。

将来構想としても、複数の輸送モードを機動的に組み合わせて省人化し、BCPに強く、かつ環境にも優しい次世代の物流システム構築が想定されている。「モーダルコンビネーション」実証実験は、今後も荷主や輸送区間を変更しながら複数回実施し、課題を抽出して改善策を検討していくという。一般の鉄道利用者としても、貨物列車が走行している区間で、JR貨物・T2共用コンテナを見かける機会が増えるかもしれない。