3番目に注目されたシーンは20時41~42分で、注目度70.9%。恋川春町(岡山天音)のウザ絡みに、次郎兵衛(中村蒼)が屁をかますシーンだ。
駿河屋では蔦重が戯作者や絵師、狂歌師を集めて「うた麿大明神の会」を催していた。歌麿の名を売ると同時に狂歌師と親睦を深め、狂歌集を出す腹積もりだ。蔦重が挨拶回りをしていると、朋誠堂喜三二(尾美としのり)に呼び止められた。恋川春町の様子がおかしいという。喜三ニによると、北尾政演が春町の『辞闘戦新根』を下敷きに『御存商売物』を書き上げたことが不満のようだ。
酒が入り、今にも政演につかみかかりそうな勢いの春町を蔦重と喜三ニは必死になだめるが、間が悪いことに政演が耕書堂で錦絵を描くことが春町の耳に入った。さらに不機嫌になる春町に、よりによって政演が春町に狂歌を詠んでくれと絡んできた。蔦重と喜三ニはあわてて春町を帰そうとするが、酔った春町は政演や南畝、喜三ニをこきおろした狂歌を詠みながら暴れ出した。
皆が春町の勢いにあっけにとられていると、突然、気の抜けた屁の音が座敷に響いた。次郎兵衛だった。「す、すいません。しません。へへっ」次郎兵衛は悪びれる様子もなくそう言うと、途端に笑いが巻き起こる。南畝を先頭にみなで踊りながら屁を題材に狂歌を歌いあう。怒りをぶつける先を失った春町は矢立から筆を取り出すと、「恋川春町。これにて御免」と筆をへし折り、そのままその場を去ってしまった。
「めんどくさすぎるけど、そこが可愛い」
ここは、春町の豹変ぶりに視聴者の注目が集まったと考えられる。
鶴屋の指図で政演が執筆した『御存商売物』は南畝にも大きく評価され、大上上吉を獲得する。しかしそれは春町の『辞闘戦新根』のパクリだった。当時は著作権という概念は薄く、蔦重と喜三二は気にしていない様子だが、春町は不満に感じていたのだろう。さらに義理堅い性格の春町には、蔦屋に世話になりながら、鶴屋からも仕事をもらう政演が気に入らない。
SNSでは、「春町先生めんどくさすぎるけど、そこが可愛い」「真面目な春町先生にしてみりゃ、自作を盗用して成功したチャラ男とか許しがたいだろうな…」「春町先生、気持ちは分かるが思った以上にめんどくせえ!」と、春町の憎めないキャラクターにコメントが集まった。
新たな才能を発揮した政演だが、史実では『御存商売物』が刊行されるより2年前、1780(安永9)年に『娘敵討古郷錦』『米饅頭始』という2つの作品を、山東京伝戯作・北尾政演画で出版している。また、弟・相四郎は山東京山、妹・よねも黒鳶式部の名で活躍した作家だった。晩年には風俗考証にも熱心に取り組み、『近世奇跡考』などの随筆も残しています。
さらに、友人との飲食などの際に、当時の一般的であった代表者による一括払いではなく、全員で均等に費用を分担する割り勘を実践していたというエピソードがある。この支払い方法は「京伝勘定」と呼ばれた。割り勘の祖だ。
今回の騒動の種となった春町の『辞闘戦新根』は当時流行した言葉が擬人化して争うという非常にユニークな内容。一方、政演の『御存商売物』は黄表紙や青本、さらに黒本や赤本といった、さまざまな種類の本が擬人化され、恋愛するという内容。現在でも擬人化は創作で人気のジャンルだが、江戸時代にはすでに確立されていたとは驚きだ。