テレビ画面を注視していたかどうかが分かる視聴データを独自に取得・分析するREVISIOでは、16日に放送されたNHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(総合 毎週日曜20:00~ほか)の第7話「好機到来『籬の花』」の視聴者分析をまとめた。
内心では脅威を感じる喜右衛門
最も注目されたのは20時41~42分で、注目度74.9%。蔦重(横浜流星)が完成した『吉原細見・籬の花』のプレゼンを行うシーンだ。
「どうでしょう。俺の細見は、倍売れませんかね?」蔦重は自信ありげに鶴屋喜右衛門(風間俊介)に問いかけた。今日は細見を披露する約束の日だ。鶴屋には地本問屋の主人たちが集まっている。蔦重の『吉原細見・籬の花』は、随所に工夫が凝らされた会心の出来栄えであった。義兄・次郎兵衛(中村蒼)やつるべ蕎麦の店主・半次郎(六平直政)の協力のもと、細見をより良いものにするために入念な下調べを行い、小田新之助(井之脇海)の意見を取り入れ、不要な情報を削除して携帯性を増すため、従来より薄い作りに仕上げた。さらに、これまでの細見にはなかった河岸見世の情報まで掲載されている。蔦重の手で生まれ変わった細見を手にした喜右衛門は表情を硬くしている。
そしてもう一つ、蔦重の細見には切り札があった。花の井(小芝風花)が五代目瀬川を襲名したという情報が掲載されていることだ。この情報はつい昨日、幼なじみである花魁・花の井本人からもたらされたものである。当然、西村屋与八(西村まさ彦)と小泉忠五郎(芹澤興人)の細見には記されていない。吉原の身内である蔦重にしか入手できない最新の情報であった。
しかも、蔦重はこの細見を従来の48文ではなく24文で売るという。「売れるかもしれませんね」喜右衛門は内心では脅威を感じながらも、何とか平静を装ってそう答えた。岩戸屋源八(中井和哉)ら地本問屋たちは、こぞって蔦重の細見を求めると、その大量の注文を蔦重は勢いよくさばいていった。一躍、好評を博した蔦重の細見を横目で見ながら、「倍売れるかもしれませんが…」と、喜右衛門は一言つぶやいた。
「蔦重の才能を恐れている感じが伝わってくる」
注目された理由は、蔦重のスティーブ・ジョブスばりの名プレゼンテーションに、視聴者の視線が「くぎづけ」となったと考えられる。
蔦重はユーザーからヒアリングを行い、利便性の向上・情報の網羅・コストカットによる値下げを主な軸に、コストパフォーマンスに優れ、充実した細見を完成させるに至った。一方、蔦重の仲間入りを阻もうと、西村屋は細見作りに手を挙げ、金を積んで鱗形屋孫兵衛の妻・りんから細見の板木を買い取ろうとするなど裏工作に余念がない。そんな両者のプレゼン対決の結果は、当然のことながら蔦重に軍配が上がった。吉原と女郎たちのために奔走してきた蔦重が、既得権益を守りたいだけの喜右衛門・与八連合軍に見事に勝利を収めた瞬間、溜飲を下げた視聴者も多かったのではないだろうか。
SNSでは、「みんなが蔦重の才能を恐れている感じが伝わってくる」「鶴屋、笑顔なのに目が全然笑ってないのが怖いな」「既得権益を守りたい商人の性が伝わってきて本当に面白い」「やっぱり吉原を知り尽くした蔦重が作り直した細見と、改めただけの細見じゃ出来が違って当然だな」といったコメントで盛り上がりを見せた。
また、西村屋の買収に屈しなかった鱗形屋の妻子にも注目が集まっており、この時、一歩も引かなかった孫兵衛の次男・万次郎(野林万稔)に与八は感銘を受けたのだろうか。与八は万次郎をのちに養子に迎えている。
今回、与八と忠五郎の用意した細見は内容では蔦重に完敗したが、小川紙を使ったその装丁は絶賛されていた。小川紙は埼玉県比企郡小川町周辺で生産されている和紙。奈良時代から生産されており、1300年ほどの歴史がある。楮(こうぞ)のみを原料とした手すき和紙で、強靭さとつややかな光沢を合わせ持っている。1978(昭和53)年に国の重要無形文化財の指定を受け、2014(平成26)年にはユネスコ無形文化遺産に登録された。