1月が終わり、2025年の幕開けとなる冬ドラマがそろった。前代未聞の危機的状況に陥っているフジテレビ系の作品もここまでは通常通り放送されている。

主要作がそろったこのタイミングで「本当に質が高くて、今後期待できる作品」を唯一のドラマ解説者・木村隆志がピックアップ。俳優名や視聴率など「業界のしがらみを無視」したガチンコで、今回の第1弾は2025年冬ドラマ主要22作の傾向とおすすめ5作、次回の第2弾は目安の採点付き全作レビューを挙げていく。

2025年冬ドラマの主な傾向は、【[1]さらなる保守化の中、際立つ日曜劇場と金曜ドラマ】【[2]苦境のフジテレビに求められるものとは】の2つ。

傾向[1]さらなる保守化の中、際立つ日曜劇場と金曜ドラマ

  • 『御上先生』出演の松坂桃李

前期の2024年秋ドラマは16作中9作が刑事・医療・法律の定番3ジャンルが占めたことから“超安定路線”と書いたが、今冬もそれと同等以上の保守的なコンセプトの作品がズラリ。刑事事件を扱ったものを中心に、17作中10作が一話完結型の物語が放送されている。

刑事系の『秘密~THE TOP SECRET~』(カンテレ・フジ、月曜22時)、『アイシー ~瞬間記憶捜査・柊班~』(フジ、火曜21時)、『東京サラダボウル』(NHK総合、火曜22時)、『相棒』(テレ朝、水曜21時)。また、『問題物件』(フジ、水曜22時)と『相続探偵』(日テレ、土曜21時)も刑事事件を交えて一話完結型で描かれている。

さらに医療系の『まどか26歳、研修医やってます!』(TBS、火曜22時)、法律系の『法廷のドラゴン』(テレ東、金曜22時)と『アンサンブル』(日テレ、土曜22時)、救急・消防の『119エマージェンシーコール』(フジ、月曜21時)なども一話完結型のシンプルな構成で見やすさを最優先。2010年代から「視聴率獲得という点で失敗しづらい」と言われる戦略であり、一方で消極的なスタンスと見られることも多い。

実際、失敗しづらい戦略として採用されはじめたのは10年以上前の話であり、近年では視聴率が取れなくなり、ヒット作も生まれていない。さらに、他の作品よりも配信数やSNSでの反響は少なくなるため、業界内では「やめたほうがいいのはわかっているけど、編成や上層部の頭が古くやめられない」という声も聞こえてくる。

一方、今冬ドラマの序盤で評判がいいのは、一話完結とは真逆で連続性の高い日曜劇場の『御上先生』(TBS、日曜21時)と金曜ドラマの『クジャクのダンス、誰が見た?』(TBS、金曜22時)。前期を振り返ると、両ドラマ枠で放送された『海に眠るダイヤモンド』と『ライオンの隠れ家』も同様に連続性が高く、「昨秋の2大ヒット作」と称えられていた。

少なくとも現在の地上波ドラマシーンを引っ張っているのはTBSの日曜劇場と金曜ドラマであることは間違いないだろう。

傾向[2]苦境のフジテレビに求められるものとは

  • 『日本一の最低男』出演の香取慎吾

生命線であるCM収入の見通しが立たないのだから、フジテレビに最大の危機が訪れているのは間違いないところ。さらに不信感からロケの許可や撮影協力にストップがかかるなどの危機がささやかれる中、現場スタッフとキャストの奮闘で放送は続行されている。

ただ、世間の人々も「騒動と作品は別物」と思っているのではないか。事実フジテレビのドラマに対する不買運動ならぬ“不視聴運動”などは起こっていないが、悲しいかな、「面白い」「驚いた」などと話題を集めている作品はない。

現在フジテレビはゴールデン・プライム帯で日テレ、テレ朝、TBSより2作も多い5作を放送している。つまりヒットが生まれたり、話題を集めたりする確率は相当高いはずだが、ここまでどちらも成果を得られていない。

それはなぜなのか。前述した保守的路線を最も行っているのがフジテレビであり、ドラマの放送枠こそ多いが、レギュラー俳優をかなり絞った作品が目立つ。ホームページの相関図を見ると、『問題物件』は6人、『日本一の最低男』(フジ、木曜22時)は7人であるなど他局の作品より明らかに少ない。その他でも一話完結型の作品はレギュラー俳優が少なく週替わりのゲスト俳優でまかなうなど、ローコストでコンパクトなドラマが増えている。

もし本当に制作費をかけられないのなら、出演俳優を絞らなければいけないのなら、どのようにその不安を補っていくのか。これまで以上に脚本・演出の工夫が求められていくだろう。


  • 『クジャクのダンス、誰が見た?』出演の広瀬すず

  • 『ホットスポット』出演の市川実日子

  • 『東京サラダボウル』出演の奈緒

これらの傾向を踏まえた今クールのおすすめは、『御上先生』『クジャクのダンス、誰が見た?』の2作。

『御上先生』は、高校が舞台の学園ドラマと思わせつつ、文部科学省も絡めたスケールの大きさで幅広い視聴者層をカバー。御上先生が生徒たちにかける言葉は示唆に富み、『3年B組金八先生』へのセルフアンチを織り交ぜるなどの面白さもある。生徒役の若手俳優も演技力優先など随所にクオリティファーストの姿勢は称えるほかない。

『クジャクのダンス、誰が見た?』は、往年の金曜ドラマを思わせるロングミステリー。さらに家族の物語を交えることで、前期同枠で放送された『ライオンの隠れ家』と同様の高いエンタメ性を感じさせられる。

その他、『ホットスポット』(日テレ)は、脚本家・バカリズムの真骨頂。『ブラッシュアップライフ』で見せたゆるい設定と会話を一歩進めるようなプロデュースで、日曜夜の視聴に最適な感がある。

さらに『日本一の最低男』は近年少なくなった人情たっぷりの作品であり、『東京サラダボウル』はNHKならではの“外国人の事件と犯罪”という切り口が新鮮。「視聴率や先入観だけで判断して見ない」というのはもったいないだけに、TVerや各局の動画配信サービスなどでチェックしてみてはいかがだろうか。

2025年冬ドラマおすすめ5作

  • No.1 御上先生 (TBS 日曜21時)
  • No.2 クジャクのダンス、誰が見た? (TBS 金曜22時)
  • No.3 ホットスポット (日テレ 日曜22時30分)
  • No.4 日本一の最低男 (フジ 木曜22時)
  • No.5 東京サラダボウル (NHK総合 火曜22時)