主要23作がそろった2024年秋ドラマ。今回もドラマ解説者の木村隆志が、主要新作の初回放送をウォッチし、俳優名や視聴率など「業界のしがらみを無視」したガチンコでオススメ作品を探っていく。

別記事(「2024年秋ドラマ」オススメ5作&傾向分析 “超安定路線”で際立つ「日曜の難しさ」とは) において2024年秋ドラマの主な傾向を【[1]超安定路線で際立つ日曜の難しさ [2]各局きっての演出家が魅せるこだわりの映像】の2つと解説。

おすすめドラマとして、『ライオンの隠れ家』(TBS 金曜22時)、『嘘解きレトリック』(フジ 月曜21時)、『放課後カルテ』(日テレ 土曜21時)、『宙わたる教室』(NHK総合 火曜22時)、『海に眠るダイヤモンド』(TBS 日曜21時)の5作を選んだ。

本記事では、それらを含む主要23作のレビューと、目安の採点(3点満点)を挙げていく。


『嘘解きレトリック』 月曜21時~ フジ

出演者:鈴鹿央士、松本穂香、味方良介ほか
寸評:最大の強みはフジが誇るレジェンドトリオの演出。事件モノならではの不穏さは抑えめで、主人公も昭和初期の街並みも愛らしく、時を超えた親しみやすさを感じさせられる。刑事ドラマが殺人ばかりに偏る中、嘘をベースにした当作の事件は多彩。助手の嘘を見抜く力をきっかけに、探偵の推理+ハッタリで解決していくテンポも上々で、徐々に一体感が育まれていく関係性が何とも微笑ましい。近年の月9では最も評判が良く、アンチが少ない作品ではないか。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆☆】

  • 鈴鹿央士


『モンスター』 月曜22時~ カンテレ・フジ

出演者:趣里、ジェシー、古田新太ほか
寸評:型破りな弁護士は定番だが脚本にひねりを利かせている。裁判では主人公の劣勢もしっかり描かれつつ最後に逆転し、さらに怖さや笑いなどをもたらすラストシーンは驚きと意外性十分。やはり脚本・橋部敦子×演出・三宅喜重とカンテレの相性はいいのか。実際のところ、モンスターは趣里演じる主人公ではなく、週替わりの事件関係者たち。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】

  • 趣里


『Qrosの女』 月曜23時6分~ テレ東

出演者:桐谷健太、影山拓也、田村保乃ほか
寸評:作品のテーマはゴシップ。芸能界と週刊誌業界が舞台の物語だけに、どこかで見たような現実を巧みにオーバーラップさせていく。ただ、個人の人生がエンタメとして消費されていく様子や芸能界の裏話にどこまで興味を持てるか。「キュロスの女」のエピソードをもっと盛り込んでミステリー&サスペンスを加速させたいところ。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆ 期待度☆】

  • 桐谷健太 撮影:泉山美代子


『民王R』 火曜21時~ テレ朝

出演者:遠藤憲一、大橋和也、あの、満島真之介ほか
寸評:初回から「遠藤憲一劇場」に「あのちゃん劇場」を絡めて、前作の「菅田将暉劇場」に負けない対比の面白さで引きつけた。政治風刺というより政治イジリは健在で、悪ノリに近い楽しさがある。どう見ても政治家にしか見えない岸部一徳や金田明夫と、どう見ても場違いなあのや大橋など、キャストのバランスも絶妙。しかし、「入れ替わりは全国民」という何でもアリの設定は、各話の面白さにバラつきが出そう。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆】

  • 遠藤憲一


『オクラ ~迷宮入り事件捜査~』 火曜21時~ フジ

出演者:反町隆史、杉野遥亮、白石麻衣ほか
寸評:『踊る大捜査線』『ナースのお仕事』などを輩出したフジ火曜21時枠の9年ぶり復活第1弾は、反町メインのダブル主演、新旧刑事のギャップバディ、お蔵入り寸前の未解決事件など、「ほぼテレ朝仕様」のプロデュースか。刑事モノ好きに向けた作品の域を出ておらず、最もドラマ放送数の多い火曜夜で埋もれてしまった。
採点:【脚本☆ 演出☆ キャスト☆☆ 期待度☆】

  • 反町隆史


『宙わたる教室』 火曜22時~ NHK

出演者:窪田正孝、小林虎之介、伊東蒼ほか
寸評:学習障害や起立性調節障害から、家庭の事情で通学できなかった高齢者や外国人、いじめなど、定時制に通う人々の背景がしっかり描かれ、生徒役のキャスティングもリアル。主人公の教師がつかず離れずの絶妙の距離感で彼らに寄り添っている。一方で「ここはあきらめたものを取り戻す場所」「僕はこの学校に科学部を作りたい。一緒にやりませんか」などの熱いセリフが静かな感動を誘う。実話ベースの作品だけに、宇宙につながる後半の物語にも期待できそう。
採点:【脚本☆☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆☆】

  • 窪田正孝 撮影:友野雄


『あのクズを殴ってやりたいんだ』 火曜22時~ TBS

出演者:奈緒、玉森裕太、岡崎紗絵ほか
寸評:「主人公はなぜバーテンダーの男を殴りたいのか。殴るなら結婚式当日に逃げた婚約者ではないのか」。不可解な入口によって視聴者が感情移入できず迷子になってしまった感がある。メインの2人にラブコメらしい「かわいげ」が薄いのがつらいところ。本来、秋は恋愛ドラマのシーズンで、今年は主要作の中にないため、もったいない感がある。
採点:【脚本☆ 演出☆ キャスト☆☆ 期待度☆】

  • 奈緒 撮影:島本絵梨佳


『スノードロップの初恋』 火曜23時~ カンテレ・フジ

出演者:宮世琉弥、小野花梨、曽田陵介ほか
寸評:「人を愛したことがない死神×人に尽くしてばかりの女性」のピュアで切ないラブストーリー。ありがちなラブファンタジーだが、死神が初めての恋心や嫉妬などに戸惑いながらも前に進むシーンの描写にブレはない。刺激重視の恋愛ドラマ多い中、純度の高さは貴重か。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】

  • 宮世琉弥 撮影:宮田浩史