JR津軽線のうち、大雨で被災し、不通となっている蟹田~三厩間について、沿線自治体がバス転換の協議に応じる方針で一致した。最後まで鉄道復活を望んだ今別町が苦渋の末に方針転換した。JR東日本はNPO法人を設置した新しい地域交通を提案しており、他の地域のローカル線問題に影響を与えそうだ。

  • 蟹田~三厩間が不通となる前の津軽線では、青森駅から三厩駅までGV-E400系の普通列車が1往復運転されていた

津軽線の蟹田駅以北は閑散区間だった

津軽線は青森駅から津軽半島北部の三厩(みんまや)駅までを結ぶ。津軽半島を縦断する全長55.8kmの路線だが、途中駅の蟹田駅を境に様相が異なる。2022年3月改正時の時刻表を見ると、全区間を走る1日1往復の普通列車を含めて、青森~蟹田間は9往復(うち上り1本は休日運休)、蟹田~三厩間は5往復だった。

蟹田駅から北へ6.7kmの新中小国信号場からJR海峡線が分岐する。青函トンネルは電気機関車に牽引された貨物列車が走るため、津軽線の青森駅から新中小国信号場まで電化されている。ただし、電車による普通列車の運行は蟹田駅まで。蟹田~三厩間は気動車が走る閑散区間である。それは利用者数の差にも表れている。JR東日本が公開した資料を見ると、2021年度の平均通過人員は青森~中小国間の556人/日に対し、中小国~三厩間は98人/日だった。

蟹田~三厩間は閑散ローカル線の雰囲気が漂う。途中の津軽二股駅は北海道新幹線の奥津軽いまべつ駅に隣接しているものの、2019年の乗車人数は1日あたり26人。津軽線に相乗効果があるとは考えにくい。

国土交通省が定めた「ローカル線の再構築協議会」の設置基準は「輸送密度4,000人/日未満、ただし1,000人/日未満を優先」とされ、津軽線は全区間が該当する。しかし、青森駅から新中小国信号場まで貨物列車が走るため、この区間は当面存続する。線路があるなら旅客列車も運行できるという状況になっている。

一方、中小国~三厩間は利用者数が極端に少ない。JR東日本がいつ再構築協議会の設置を申し入れてもおかしくない状況だった。ただし、JR東日本はいまのところ、現役路線は維持する方針のようだ。津軽線では2002年12月頃から観光列車「きらきらみちのく津軽・八戸」、2006・2007年にリゾート車両を使った「快速終着駅号」、2010年から「リゾートあすなろ」が乗り入れるなど、観光列車も走らせていた。

その反面、災害不通期間については厳しい態度を取ってきた。2010年に岩手県の岩泉線が土砂崩れによる脱線事故から不通になったまま廃止された。2011年に発生した東日本大震災で、気仙沼線・大船渡線のうち、被災した区間がBRT(バス高速輸送システム)に転換された。同じ年の夏に豪雨で被災した只見線の一部区間もバス転換を提案したが、こちらは福島県などが復旧費用の負担と上下分離化を提案して「JR東日本が損しない」枠組みを作り、2017年に合意。2022年10月から鉄道による運行を再開した。

要するに、JR東日本の方針は「ローカル線を維持するが、被災したら復旧させない」を基本としており、只見線の復旧は例外的な事例といえる。この「自治体が出資し、JRが損しない枠組み」が、他のJR各社でも赤字ローカル線存続の模範的な事例となりつつある。

蟹田~三厩間が不通、沿線2町の意見分かれる

こうした状況の中で津軽線の一部区間が被災し、不通になった。2022年8月3~26日にかけて東北地方で記録的な大雨となり、津軽線は運休。その後、大平~津軽二股間で12カ所、津軽浜名~三厩間で1カ所、合計13カ所で盛土・道床流出、土砂流入等の被害が発生した。

  • JR津軽線の位置。赤の実線が不通区間、赤の点線が被災区間(地理院地図を加工)。本誌2023年1月30日付「不通のJR津軽線、存廃を論議へ - 津軽半島の交通再構築のチャンス」から再掲載

JR東日本はいわばセオリー通りに、「鉄道復旧よりバス転換」の方針を示した。不通から4カ月後の2022年12月、青森県と津軽線沿線市町村、JR東日本盛岡支社が参加する会議(津軽線沿線市町村会議)にて、JR東日本が「津軽線は鉄道の大量輸送のメリットを生かせていなかった」と説明した上で、「鉄道で復旧する場合は約4カ月間と約6億円の費用がかかる」ため、「鉄道以外の手段も含めた復旧を検討する方針」を表明した。

津軽線不通区間の沿線自治体である2町の意見は分かれた。蟹田~大平間の各駅と三厩駅がある外ヶ浜町は鉄道復旧にこだわらない。町長は「公共交通があって便利に使えることが目的であり、鉄道存続と混同してはいけない」という趣旨の発言をしている。一方、大平~津軽浜名間の各駅がある今別町は鉄道存続を要望した。町長は「次の世代に、しっかりと津軽線を残すことを皆さんで考えていかなくてはならない」と訴えた。

JR東日本は、「復旧費用を負担する代わりに、維持費用は自治体に負担してほしい」と提案した。これは従来の災害不通区間でも同様の対応となっている。

2024年2月に行われた会議で、JR東日本はバス転換の場合、「バスや乗合タクシーを18年以上運営する」「施設の整備や運行経費として30億~40億円を支援する」「自治体にも費用負担を求めるが、コスト減を図っていく」と提案した。将来はNPO法人を設立し、沿線自治体が運営する町営バスと一体化するという構想も示した。町営バスの重複区間を解消するなど効率化を図れば、自治体の負担も軽減できる。

青森県はこの案を容認し、JR東日本に対して、実現した場合は沿線の意見や要望に真摯に対応するよう望んだ。

今別町、苦渋の方針転換

JR東日本による「30億~40億円」の支援について、今別町長は「それだけ投資するのであれば、津軽線を復旧できるのではないか」と鉄道復旧を求めた。津軽線の復旧に約6億円かかるとすれば、残り24億~34億円。2021年度の津軽線の赤字は約5.8億円だから、鉄道が復旧しても数年しかもたない。町長の心情は理解できるが、数年の維持では持続的な交通体系にならない。

今別町には北海道新幹線の奥津軽いまべつ駅があり、町営駐車場が82台用意され、「道の駅アスクル」が隣接する。津軽線の利用者は少ないが、「道の駅アスクル」は1カ月あたり2万人が訪れる。新幹線とマイカーの恩恵を受けた町といえる。

被災直前の2022年7月から、デマンドタクシー「わんタク」も始まっている。「わんタク」はJR東日本の関連会社「JR東日本スタートアップ」が運営する乗合タクシー事業。蟹田~三厩間の各駅をはじめ、その沿線エリアと、三厩駅から龍飛岬灯台までのエリアで展開し、エリア内はどこでも乗降可能だという。運賃は1乗車あたり中学生以上500円、小学生以下は300円。予約制で、10時から15時30分までの30分間隔で手配できる。

「わんタク」は実証実験として、2022年7~9月の期間限定で実施する予定だった。しかし津軽線の被災を受けて、10月以降も延長。現在も実証実験期間を更新し続けており、JR乗車券の振替輸送も行っている。「わんタク定時便」は1日4往復、津軽線をなぞるように運行され、龍飛岬灯台や青函トンネル記念館も予約可能で観光にも使える。沿線エリアのどこでも乗降可能な「わんタクフリー便」も9~17時に営業している。津軽線の代行バスも1日4往復が継続しており、鉄道時代より運行本数が多い。

こうした状況の中で、2024年5月23日の会議で今別町長が「鉄路にこだわり続けても、沿線自治体や今別町のためにならない」として、「自動車交通への協議に応じる」という苦渋の判断を示した。

今別町長が決断に至った理由として、2024年3月に青森県から「自動車交通の転換に理解を示すよう促された」こともあるようだ。福島県は只見線維持に向けて投資したが、青森県は津軽線維持に投資しない。今別町長の悔しさに同情する。

とはいえ、朝日新聞の報道によると、昨年9月、今別町が町内全世帯に実施したアンケートで、6割を超える世帯がバスや乗合タクシーの転換を希望し、鉄道復旧を望んだ世帯は約3割だったという。実際に津軽線を利用する世帯に限れば、鉄道とバス・乗合タクシーの希望が約47%でほぼ同数だったとのこと。町長が思うほど町民は津軽線に固執していない。「わんタク」が浸透しているのかもしれない。

「NPO法人化」とは?

JR東日本が提案した「NPO法人による地域交通」は、従来の「バス転換してJRが運行する」「第三セクターを設立する」とは異なる新しいアイデアとなる。NPOは「継続的、自発的に社会貢献活動を行う営利を目的としない団体」(内閣府)であり、NPO法人はNPOのうち20分野の特定非営利活動を目的に、行政機関に認められた団体だ。20分野の中に「まちづくりの推進を図る活動」「観光の振興を図る活動」「経済活動の活性化を図る活動」があり、バス事業も該当する。

NPO法人のバス輸送にはいくつか先例がある。その中で、三重県四日市市のコミュニティバス運行NPO法人「生活バス四日市」が参考になる。「生活バス四日市」は三重交通のバス路線廃止をきっかけに、地域住民と協賛企業、三重交通が参加して設立された。この三重交通の部分をJR東日本、地域住民を自治体に置き換えるとわかりやすい。

NPO法人バスが第三セクターやJR子会社と違う点は「非営利」であること。運営維持のための収入を得ても良いが、その利益を出資者に分配してはいけない。赤字になった場合は協賛金を募る形になる。所轄庁に申請して「認定NPO法人」になれば、個人・法人から寄付を受けやすくなる。個人が寄付した場合に寄付金控除が受けられるし、法人が寄付した場合は損金算入で所得税の減額につながるからだ。

自治体や企業から独立した法人となるため、株主の利益還元を考慮する必要がなく、利用者に向き合った施策を遂行できるという利点もある。NPO法人による地域交通は新しいしくみではないものの、赤字ローカル鉄道を置き換えるしくみとしては良いアイデアだと思う。

筆者は龍飛岬にある青函トンネル記念館が好きで、これまで同館を維持するためのクラウドファンディングに2度参加した。次の訪問は「わんタク」かNPO法人バスになるかもしれない。津軽半島には森林鉄道の大路線網の跡もある。津軽鉄道もある。沿線の皆さんも津軽の魅力をもっと発信している。その魅力のひとつに新しいバスが加わるだろう。

鉄道がなくなることは喪失感を伴う。しかし、地域の人々や旅行者にとって、便利で快適な交通手段を手に入れるチャンスでもある。欲を言えば、「乗って楽しい」バスになってもらいたい。