2022年8月の豪雨で被災し、一部区間が不通となっているJR津軽線について、JR東日本、青森県、沿線自治体の協議が始まった。報道によると、JR東日本から「復旧費用は6億円、工期は最低4カ月」と見積もられたという。JR東日本としては、復旧する場合は費用を負担するとしながらも、復旧後の維持管理には消極的。自治体負担による維持と管理を含ませて「検討課題」とした。

  • JR津軽線の位置。赤の実線が不通区間、赤の点線が被災区間(地理院地図を加工)

復旧工事を実施する場合でも、春の融雪を待つ必要があるため、しばらくは現状の代行バスのままになる。JR東日本はBRTの導入可能性なども含めて協議し、2月以降に住民説明会や利用者アンケートも行うとしている。

津軽線は青森駅を起点とし、津軽半島の東岸を経由して三厩(みんまや)駅に至る路線である。途中の新中小国信号場で海峡線が分岐し、青函トンネルへ向かう。つまり、青森駅から新中小国信号場まで、本州と北海道を結ぶ貨物列車が運行されている。我が国の物流面で重要な路線といえる。

しかし、中小国信号場の手前の中小国駅から三厩駅まで閑散線区となっている。2020年度の統計データを見ると、中小国~三厩間の平均通過人員は107人/日。日本ではコロナ禍前だった2019年度も、同じく中小国~三厩間で107人/日だった。貨物列車が走る青森~中小国間も、旅客面では寂しい。2020年度の平均通過人員は604人/日。2019年度は720人/日だった。旅客営業面での津軽線は地方ローカル線、しかも赤字ローカル線だ。

JR東日本は2019年度実績で2,000人/日未満の線区について、「地域の方々に現状をご理解いただくとともに、持続可能な交通体系について建設的な議論をさせていただく」としている。国土交通省の「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」がまとめた「地域の将来と利用者の視点に立ったローカル鉄道の在り方に関する提言」では、「平常時の輸送密度が1,000人を下回るJRローカル線区」について、「国が主体的に関与して、存廃を前提としない形の協議会を設置することが適当」とされた。

津軽線は全区間で、JR東日本と国の「協議会設置」条件を満たしている。そこへ災害による被災が加わり、一部区間が不通となった。復旧するか否かも含め、他の路線より協議会設置の優先度が上がったといえる。ただし、貨物列車が走る区間の線路は残す必要があるから、存廃論議の焦点は中小国~三厩間になる。被災前の津軽線は蟹田駅を境に運行形態が分かれていたため、協議の対象は蟹田~三厩間となったようだ。

  • 三厩駅は津軽線の終着駅。隣の津軽浜名駅までに1カ所の被災があった

JR東日本によると、おもな被災区間は大平~津軽二股間の12カ所、津軽浜名~三厩間の1カ所だという。現在は代行バスに加え、予約制の乗合タクシー「わんタク」の実証実験を延長して移動サービスを提供している。筆者は協議の方向性として、次の4つになるのではないかと予想する。

(1) 津軽線存続

只見線と似た形。2022年8月豪雨は国に激甚災害と認定されたため、復旧費用の最大3分の1が国の負担になる。ただし、「長期的な運行の確保に関する計画の作成」が求められるため、被災区間は上下分離になる。線路施設は自治体が維持管理し、JR東日本は運行を受託。営業利益から線路使用料を支払うが、赤字のときは免除される。復旧も維持も、自治体が費用負担する覚悟が必要になる。

(2) BRT(バス高速輸送システム)化

東日本大震災後の気仙沼線と大船渡線に似た形。JR東日本が路線バスの高速化と定時運転を実施する。鉄道線路を廃止し、線路用地をバス専用道に改造する。運行頻度を上げ、停留所を増やすなどで便利な交通機関になる。

(3) 「わんタク」の正式サービス化

「わんタク」はJR東日本の関連会社「JR東日本スタートアップ」が運営する乗合タクシー事業。津軽線蟹田~三厩間の各駅をはじめ、その沿線のエリアと、三厩駅から龍飛岬灯台までのエリアで展開し、エリア内はどこでも乗降可能。予約制で、10時から15時30分までの30分間隔で手配できる。

運賃は1乗車あたり中学生以上500円、小学生以下は300円。今別町・外ヶ浜町在住のマイナンバーカード所有者と高齢者、障がい者、運転免許返納者も300円。「大人の休日倶楽部パス」や「青春18きっぷ」の所有者も300円になる。津軽線の不通区間代行輸送扱いとして、津軽線の定期券や乗車券を持っていれば無料で各駅間を利用できる。

1乗車500円は魅力的。蟹田~三厩間の鉄道運賃590円より安い。エリアをまたいで広範囲な利用も可能だから、蟹田駅から龍飛岬までの約42kmも500円になる。通常のタクシーだと約1万5,000円もかかる。正式サービスに移行するなら若干の値上げもやむなし。運賃制度の見直しも必要だろう。

(4) 被災区間のみ廃止

被災が甚大な大平~津軽二股間と津軽浜名~三厩間を廃止。蟹田~大平間と津軽二股~津軽浜名間は運行を継続する。

  • 津軽線津軽二股駅。ここから大平駅までの区間で道床流出、土砂流出など12カ所の被災があった

津軽二股駅は北海道新幹線の奥津軽いまべつ駅に隣接している。津軽線の津軽二股駅以北の利用者は北海道新幹線を利用すれば青森市内へ行ける。三厩駅まで復旧できればなお良し。蟹田駅側は大平駅まで運行を継続すれば、青森駅までの交通手段を確保できる。

津軽線の沿線自治体は、「高校生の通学手段」として津軽線の存続を求めている。電子地図で見たところ、高校は青森市と五所川原市に集中している。通学生のほとんどが青森駅へ向かっている。北海道新幹線を使えば、津軽線全駅と青森市を行き来できる。

自治体が北海道新幹線の定期運賃を補助する。津軽線の復旧と維持費用と新幹線定期券の補助を比較すれば、新幹線通学のほうが自治体にも通学生にも利点が多い。

津軽二股駅以北の区間は鉄道を廃止し、BRTや「わんタク」に置き換えてもいい。通学や生活手段としては、このほうが便利だろう。

■鉄道を残すために観光要素の強化を

地域輸送、とくに通学輸送を考えると、上記の(2)(3)(4)が妥当と思われる。(1)の「どうしても鉄道を残したい。上下分離でもかまわない」と考えるなら、通学輸送以外の利用者増をめざす必要がある。沿線の人々が「乗って残そう」ではなく、遠方から「乗りに来てもらおう」になる。

つまり、津軽観光の交通手段、あるいはアトラクションとしての津軽線の魅力を発信してほしい。只見線の事例が参考になると思うが、津軽線沿線からは只見線沿線のような熱意が感じられない。沿線自治体は津軽線の観光価値を真剣に考えているだろうか。近くに津軽鉄道という良いお手本があるのだが。

JR東日本も津軽線の観光利用に取り組んでいた。2010年12月以降、2017年度まで観光車両「リゾートあすなろ」も投入していた。しかし成果が見られなかったか、2018年から「リゾートあすなろ」は岩手県の盛岡~宮古間で運行される「さんりくトレイン宮古」に移ってしまった。なぜ運行が終わってしまったか。その反省と教訓を生かすべきではないか。

昨年11月、「リゾートあすなろ」2編成を「ひなび」「SATONO」に改造すると発表された。「ひなび」は岩手県・青森県、「SATONO」は宮城県・福島県・山形県で運用される。津軽線が復旧したとして、「ひなび」をどれだけ呼び込めるか。沿線自治体の観光誘致活動が重要になる。

観光客にとって、津軽半島はどんな魅力があるだろう。外ヶ浜町には龍飛岬灯台や階段国道といった有名な観光スポットがある。青函トンネル記念館は鉄道ファン以外の人にも興味深い施設だ。吉田松陰が歩いたという算用師峠、世界文化遺産の大平山元遺跡などもある。今別町は海沿いに景勝地が多く、鉄道ファン向けに青函トンネル入口広場もある。

食材も注目したい。「幻の魚、龍飛岬マツカワ(マツカワガレイ)」は青函トンネルの湧水を使って養殖するという。今別町の「いまべつ牛」も「幻の黒毛和牛」という触れ込みで宣伝されている。

せっかくこれだけの要素がありながら、津軽線を軸にした発信力に乏しい。回遊観光にも適していない。私見だが、同じ道を戻る旅より、往路と復路で変化を楽しみたい。津軽線に乗って龍飛岬まで訪れたら、帰路は東側へ出て津軽鉄道に乗って五所川原方面へ、あるいは陸奥湾フェリーで下北半島へ向かいたい。その意味で、津軽線は青森県観光のセンターラインになっているはずだが、その機能が生かされていない。残念だ。

発信力が弱い理由は、津軽線沿線に広域観光DMOがないからかもしれない。津軽山地の向こう側、五所川原市や五能線沿線では、津軽圏域14市町村による観光DMO「一般社団法人 Clan PEONY 津軽」が活動している。下北半島にも「一般社団法人しもきたTABIあしすと」がある。津軽線沿線もこのような観光DMOをつくり、津軽線を中心に据えた魅力を発信したい。津軽半島をひとつにした関係自治体の取組みを強化するために、今別町と外ヶ浜町が「Clan PEONY 津軽」に参加できないだろうか。

観光DMOが津軽半島全体で機能していれば、奥津軽いまべつ駅と津軽二股駅を交通結節点とした回遊観光ができると思う。津軽線の両側のDMOにとっても入口を増やすことにつながる。北海道新幹線の開業当初、奥津軽いまべつ駅と津軽鉄道の津軽中里駅を結ぶ路線バスがあった。しかし利用者が少なく、現在は予約制乗合タクシーになっている。

津軽線を便利な手段として残そうとしても、もっと安価で便利な手段がある。鉄道を残すなら、津軽線の楽しさを追求しよう。津軽線を残すと、どれだけ沿線地域が楽しくなるか。津軽線に誘客することで、東北新幹線の乗客を増やせるなど、JR東日本にどれだけ利点があるか。協議会は「津軽線のある地域の将来像」を示してほしい。